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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第709話 魔道具研究会の混沌03

ヴェゼルはしばらく黙っていた。机の上に置かれた試作品へ視線を落とす。


魔輝。


アージたちが生み出した、新しい魔力の伝達技術。


まだ試作段階のものだというのに、その可能性を考えれば考えるほど、ヴェゼルには一つの結論しか浮かばなかった。


そして、ゆっくりと口を開く。


「……これは、もしかすると世界を変える発明になるかもしれない」


その言葉に、部屋にいた全員の表情が変わった。


先ほどまで興奮していたアージも、研究者の目をしていたヴィオスも、ただ静かに聞いていたベルエア先生も、トレディアもクロスツアーも、ついでにプロフィアも。


誰もがヴェゼルを見る。ヴェゼルは一度目を閉じ、首を横に振った。


「いや……違うな。多分、これは……本当に世界を変える発明になる」


その瞬間、部屋の空気が変わった。


誰も言葉を挟まない。ただ、誰かが小さく息を飲む音だけが響いた。


「だから、これは今の段階では、誰にも知られないようにした方がいいと思います」


その真剣な声に、アージの顔から少しずつ興奮が消えていく。


「どうしてですか?」ヴィオスが尋ねた。


ヴェゼルは試作品へ視線を戻す。


「これは、ただ便利な魔道具じゃないからです」


少し考えてから、ゆっくりと言葉を続ける。


「今まで、遠くへ情報を届けるには、人が動くしかなかった。馬に乗った伝令を走らせる。船を出す。何人もの人間を経由して、何日も、何週間もかけてようやく情報が届く」


「でも、これが完成すれば、それが変わるんです」


ヴェゼルは試作品を指差した。


「遠く離れた場所へ、ほとんど時間をかけずに情報を送れるようになる。帝都にいながら、辺境の出来事を知ることができる。離れた領地へ、すぐに指示を送ることができる」


そこで一度、全員の顔を見る。


「そして、その力が最も大きく影響する場所がある……戦場…戦争です」


その一言で、部屋の空気がさらに重くなった。


「歴史を見れば分かります。大きな発明の多くは、人の暮らしを豊かにするだけじゃなく、争いにも利用されてきた。より強い武器を作るために金属加工が発達した。城を守るためや、より大きな軍を動かすために、建築や輸送の技術が発展した。魔法だって同じだと思います」


「人は、力を持つと、それを戦いに使おうとするんです」


ヴェゼルの声は静かだった。だが、その言葉の重さは全員に伝わっていた。


「この魔輝の技術は、武器そのものじゃない。でも、武器以上に重要なものを変える可能性がある」


「それが、情報です」


「敵がどこにいるのか。何をしようとしているのか。味方へどんな命令を送るのか。それを誰よりも早く知り、誰よりも早く伝えられる者が有利になる。今までは、情報が届くまで待つしかなかった。でも、もしそれが一瞬で届くようになれば……戦い方そのものが変わります」


アージが、呆然とした顔で呟く。「……そんなに大きなものなのか?」


ヴェゼルは迷わず答えた。


「そんなに大きなものなんです。これは軍事だけじゃない。政治も変わる。商売も変わる。外交も変わる」


「遠く離れた場所の状況をすぐに知ることができる。商人なら市場の変化をすぐに知ることができる。国同士の交渉だって、今までとは全く違うものになる。世界の距離そのものが変わるんです」


その言葉を聞いた瞬間、アージの表情から、先ほどまでの興奮が徐々に消えていく。


最初は、本当にただの偶然だった。魔石同士を近づけた時、通常では起こらない奇妙な反応が起きた。


離れた場所にある魔石が、まるで互いに呼び合うように魔力を伝え合う。それが、ただ面白かった。なぜそんな現象が起こるのか。


もっと距離を離したらどうなるのか。魔力の流れを調べれば、何か新しい発見につながるのではないか。


最初は、それだけだった。便利な道具を作ろうと思ったわけではない。


誰かの暮らしを変えようと思ったわけでもない。ただ、今まで誰も気に留めなかった小さな現象が、アージとヴィオスには不思議で、そして何より面白かった。


だから研究した。だから試した。


そして、気付いた時には、それは誰も想像していなかったほど大きな可能性を持つ技術になっていた。


アージは震える手で試作品へ触れる。小さく呟く。


「……僕は、僕はただ……この反応が面白いと思っただけだった」


いつもの明るい声ではなかった。


「まさか……自分が面白いと思って追いかけていたものが……国のあり方や、戦い方まで変えてしまうようなものになる可能性があるなんて」


その声には、喜びだけではない感情が混じっていた。


恐れ。責任。そして、自分が知らないうちに歴史を動かすものを生み出してしまったという戸惑い。


ヴェゼルは黙ってその様子を見ていた。


アージは確かに発明を楽しむ人間だろう。しかし、ただ珍しいものを追いかけるだけの人間ではない。


誰も価値を見出さなかった小さな可能性を信じ、追い続けることのできる人間だ。


だからこそ今、自分が生み出したものの大きさに震えている。


アージは、今一度試作品へ触れる。


「……僕は、とんでもないものを作ってしまったのかもしれないね」


部屋の中は静まり返っていた。


アージは試作品を見つめたまま、拳を握りしめている。自分たちが生み出したものの大きさを理解し、震えているようにも見えた。



しかし、ヴィオスの震えは別のものだった。


ヴェゼルの言葉を聞くたびに、頭の中で点と点が繋がっていく。


戦争。政治。商売。外交。どれも、自分たちが研究を始めた頃には考えもしなかったことだった。


自分たちは、ただ魔石同士が不思議な共鳴を起こす現象を面白いと思い、その仕組みを知りたくて研究を続けてきただけだ。


それが、まさかここまで大きな意味を持つ技術だったなんて。


ヴィオスの顔から、ゆっくりと血の気が引いていく。


試作品へ視線を落とす。つい先ほどまで、夢中で議論を交わしていた魔道具。


その姿は何も変わっていない。それなのに、もう先ほどまでと同じものには見えなかった。震える声が漏れる。


「……これは、ただ便利な魔道具じゃ、ない……」


誰に聞かせるでもなく呟く。


「情報が、力になる……」


その一言が、ようやく自分たちの発明の本質を理解した瞬間だった。


ヴィオスは小さな試作品を見つめ続けた。その中に秘められた可能性の大きさに、ただ息を呑むことしかできなかった。


クロスツアーだけは、震える手で必死に紙へ書き続けている。その表情には、恐怖と興奮が入り混じっていた。


その横で、プロフィアは黙ってヴェゼルを見ていた。


普段のヴェゼルなら、こんな未知の魔道具を前にすれば、まず目を輝かせる。


どういう仕組みなのか。どこを改良できるのか。もっと効率を上げる方法はないのか。


きっと、そんなことを考えているはずだった。しかし、今のヴェゼルは違った。


興味や好奇心より先に、この魔道具が持つ危険性を説明している。


自分がどれほど価値のあるものを目の前にしているのかではなく、それを扱う人間が何をするのかを考えている。


その姿を見て、プロフィアは改めて理解した。この魔道具は、本当に危険なのだ。そして、それを誰よりも理解しているのは、目の前にいるヴェゼルなのだと。


ヴェゼルはそんな三人を見る。


「だから……今すぐ外へ出すのは危険だと思う」


その言葉だけが、静かな研究室に落ちた。


「危険……ですか?」トレディアが小さく呟いた。


ヴェゼルは静かに頷く。


「うん。これは、ただ便利な魔道具が一つ増えるという話じゃない。国の力関係そのものを変えてしまう可能性がある技術なんです」


その言葉に、誰も口を挟まない。


「もし、この技術が正式に発表される前に誰かへ知られたら……欲しがる人間は必ず現れると思う。新しい技術というものは、それを作った人間にも価値がある。だからこそ、その技術を手に入れようとする人間が出てくる」


「研究者本人から無理やり情報を聞き出そうとする者が現れるかもしれない。アージさんやヴィオスさん、クロスツアーさんが捕らえられて、技術の秘密を吐くまで解放されない……そんなことだって、決してありえない話じゃない」


静かな声だった。だが、その内容は重かった。


先ほどまで自分たちが生み出した発明に目を輝かせていた者たちが、今はその発明が持つ危険性を理解し始めている。


アージは笑顔を失い、ヴィオスは青ざめた顔で試作品を見る。


クロスツアーも、先ほどまで夢中で書いていた手を止めていた。


「だから、今の段階では秘密にする必要があると思う」


ヴェゼルはそう言った。しかし、そこで終わらせることはしなかった。


少し考えてから、ゆっくりと続ける。


「でも……だからといって、この研究を止めるべきだとは思いません。むしろ、こういう大きな発明だからこそ、正しく扱える仕組みを先に作らないといけないんだと思います」


「仕組み……ですか?」ヴィオスが静かに聞き返す。


ヴェゼルは頷いた。全員の視線が集まる。


「今、授業で提案していることがあるんです。新しい技術や発明を生み出した人を、公的な機関へ登録する制度です」


少し間を置いてから続けた。


「ただ登録するだけじゃありません。その技術を最初に生み出したのが誰なのかを、国だけじゃなく、多くの国や組織が認める仕組みにするんです」


アージが目を瞬かせる。ヴェゼルは試作品を見ながら話を続けた。


「そうすれば、その人が平民でも、商人でも、貴族でも関係ありません。権力を持った人が『その発明は自分のものだ』と言って奪おうとしても、『最初に発明したのはこの人だ』という記録が残ります」


「もちろん、それだけで全てが解決するわけじゃありません。でも、少なくとも発明者が一方的に踏みにじられることは減らせるはずです」


研究室は静まり返っていた。ヴェゼルは続ける。


「今の世の中では、優れた技術を持っていても、力のある人に奪われるかもしれない。そう思えば、人はどうするでしょう」


誰も答えない。


「隠します。苦労して生み出した技術を奪われるくらいなら、誰にも見せない方がいいと思うようになる」


「そうなれば、新しい発明は世の中へ出てこなくなります」


ヴェゼルは一人一人の顔を見回した。


「だからまず必要なのは、発明した人が安心して研究できる環境なんです。その上で、発明者には正当な権利を認める。技術を利用する人は許可を受け、対価を支払う。その利益によって、発明者はまた新しい研究ができる」


「そうすれば、一つの発明が終わりではなく、次の発明へつながっていく」


ヴェゼルは静かに微笑んだ。


「発明した人を守ることは、一人を守ることじゃありません。新しい技術が生まれ続ける世界を守ることなんです」


部屋には、しばらく誰も言葉を発することができなかった。魔道具研究会に満ちていた先ほどまでの興奮は消えている。


代わりに残ったのは、自分たちが作り出そうとしているものの大きさと、それを支える仕組みの重要さへの畏れだった。


その静寂の中で、ベルエア先生がゆっくりと口を開いた。


「……ヴェゼルさん」


呼ばれて、ヴェゼルが顔を上げる。


ベルエア先生は、いつもの穏やかな笑顔ではなく、少し真剣な表情で彼を見ていた。


「あなたは、本当に魔道具を見る視点が違いますね。普通なら、目の前に新しい魔道具があれば、まず考えることは『どう作るか』です」


ベルエア先生は机の上の試作品へ視線を向ける。


「どんな術式なのか。どうすれば性能を上げられるのか。どうすればもっと効率よく動かせるのか。研究者なら、まずそこを見るものです。でも、あなたは違う。この魔道具が完成した後、誰が使うのか。その結果、何が起こるのか。そこまで考えている」


ヴェゼルは黙って聞いていた。


「魔道具は、本来、人の暮らしを豊かにするためのものです。ですが、力のある技術ほど、使う人間によって意味が変わる。便利な道具にもなる。人を助けるものにもなる。しかし、使い方を間違えれば、大きな問題を生むこともある」


ベルエア先生は小さく微笑んだ。


「あなたは、発明そのものだけではなく、その先にある世界まで見ているのですね」


その言葉に、ヴェゼルは少し困ったような顔をした。


「……前に、似たようなことを考えたことがあるだけですよ」


しかし、その場にいた誰もが思った。


それだけではない。目の前にいる少年は、魔道具を作る人間ではなく、その魔道具が生み出す未来まで考える人間なのだと。


その後ろで、クロスツアーだけが震える手で再び紙へ筆を走らせていた。


そして、最後に二つの文章を書き残した。


――この発明は、世界の距離を変えるかもしれない。


少し間を置いて。その下に、もう一つ。


――しかし、扱う者を間違えれば、世界を変える力は、世界を壊す力にもなる。



うーーん。うまく書けませんなぁ。。

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