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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第705話 ソラーラ・チェロキー02

授業を終えたソラーラは、廊下で腕を組みながらヴェゼルが教室から出てくるのを待っていた。


だが、教室の中ではまだ話し声が続いており、ヴェゼルはなかなか姿を見せない。


(……遅いな)そんなことを思っていると、先に教室の扉が開き、一人の少女が出てきた。


ナディアだった。今回、同じ班になったバルカン帝国の伯爵令嬢である。


その表情はどこか柔らかく、ほんのり頬が上気しているようにも見えた。


(……まさか)ソラーラの眉がわずかに寄る。


(やっぱりヴェゼルって、噂どおりなのか。早速ナディアにまで声をかけたのかな……)


そう考えたものの、すぐに頭を振る。(いや、決めつけるのはよくないよな)


つい先ほどまで、自分自身が噂だけでヴェゼルを判断していたことを思い出したからだ。


そんなことを考えていると、再び教室の扉が開く。


今度はヴェゼルと、その隣にはニーヴァの姿があった。


ヴェゼルは廊下で待っていたソラーラに気付くと、少しだけ驚いたように目を瞬かせる。


「ソラーラさん? どうしたの?」


穏やかな声だった。


ソラーラは腕を組んだまま一度だけ視線を逸らし、小さく息を吐く。


「……少し話がある。時間、いいか」


「もちろんいいよ」ヴェゼルはすぐに頷いた。


その様子を見たニーヴァが、気を利かせるように一歩下がる。


「では、わたくしは少し離れておりますね」


ところが、その言葉を聞いたソラーラは慌てた。


「い、いや! 別に追い払うつもりじゃない!」


思わず声が大きくなる。


「その……聞かれて困るような話じゃないからな」


少し照れくさそうに付け加えると、ヴェゼルはくすりと笑った。


「そっか」


その笑顔を見て、ソラーラは少しだけ肩の力を抜く。


しかし、ニーヴァは気を利かせて少しヴェゼルたちと距離を取った。


しばらく沈黙が流れた。


やがてヴェゼルが口を開く。


「最初に会った時さ、ソラーラさん、俺のこと睨んでたよね?」


ソラーラが顔を上げる。核心を突かれ、ソラーラは言葉に詰まった。


「……ああ。あの時は……その……悪かったな」


少しだけ間を置き、頭を掻く。ぶっきらぼうではあったが、それでも精いっぱいの謝罪だった。


そして照れ隠しのように続ける。


「あと、『さん』付けもやめてくれ」


ヴェゼルは少しだけ考えるような顔をした。


「じゃあ……叔父さん?」悪戯っぽく笑う。


「なっ! ち、違う! その呼び方だけはやめろ!」


ソラーラは一瞬で顔を真っ赤にした。思わず一歩前へ出る。


「普通に呼び捨てでいい! ……いや、それが嫌なら『君』でもいいから!」


必死な様子に、ヴェゼルは吹き出しそうになるのを堪えながら頷いた。


「分かった。じゃあ、ソラーラ君。君も俺のことは好きに呼んでいいよ。呼び捨てでも、『君』でも」


にこりと笑う。そして少しだけ悪戯っぽく目を細めた。


「……まあ、俺は、ソラーラ君の甥っ子になるわけだから、呼び捨てでも良いしね?」


その言葉に、ソラーラは再び顔を赤くする。


「だから、その話はするなよ!」


思わず声を荒らげたものの、ヴェゼルは楽しそうに笑っているだけだった。


(……なんだ、こいつ)ソラーラは思わずヴェゼルの顔を見つめる。


笑った時の表情は驚くほど柔らかく、整った顔立ちも相まって、噂で思い描いていた乱暴者とはまるで別人だった。


(……ヴェゼルって、本当に男の子なのかな…笑うと……なんか、可愛いな)


そんな考えが、ふと頭をよぎる。


自分でそう思ってしまった瞬間、ソラーラは慌てて視線を逸らした。


(……俺は何を考えてるんだ)



後ろでは、少し離れた場所で見守っていたニーヴァが、そのやり取りに思わず「くすっ」と小さく笑った。


その笑顔が目に入った瞬間、ソラーラはさらに顔を赤くする。


(くそっ……見られたか)


咳払いを一つすると、照れ隠しのように視線を逸らした。


「……別に、お前個人を嫌っていたわけじゃ……いや、なくはないけど…」


自分で言っていて何を言いたいのか分からなくなる。


ヴェゼルは黙って続きを待っていた。


「勝手に噂を信じてただけだ。だから……その……悪かった」


少しだけ間を置く。


ようやく口にした謝罪だった。


ヴェゼルはあっさりと笑う。


「そんなこと? いろんなところで、いろいろ言われてるからさ、気にしてないよ」


その反応に、ソラーラは拍子抜けした。


穏やかな笑みのまま続ける。


「理由も何となく分かったしね。プレセア母さんの弟だもんね、それなら仕方ないよ」


「……は?」


責められるとばかり思っていたソラーラは、思わず目を瞬かせた。


ヴェゼルは何事もなかったかのように右手を差し出す。


「改めてよろしくね、ソラーラ君」


その笑顔には、もう先ほどまでのわだかまりなど欠片も残っていなかった。


「……」


ソラーラは少しだけ迷い、ぶっきらぼうにその手を握る。


その瞬間だった。(……硬いな)


思わず驚く。


少女と見紛うほど整った顔立ちとは裏腹に、その手には剣だこが幾つもできていた。


何年も剣を振り続けた者だけが持つ手だった。


(本当に鍛えてるんだな……)思わず感心してしまう。


気付けば、手の感触を確かめるように握ったり離したりを繰り返していた。


ヴェゼルが不思議そうに首を傾げる。


「ソラーラ君?」


「あっ! べ、別にお前に深い意味はないからな!」


慌てて手を放す。顔を真っ赤にしながら慌てて言い訳を始める。


「お、お前と親戚になるからって、仲良くしようなんて思ってないからな!」


少し間を置いて、小さく付け加えた。


「……でも、お前がどうしても俺と仲良くしたいって言うなら……してやってもいい」


いかにもソラーラらしい言い方だった。


ヴェゼルは思わず吹き出す。


「うん。じゃあ、これから仲良くしようね」


そう言って笑う。


「プレセア母さんのことも話したいし、妹のヴィータのことも話したいからさ」


その言葉に、ソラーラは少しだけ表情を緩める。


「……べ、別に聞きたいわけじゃない」


腕を組み直す。


「でも、お前がどうしても話したいって言うなら、聞いてやってもいい」


その態度に、ヴェゼルはまた笑った。


少し離れた場所で見守っていたニーヴァが、目をきらきらと輝かせる。


「さすがヴェゼル様です!」


「……何が?」ヴェゼルが首を傾げる。


「ちゃんと許して差し上げるなんて、とても立派ですわ!」


ニーヴァは感心したように両手を胸の前で組んだ。


「謝られても許せない方はたくさんおりますもの。特に貴族の方は、表向きは笑っていても心の中では根に持つことも珍しくありませんわ」


そして今度はソラーラへ向き直る。


「それに、ソラーラ様も本当に立派です」


「……俺が?」思わず聞き返す。


「はい!」ニーヴァは満面の笑みで頷いた。


「自分の非を認めて、きちんと謝れる方は本当に素敵ですわ。悪いと思っていても、謝れない方はたくさんいらっしゃいますもの」


そこに打算は一切なかった。心からそう思っているのだと、一目で分かる笑顔だった。


(……え?)ソラーラは固まった。


そんなふうに褒められたことなど、一度もなかった。


今まで周囲が見ていたのは、『チェロキー家の次男』『大評議長の息子』


そんな肩書きばかりだった。だがニーヴァは違う。


肩書きではなく、自分が謝ったこと、その行動そのものを見てくれていた。


さらにニーヴァは微笑む。


「きっとプレセア様も安心なさいますわ。ソラーラ様は、とてもお優しい方なのですね」


(……優しい?)その言葉が胸の奥へ静かに染み込んでいく。


人生で初めて言われた言葉だった。


ソラーラは特に人に対して素直になれない性格になった。見栄を張り、人の言葉をそのまま受け止めることが苦手だった。


思えば、その始まりは四年前だったのかもしれない。母代わりだった最愛の姉と、あんな別れ方をしてしまった日。


あの日以来、人と距離を置くようになった。


相手の言葉を素直に信じず、一歩引いて物事を見る癖がついた。気付けば、一人でいる方が楽になっていた。


大評議長の息子なら、本来は多くの側近や取り巻きがいてもおかしくない。


それでもソラーラは、自ら距離を置き、いつも一人でいることを選んでいた。


そんな自分とは対照的に、ヴェゼルの周囲にはいつも誰かがいた。


女性が多いのは少しどうかと思うけど。


それでも皆が自然に集まり、笑い合っている。その光景を見ていると、少しだけ羨ましくなる。


同時に、理由も分からず少しだけ腹が立っていた。


(……なんなんだ、それ)自分でも苦笑してしまう。


その横でヴェゼルが笑った。


「ニーヴァさんは、人のいいところを見つける才能があるよね」


するとニーヴァはぶんぶんと首を振る。


「そんなことありません!」


そして顔を真っ赤にして続けた。


「で、でも、ヴェゼル様にそんなことを言っていただけるなんて……今日は人生最良の日ですわ!」


ヴェゼルは呆れたように笑う。


「ニーヴァさん、それ昨日も言ってなかった?」


「え?」


「俺が顔を洗ったあと、『洗いたてのお顔も素敵ですわ! それを間近に見れるなんて、今日は人生最良の日です!』って」


「…………」


「一昨日は『朝のご挨拶をしていただけました! 今日は人生最良の日です!』だったよね」


「…………」


「その前は――」


「も、もうおやめくださいませ!」


ニーヴァは真っ赤になって耳まで染める。


ヴェゼルは楽しそうに笑っていた。


その様子を見ていたソラーラは、思わず吹き出す。


「……なんなんだ、お前たちは…」


そう呟きながらも、その口元には自然と笑みが浮かんでいた。


早っ! もう和解。若いなぁ。。

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