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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第700話 商業の授業02

議論が始まると、それまで静かだった教室が一気に活気づいた。


ニーヴァは次々とノートへ書き留めていく。

「欲しい物が売っていないことがあります」

「町によって値段が全然違いますわ」

「市場の日しか買えないのは不便だと思う」

「雨の日は店を開けない商人も多いね」

「商人によって言う値段が違う」

「重さをごまかす者もいる」

「品質が良いのか悪いのか、見ただけでは分からない」

「盗賊がいるから護衛代が高くなる」

「関所の税が多すぎる」

「橋が少なくて遠回りになることもあります」

「商人同士で情報が共有されていないのも問題じゃないかな」

「売れ残る品が多いのは勿体ないね」


ナディアも静かに意見を加えた。


「領地ごとに税や通行料が違い過ぎますわ。商人の方々は、かなり苦労されていると聞きます」


「申請する書類も多いそうです」


ニーヴァも恐る恐る手を挙げる。


「私は、お店ごとに値段が違うので、どこで買えばいいのか分からなくなります。それに、初めて入るお店は少し怖いです……」


どれも実際にありそうな話ばかりだった。


そんな中、腕を組んで黙っていたソラーラが低い声で呟く。


「結局、一番の問題は信用だ」


全員の視線が向く。


「商人の言うことを信用できない」


その一言で教室は静まり返った。


品質をごまかす者もいる。偽物を売る者もいる。重さを偽る者もいる。


買う側には、それを見抜く手段がほとんどない。


「……確かにな。信用か」


ビアンテが小さく頷く。


少し考え込んでから、ヴェゼルへ視線を向けた。


「そういえば、ビック家は近年いろいろな新しい魔道具を売り出しているよね。実際に商売をしていて、困っていることはあるのかい?」


ヴェゼルは少しだけ考え、静かに答えた。


「一番困るのは偽物かな」


「偽物?」


ビアンテが身を乗り出す。


「うん。新しい魔道具を作って販売すると、すぐに真似をする人が現れるんだ」


教室の全員が耳を傾ける。


「もちろん、似た商品が増えること自体は悪いことじゃない。競争があれば価格も下がるし、技術も発展するからね」


「でしたら、何が問題になりますの?」


ナディアが首を傾げた。


「問題は、開発した人と全く関係のない人が、そのまま真似をして利益だけを得てしまうことなんだ」


ビアンテが小さく頷く。


「……ああ、もしそれが続けば、誰も時間やお金をかけて新しい物を作ろうと思わなくなるかもしれないな」


ナディアが小さく息を呑んだ。


「だから僕なら、新しく考えた仕組みや道具には、一定期間だけ“考えた人の権利”を認める制度を作る」


「権利、ですか?」


「例えば、この魔道具は最初にビック家が考えた――と国が正式に証明するんだ」


「なるほど。誰が最初に作ったかを記録するわけだね」


ビアンテが理解したように言う。


「そう。そして他の人がその技術を使いたいなら、考えた人へ使用料を払えば使えるようにする」


「使うこと自体は禁止しないのですの?」


「禁止してしまうと技術が広まらないからね。大切なのは“考えた人が正当に報われること”なんだ」


「つまり、使いたい人は使える。ただし最初に考えた人へ対価を払う、と」


「うん。そうすれば新しい物を作る人も増えるし、使う側も安心して技術を利用できる」


そこでソラーラが初めて口を挟んだ。


「だが、本物と偽物はどう見分ける」


ヴェゼルは頷く。


「そこも同じだね。国や商会だけじゃなく、できれば国を越えて共通に認められる機関が必要だと思う」


「その機関が『これは正式に登録された品です』『これは登録されていません』と証明するんだ」


「そうすれば購入する人は安心して買えるし、商人も信用を得られるわけですわね」


「発明した人も利益を受け取れる。そして真面目に物作りをしている人ほど報われる仕組みになると思う」


ヴェゼルは少し間を置き、最後に静かに言った。


「つまり、守りたいのは発明そのものじゃなくて、人の努力と信用なんだ」


「それが守られれば、新しい技術は生まれ続けるし、商売も健全になる。売る人、作る人、そして買う人――その全員が利益を得られる仕組みになると思う」


教室はしばらく静まり返っていた。


やがてビアンテがゆっくりと頷く。


「……なるほど」


ナディアも感心したように目を見開いた。


「その考え方は、今まで聞いたことがありませんわ」


ソラーラも否定の言葉を口にしない。


腕を組んだままヴェゼルを見つめ、静かに一度だけ頷いた。


そしてニーヴァは夢中になって羽ペンを走らせながら、小さく呟く。


「これは……絶対に書き残しておかないといけません……よ…ね?」






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