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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第693話 アビーの従者達

〈インスピラ司教視点〉


今回、教皇猊下の留学に同行してきた従者は多い。


もっとも、最初からアトミカ教がこの留学に賛成していたわけではない。


むしろ逆だった。


アビー教皇猊下がバルカン帝国学院への入学を望まれたとき、教団上層部の反応は反対一色だったのである。


特に原理派の反発は激しかった。


理由は明白だ。


猊下の(元)婚約者であるヴェゼル・パロ・ビックが同じ学院へ入学すると分かっていたからである。


私は噂話にあまり興味がない。研究者にとって重要なのは事実であり、風聞ではないからだ。


だが、その私の耳にまで届くほど、彼の悪評は広まっていた。


女好きでその異名がスケコマシ。他に鬼畜の冷血漢・乱暴者・殺戮の人間魔道具。


実際にもクルセイダーを数百人殺し、その父と従者の三人で教国を敗北に追い込み、精霊様と妖精様を我がアトゥミカ市国へと追放した親子。


男には容赦なく拳を振るい、見目の良い女性を見れば手当たり次第に口説き我が者とする。


中でも妖精を手籠にしたと聞いた時は驚いた。それも一柱だけでなく数柱の妖精を侍らせていると言う。


どこまでが真実でどこまでが尾ひれなのかは分からないが、噂に疎い私にまで届いているのだ。


だが少なくとも原理派の者達は、その噂を概ね信じていた。


「そのような危険人物がいる学院へ教皇猊下を送るべきではない」「ただでさえ猊下は見目麗しいのに、魔物の前に生肉を放る様なことをするべきではない」


当然ながら、そのような意見が多数を占めた。


しかし、そこで反対したのが聖職派だった。彼らは教育の重要性を説いたのである。


教皇といえど、まだ十二歳の少女に過ぎない。


学問を学び、人と交わり、社会を知ることは必要不可欠だと。基礎学力の習得。協調性の育成。社会常識や市井生活への理解。


将来、生涯にわたって教皇として民を導くのであれば、閉ざされた神殿の中だけで育つべきではない。


その主張には説得力があった。さらに聖職派はこう続けた。元婚約者が問題ならば、護衛を付ければ良い。


助祭に扮したテンプル騎士団を配置し、司祭や司教が常に周囲を固めれば良い。


教皇の周囲を完全に管理すれば、仮に噂が真実だったとしても近づくことすらできない。その意見に反論できる者は多くなかった。


そして今度はアトゥミカ市国派が賛同に回る。


今回の留学には各国の王族や高位貴族の子弟も数多く入学するという情報があったからだ。


彼らにとって重要なのは信仰だけではない。


物流。金融。商業。人脈。将来の顧客や協力者との関係構築もまた重要な資産である。


若き王族や貴族との交流は、アトゥミカ市国の将来にとって大きな利益を生む可能性があった。


そして巡礼派も賛成した。彼ららしい理由だった。教皇もまた世を知るべきである。


民の生活を知り、人々の苦楽を理解すべきである。巡礼派は昔からそういう考え方をする。


豪奢な神殿よりも土の道を好み、権威よりも民衆を重んじる者達だ。


結果として、猊下の留学は賛成派が多数を占めることとなった。


こうして教皇猊下の留学は正式に決定されたのである。


もっとも、本当の問題はそこからだった。決定するのは簡単だ。しかし、実行するのは難しい。


なにしろ三年間である。三日でも三十日でもない。三年間。


教皇に付き従い、異国で生活し、責任を負い続ける人材を確保しなければならない。


しかも何か問題が起きれば責任問題になる。志願者など現れるはずもなかった。


各派閥の上層部は互いに顔を見合わせ、誰かが手を挙げるのを待った。


そして誰も手を挙げなかった。実に見事なまでに。


その結果、話は私のところへ回ってきたのである。今思い返しても、あれは非常に理不尽な裁定だった。




ここで少し説明しておこう。


外部の人間にはよく誤解されるのだが、アトミカ教という組織は決して単純ではない。


一枚岩どころか、その実態は大きく二つの組織が重なり合った巨大な複合体と言ってよい。


一つは、この世界唯一の宗教であるアトミカ教。


そしてもう一つが、アトゥミカ市国だ。


市国は収納魔法使い達を傘下に収め、世界中の物流を支配している。物資の輸送、商業、金融、倉庫管理、そのどれを取っても彼らの影響を受けない国は存在しない。


食料が運ばれるのも、鉱石が流通するのも、軍需物資が届くのも、その多くは市国の物流網を経由する。


結果として、市国は莫大な富を蓄積した。さらに彼らは独自の武力としてテンプル騎士団を保有している。


金があり、物流があり、軍事力まで持つ。


一国家として見ても十分すぎるほどの力を有していると言ってよい。だからこそ、外部の者はしばしば勘違いする。


アトゥミカ市国こそがアトミカ教を支配しているのだと。だが、実際は少し違う。確かに市国は巨大な影響力を持つ。


しかし教団の中枢に座るのは別の勢力だ。


最大派閥であり最古の派閥、原理派である。


各地の神殿。司教。司祭。助祭。長い歴史の中で築かれた教団組織。


それらの多くを掌握しているのは原理派だった。


金と武力(テンプル騎士団)なら市国。だが権威と人員なら原理派。だからこそアトミカ教は複雑なのだ。


経済だけで動くわけでもなければ、教義だけで動くわけでもない。


そこに聖職派、聖霊派、巡礼派、改革派などの派閥が絡み合い、それぞれが異なる思惑で行動している。


教団の会議など、時に一つの国家の政争より複雑になることすらある。


そして今回の教皇猊下の留学もまた、そうした派閥同士の思惑がぶつかり合った末に決まったものだった。




今回の人員は以下の通りに決まった。


まず、教皇猊下がまだヴェクスター男爵令嬢であった頃から仕えるオースター殿。


元はアトミカ教の司祭であったが、ある事情から教団を離れ、現在はヴェクスター家の従者として猊下を支えている。猊下にとっては師でもあり、側近でもあり、時には父親代わりのような存在でもある。


同じく男爵令嬢時代から仕える侍女のランツェ。猊下への忠誠心は非常に強く、何かあれば真っ先に動く猫族の侍女だ。


そして、今回は猊下が女性であることもあって、従者の構成は女性が多い。


司祭にはクーリア(女)、セニック(女)、クライダー(男)。


助祭は全員テンプル騎士団の精鋭がついている。テンプル騎士団所属の騎士隊長カッパーヘッド(男)、騎士のグレイス(女)、キャラミ(女)。そして光の精霊より猊下に与えられた妖精ネリネ。


そして最後に私、司教インスピラ(男)。


形式上は私がこの一団の責任者ということになっている。もっとも、それはあくまで形式上の話でしかない。


私は元来、人をまとめることに向いた人間ではない。


収納魔法の研究、転移魔法理論の検証、魔力構造の解析。そうした机に向かう仕事ばかりを続けてきた。研究室に籠もり続けることなら数日でも苦にならないが、司祭や助祭を束ねて行動するとなると話は別だ。


本来であれば今回の留学に同行するはずではなかった。


教団上層部が同行する司教を募ったらしいが、誰一人として手を挙げなかったのである。


当然だろう。教皇猊下の留学など責任ばかり重い。


失敗すれば責任を負わされ、成功しても大きな功績にはなりにくい。


結果として最小派閥である改革派に属する私のところへ話が回ってきた。


断ろうと思った。だが、「無事に任務を終えれば研究費を大幅に増額する」という条件を提示されてしまった。


研究者にとって研究費とは生命線である。


気付けば私は任命書に署名していた。実に不本意な話だ。


もっとも、実際に猊下と行動を共にするようになってからは、当初抱いていた印象も少し変わった。


教皇猊下、アヴェニス・ヴェクスター様はまだ十二歳だ。


年齢だけを見れば、ようやく子供から少女へ変わろうという時期でしかない。


それにもかかわらず、教皇という重責を背負い、毎日懸命に職務を果たしている。


知らないことも多い。経験も足りない。失敗することもある。


それでも投げ出さず、一つずつ学びながら前へ進もうとしている。


私はそんな姿を何度も見てきた。正直に言えば、少し感心している。いや、感心という言葉では足りないかもしれない。


いつの間にか、猊下の力になれればと思うようになっていた。


そして猊下の傍にはオースター殿がいる。あの方は極めて優秀だ。


元司祭で、アトミカ教の司祭をやっていたときには、次代の大司教候補と言われた逸材だったらしい。そのため、教団組織を熟知しており、猊下が迷えば助言し、誤れば諭し、必要とあれば厳しく指導する。


猊下が今日まで大きく道を外さずに歩めているのは、オースター殿の存在が大きいだろう。私ですらそう思う。


また、他の司祭や助祭たちも少しずつ変わり始めていた。


最初は命令だから従っていた者も多かった。だが猊下の人柄に触れ、今では自ら支えようと考える者が増えている。


まだ完全ではない。派閥の思惑もある。利害もある。


アトミカ教は決して一枚岩ではないのだ。


アトゥミカ市国派、原理派、改革派、聖職派、聖霊派、巡礼派、そして生まれ始めたばかりの教皇派。


それぞれが異なる考えを持ち、それぞれの目的のために動いている。


今回の留学もまた、その思惑が複雑に絡み合った結果に過ぎない。


だが少なくとも、この場にいる者たちは少しずつ一つの集団になりつつあった。


研究者の私に人の心はよく分からない。それでも今なら分かる。


この一団は、ようやく同じ方向を向き始めているのだと。



【 アトミカ教:派閥 】

原理派:(人数:★★★★★)

・初代教皇の教えを絶対視する最大派閥。

・教義と伝統を重視

・各地の神殿や司祭、助祭の大半が所属


聖職派:(人数:★★★★)

・孤児院・病院・教育・慈善事業などの運営


聖霊派:(人数:★★★)

・教義よりも精霊を重視

・神託を優先


アトゥミカ市国派:(人数:★★★)

(テンプル騎士団所属)

収納魔法使いを傘下に、世界の物流を支配する。経済・商業、金融、運送と多岐に渡る。

アトミカ教最大の財力と武力を持つ。


巡礼派:(人数:★★)

・清貧・禁欲・修行・巡礼


改革派:(人数:★)

・初代教皇本人が創設

・収納・転移魔法研究

・魔法全般を研究

・トランザルプ派の一部が残った派閥


教皇派:(人数:最小)

・各派閥からごく少数が最近流入

・アビーを盲信


トランザルプ派:(トランザルプ神聖教国を建国)

・元は収納魔法の研究の本流はこちらだったが今は廃れている







結構まとめるのに時間が。。

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