第679話 入学式04
2026年6月6日午前10時過〜10時30分までの間、
お読みいただいた方、申し訳ありません。
第678話〜第700話の順番が前後しておりました。
その後も講堂は落ち着く気配を見せなかった。
「教皇様の従者に手を出したって本当か?」「スケコマシって噂、やっぱり本当なのね」「いや、なんで教皇様の従者なんだよ……」
あちこちからそんな囁きが聞こえてくる。ヴェゼルは苦笑いを浮かべた。
――これはランツェ、しばらく会場に入れないだろうな。
騒動の中心人物になってしまった以上、今この場へ現れれば何を言われるか分からない。
右隣ではプロフィアが半ば呆れたような顔をしていた。もはや驚くことすら諦めたような表情である。
一方、左隣のエストレヤは何度もこちらを見ていた。聞きたいことが山ほどあるのは明らかだったが、今は周囲の視線がヴェゼルへ集中しているため口を挟めないらしい。
そんな中、人混みをかき分けるようにラングラーとコーティナがやって来た。
ラングラーはヴェゼルを見るなり肩を竦める。
「相変わらずだな、ヴェゼル」
「俺もそう思うよ」ヴェゼルが即答すると、コーティナが面白そうに口元を緩めた。
「さすがね。今度は教皇様の従者にまで手を出したの?」
「だから、その言い方やめてくれない?」即座に否定したものの遅かった。
周囲の生徒たちが一斉にこちらを見る。
「やっぱり本当なのか?」「本人の知り合いが言うなら確定じゃない?」「すごいわね……」
勝手な憶測がさらに広がっていく。ヴェゼルは額を押さえた。
そんな様子を見ていたコーティナは楽しそうに笑っていたが、不意にエストレヤの存在へ気付いた。
ラングラーも同時に気付いたらしい。
二人は反射的に背筋を伸ばした。皇女を前にしたのだ。
正式な挨拶をしようとしたその時、エストレヤが先に手を振った。
「待って。あなたたちも新入生でしょう?」
柔らかな笑顔だった。
「だったら、この学院では皆同じよ。私のこともエストって呼んでね」
あまりにも気安い言葉に、ラングラーとコーティナは思わず顔を見合わせる。
そして少し安心したように笑った。
「それなら助かります。正直かなり緊張していましたから。ですが、思っていたよりずっと話しやすそうな方で安心しました」
エストレヤはくすりと笑った。
「敬語もいらないわ。すぐには難しいでしょうけどね」
そう言ってから、少し悪戯っぽい表情になる。
「それに、ヴェゼルと気軽に話している時点で、私たち長い付き合いになりそうじゃない?」
その言葉に場の空気が和らいだ。コーティナも自然と笑みを浮かべる。
だが次の瞬間、エストレヤの表情が少しだけ陰った。
「でもね、私の立場も知っているでしょう?」
声が僅かに小さくなる。エプシロン皇妃が皇宮を離れていること。シェルパがラモンエス姓を名乗っていないこと。
そして、帝国上層部から疎まれているビック家と行動を共にしていること。
エストレヤと親しくするということは、それだけで余計な噂や政治的思惑を呼び込む可能性があった。
「だから先に謝っておくわ。ごめんなさいね」
しかしコーティナはあっさり首を振った。
「何を今さら言ってるのよ。さっき自分で言ったじゃない。この学院は公平なんでしょう?」
エストレヤが目を瞬く。
コーティナはそのまま続けた。
「親が誰かとか、どこの家かとか、そんなことで友達を選ぶつもりはないわ」
ラングラーも頷く。
「俺も同じだな」
そう言って少し照れくさそうに頭を掻いた。
「だから、その考え方なら安心した。エストって呼んでもいいか?」
エストレヤの顔に笑みが戻る。
「ええ、もちろん。よろしくね、ラングラーくん」
「こちらこそ」
穏やかな空気が流れる。
その時だった。
ラングラーが後方にいた少年へ目を向ける。
「あれ? フルフェンスももうヴェゼルと一緒なんだな」
するとフルフェンスは待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「当然だろう! 俺は自他共に認める、唯一無二のヴェゼルの親友だからな!」
無駄に大きな声だった。周囲の視線がまた集まる。
ヴェゼルは小さくため息を吐く。
「唯一無二は初耳だし、俺が親友だって言った記憶もないんだけど」
「細かいことは気にするなよ! な、親友!」
満面の笑みで言い切るフルフェンスに、エストレヤが思わず吹き出した。
コーティナも肩を震わせ、ラングラーまで笑い始める。
騒がしい。
だが、不思議と悪い気分ではなかった。
入学式が始まったばかりだというのに、いつの間にか周囲には笑い合える仲間たちが集まっていたのだから。
入学式まで、中々辿りつけん!!!! なぜだ!!
すんません。。。




