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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第676話 入学式01

そして、入学式当日の朝を迎えた。


トレノとアプローズが気を利かせてくれたおかげで、妖精たちにも学院の制服が用意されていた。


もちろん妖精用の制服など最初から存在するはずもない。


二人がバネット商会の縫製部へ頼み込み、大急ぎで仕立ててもらったのである。


もっとも、縫製部の職人たちは迷惑がるどころか大いに盛り上がったらしい。


妖精の服を作るなど前代未聞だ。しかも実際に妖精たちが採寸のために顔を出したことで、職人たちの熱意に火が付いた。


結果として制服だけでは終わらなかった。気付けば普段着まで何着も作られていたのである。


妖精達全員が喜んでいた。


「かわいい!」「こっちもかわいいです!」「素敵だね!」「僕のはお腹を緩めに作ってもらった!」


新しい服を次々に着替えては見せに来る。


サクラも一応は礼を言った。


「ありがとう」


だが続く言葉は実にサクラらしかった。


「でも私は新しい味のクッキーの方が嬉しいかも」


どうやら彼女の中では、おしゃれより食欲の方が優先順位が高いらしい。


そんな妖精たちの中でも、特に浮かれていたのはおしゃれ番長ルーミーだった。


朝から落ち着きがない。


「みてください!」くるり。「せいふくです!」くるり。「かわいいです!」


さらにくるり。「皆さんとお揃いですー!」


そのたびに裾を摘まんでは見せびらかしている。


ジャスティも楽しそうだったが、ルーミーのはしゃぎようは別格だった。


もっとも、妖精用の制服にはいくつか工夫も施されている。


背中には羽を傷つけないための切れ込みが設けられ、飛び回っても邪魔にならないよう調整されていた。


さらにサクラたちのスカートの下には、ヴェゼルの提案で短いスパッツのようなものも用意されている。


妖精たち自身はその必要性を全く理解していなかった。だがプロフィアだけは即座に賛同し、むしろ強く推していた。果ては本人も欲しいという始末。


結果として、妖精たちの制服は見た目の可愛らしさと実用性を両立したものになっていた。


制服姿の妖精たちは実に愛らしい。おそらく学院中の注目を集めることになるだろう。


そんな妖精たちを連れて、ヴェゼルは金冠館を出ようとする。




しかし、ここで一つ問題があった。


妖精たちが最初から周囲を飛び回れば、とんでもなく目立つのだ。


入学式の日に余計な騒ぎを起こしたくはない。そこでヴェゼルは出発前に全員を集めた。


「みんな、入学式が始まるまではバッグかポケットの中にいてね」


妖精たちは一斉に視線を向ける。


「はーい!」「わかりました!」「なのです!」「うん」


素直な返事が返ってきた。


そもそも今回学院へ来るにあたり、妖精たちとは一つ約束をしている。


――学院にいる間は、ヴェゼルの指示に必ず従うこと。


それが連れてくる条件だった。妖精たちもその約束はしっかり覚えている。


普段は自由奔放ななのだが、こういう約束事は意外と守るのだ。


サクラも胸ポケットへ潜り込みながら小さく欠伸をした。


「分かってる。問題を起こすな、でしょ」


そう言いながら既に眠そうである。


ヴェゼルは苦笑した。


「そういうこと」


こうして妖精たちはバッグやポケットへ収まり、ようやく出発の準備が整った。


もっとも――。


彼女たちが本当に一日中大人しくしているかどうかについては、ヴェゼルもあまり自信がなかった。




金冠館のエントランスへ向かうと、プロフィアが既に待っていた。


朝日に照らされた広間にはまだ人影もまばらで、入学式を前にした独特の静けさが漂っている。


「おはようございます」


プロフィアが微笑みながら声を掛けてくる。


「おはよう」


ヴェゼルが返事をした、その時だった。


ちょうど同じタイミングで二人の少女もこちらへ歩いてきた。


「よう! おはよう!」


「お、おはようございます」


ダイナとトレディアである。


二人は金冠館の女子寮側から並んで歩いてきていた。


挨拶を交わしながら歩き始める。するとヴェゼルは、ふと気になっていたことを口にした。


「そういえば、トレディアさんって結構良いところの出なんですか? 金冠館なんですね?」


昨日から何となく感じていた違和感だった。


所作や言葉遣いは明らかに良家の令嬢のものだ。だが、それ以上の何かがあるような気もしていた。


すると答えたのはトレディアではなくダイナだった。 不思議そうに首を傾げる。


「あれ? 聞いてなかったのかい?」


そして当たり前のように続けた。


「トレディアはビート・ドワーフ王国の王族だよ。第三王女だったよね?」


「ダ、ダイナさん……」


トレディアが恥ずかしそうに顔を赤くする。


それでも否定はしない。つまり事実なのだろう。


ヴェゼルは思わず目を瞬かせた。


確かに貴族令嬢だとは思っていた。しかし王族とは考えていなかったのである。


ダイナは獣王国の第一王女だと聞いても納得できた。堂々とした態度も、周囲を引っ張る性格も王族らしい。


だがトレディアは違う。しかも王族でありながら、お付きの者も連れていない。


だからこそ完全に予想の外だった。そんなヴェゼルの反応を見て、ダイナが苦笑する。


「もちろん、私もトレディアも普通に接してほしいな」


先ほどまでの豪快な雰囲気を少しだけ引っ込め、真面目な顔になる。


「国へ帰れば、同じ年頃の子ですら気軽に話しかけてくれないからね」


「そうですね……」


トレディアも小さく頷いた。


「皆さん丁寧に接してくださるのですが、それだけなんです。だから、この学院では友達を作りたくて来ました」


少し寂しそうに笑う。


そしてダイナをちらりと見る。


「ダイナと二人なら大丈夫だと思って、学院内ではお付きの人もお断りしたんです」


王女が護衛や侍女を伴わず入学するなど、本来なら珍しいことなのだろう。


だが、その言葉には彼女なりの決意が感じられた。王女としてではなく、一人の生徒として友人を作りたい。


そんな願いが伝わってくる。


ヴェゼルは自然と笑みを浮かべた。


「わかったよ」


それだけで十分だった。


ダイナも満足そうに頷く。トレディアもどこか安心したような表情を見せた。


こうして四人は並んで歩き出す。入学式が行われる大講堂へ向けて。


新しい学院生活の始まりは、思っていた以上に賑やかなものになりそうだった。




だが、その時だった。


「ゼルー!」よく通る明るい声が響く。


ヴェゼルたちが振り返ると、金色の髪を揺らしながら少女がこちらへ駆けてきた。


エストレヤだった。後ろからはシェルパとカジャールも歩いてくる。


「おはよう、ゼル!」


今にも飛びついてきそうな勢いである。相変わらず元気いっぱいだった。


「おはようございます」


ヴェゼルが苦笑しながら返事をすると、エストレヤは満足そうに笑った。


その様子を見ながら、シェルパが肩を竦める。


「朝から騒がしくてすまないね」


「いえ、慣れてますので」


「それもどうなんだろうね」シェルパは苦笑した。


そんなやり取りを見ていたダイナが興味深そうに首を傾げる。


「君たちもヴェゼル君の友人なのかい?」


するとシェルパが自然な笑みを浮かべた。


「そうだね」


そして軽く一礼する。


「僕はシェルパ・バルカンです」


続いて隣の少女へ視線を向ける。


「こちらが妹のエストレヤ・バルカン」


「よろしくね!」エストレヤは元気よく手を振った。


さらにシェルパは最後の一人を示す。


「そして彼がカジャール・ディ・ベントレーだよ」


ダイナとトレディアの目が大きく開かれる。


「バルカン…皇族の子息だったのか」


ダイナは素直に驚いていた。王族同士だからこそ、その重みも理解しているのだろう。


「こちらへ来た時はメガーヌ皇子に挨拶をしたんだが、君たちの話は聞かなかったな」


そう言いながら、今度はカジャールを見る。


「それにベントレーということは……」


カジャールが頷いた。「祖父がベントレー公爵だよ」


その言葉にトレディアまで小さく息を呑む。


帝国の公爵家ともなれば、外国の王族でも無視できる存在ではない。


一方でシェルパは少しだけ苦い笑みを浮かべていた。


「僕たちは今、皇宮には住んでいないからね」


それ以上は語らない。だが、それだけで十分だった。


ダイナは同じ王族である。


何か事情があるのだと察したらしく、それ以上追及することはなかった。


代わりにシェルパはヴェゼルへ向き直る。


「ヴェゼル君。エストレヤとカジャールをよろしく頼むよ」


そう言って二人を見る。


「僕は三年生だから、普段はあまり一緒にいられないんだ」


兄としての心配なのだろう。


ヴェゼルは素直に頷いた。


「分かりました」


そして少し困ったように笑う。


「でも、俺とプロフィアは五組なんですよ」


その瞬間だった。


「えっ?」


エストレヤが本気で驚いた顔をした。


「ゼルって一組じゃないの!?」


まるで常識を覆されたような反応である。


ヴェゼルは苦笑するしかなかった。


「あぁ、あれか…そうなんだ……」


そんな二人の会話に割り込むように、カジャールが笑いながら言った。


「それと僕もエストも敬称はいらないからね」


「そうそう!」


エストレヤも勢いよく頷く。


「ゼルが敬語なのも変だし!」


「じゃあ、エストさんは?」


「それもなし!」


「エストでいいよ!」


「カジャールもジャールでいいからね」


二人とも妙なところでこだわりがあるらしい。


ヴェゼルは苦笑しながら頷いた。


その後、カジャールはダイナとトレディアへ視線を向ける。


「ヴェゼルが仲良くしてるなら、二人とも良い人なんでしょ?」


柔らかな笑みだった。


「僕たちのこともよろしくね」


「よろしく!」


エストレヤも元気よく続く。


するとダイナは豪快に笑った。


「こちらこそだ!」


そして隣の少女を見る。


「なあ、トレディア?」


急に話を振られたトレディアは少し慌てながらも頷く。


「は、はい。よろしくお願いします」


その表情には確かな嬉しさが浮かんでいた。


昨日までは知らなかった者同士が、こうして自然に言葉を交わしている。


王女もいれば皇子と皇女もいる。公爵家の嫡孫もいれば、辺境伯家の嫡男もいる。


本来なら簡単に交わることのない立場の者たちだった。


それでも今は、ただ同じ学院へ通う生徒としてそこにいた。


まだ入学式すら始まっていない。それなのに、友人の輪は少しずつ広がっていた。


そんな光景を見ながら、ヴェゼルは改めて思う。


この学院生活は、案外面白いものになるのかもしれない、と。




だが――。


その和やかな空気に、不意に水を差すような声が響いた。どこか芝居がかった、わざとらしい口調だった。


「おやおや、そこにおられるのは、シェルパ・ラエモンス・バルカン殿ではありませんか」


全員が振り返る。そこには一人の少年が立っていた。


茶色の髪を後ろへ流し、年齢にしてはかなり背が高い。肩幅も広く、日頃から鍛錬を積んでいることが一目で分かる体格をしていた。


だが、その印象を台無しにしているものがあった。


吊り上がった目。そして常に誰かを見下しているような視線。口元には皮肉げな笑みが張り付き、それがまるで仮面のように離れない。


その背後には十人を超える取り巻きたちが控えていた。


「おお、そうでしたな。今はただのシェルパ・バルカン殿でしたか。それとも、義兄上と呼んだ方が良いですか?  私の母は今や皇后ですからね」


少年は大げさに肩を竦める。


その言葉に、シェルパの表情がわずかに曇った。


「……メガーヌ」小さく呟く。


通常は皇帝の正室から生まれた皇子には『ラエモンス』、皇女には『ラエダム』という称号が与えられる。


しかし皇宮を離れた時点で、シェルパとエストレヤはその称号を失っていた。メガーヌは、それを分かった上で口にしたのだ。


周囲へ聞かせるために。侮辱するために。


ヴェゼルは一瞬で状況を理解した。だからこそ反応しなかった。


相手の土俵に乗る必要などない。


「ねえ、エスト。休みの日って、届け出を出せば街へ行けるの?」


何事もなかったかのように声を掛ける。


「え? たぶん行けると思うわ!」


エストレヤがきょとんとする。


「本当?」


「わたしも詳しくは知らないけど!」


そんな会話をしながらヴェゼルは歩き出した。


ついでにシェルパの袖を軽く引く。その意図を察したシェルパも無言で歩き始めた。


プロフィアも続く。ダイナとトレディアも続く。


誰一人としてメガーヌへ返事をしない。


完全な無視だった。メガーヌの口元から笑みが薄れる。そして、低い声が飛んだ。


「おい、私が話している最中だぞ」


声に苛立ちが混じる。「無礼であろう」


それでも誰も立ち止まらない。


すると取り巻きの一人が前へ出た。


「待て!」


ヴェゼルの肩へ手を伸ばす。だが、その瞬間だった。


ぱしっ。ヴェゼルの手が相手の手首を掴む。


そして――。


ぎりっ。ほんの少しだけ力を込めた。


「っ!?」少年の顔が引きつる。


想像していた力ではなかったのだろう。逃れようとしても手首がびくとも動かない。


まるで鉄の万力に挟まれたようだった。


その時だった。別の取り巻きが目を見開き、顔色が変わる。


「まさか……ヴェゼル……ビック家のヴェゼルか」


その名を聞いた瞬間。


メガーヌの目が細められた。


ヴェゼル。入学試験を一日延期させた張本人。


第三騎士団長を討ち取った少年。帝都で今もっとも話題になっている貴族の子息だった。


ヴェゼルは何も言わない。


ただ手を離した。取り巻きの少年は慌てて後ろへ下がる。


そのままヴェゼルたちは歩き出そうとした。


――そして。


次の瞬間だった。


「なのです!」「えいっ!」「べー!」「べーです!」「べろべろーだ!」


胸ポケットと鞄の中から、妖精たちが一斉に飛び出した。


ヴェゼルが止める暇すらない。まるで最初から打ち合わせでもしていたかのような連携だった。


ジャスティがあっかんべーをする。ルーミーも負けじと舌を出す。トールとタントも負けていない。


そして最後に。


サクラがふわりと宙へ浮かび上がった。


くるり。空中で反転する。


そして堂々とメガーヌたちへお尻を向けた。


ぽん。ぽん。ぽん。


三度叩く。最後に鼻で笑った。


「ふん」実に見事な挑発だった。


取り巻きたちは呆然とする。だが、彼らが本当に驚いたのは別のことだった。


ヴェゼルは頭を抱えた。(お前ら、さっき約束したばかりだろ……)


「ご、五柱……?」「妖精が五柱もいるのか……!?」「あり得ない……」「あの噂、本当だったんだな…」


声が震えている。妖精一柱と契約できるだけでも奇跡。


それが五柱。


しかも全員がヴェゼルに懐いている。その光景は常識を大きく超えていた。


メガーヌですら言葉を失う。


一方で。「かわいいーっ!!」


別方向で興奮している人物がいた。エストレヤである。


「見て見て!」


目を輝かせながら妖精たちを指差す。


「みんな制服着てるわ!」


そしてさらに興奮した。


「わたしたちとお揃いなのね!」


完全に妖精たちへ意識が向いていた。政治も挑発もどうでもよかったらしい。


妖精たちも褒められて満更ではない。


「なのです!」「ありがとうございます!」「おそろいだ!」「えへへー!」


すっかり上機嫌になっていた。


そんな騒ぎの中。ヴェゼルたちは歩き続ける。


制服姿の妖精たちが周囲を飛び回り、その中心をヴェゼルとプロフィアが進む。


皇子に皇女。公爵家の嫡孫。獣王国の第一王女。ドワーフ王国の第三王女。


そして五柱の妖精。


目立たないはずがなかった。周囲の生徒たちが次々と視線を向ける。


驚き。好奇心。羨望。


様々な感情が入り混じる。通路のあちこちでざわめきが広がっていた。


そうして一行は、入学前から学院中の注目を集めながら、入学式が行われる大講堂へと向かうのだった。




うおっ、、、、ep.700超えてしまった。。。

ようやく学院編、、

本来は150話あたりで学院編に突入の予定だったのになぁ。。

サクサク進めるぞ!   とは、いつも思ってるんです。。

まだ、入学式が始まらんとは。。。だから、今回は頑張って長文です。。

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