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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第672話 意外な人の来訪03

そして、話がひと段落し、イグニスがゆっくりとソファから腰を上げかけた、その時だった。


ヴェゼルの右胸ポケットが、もぞり、と小さく揺れる。


次の瞬間。


「待ってください!」


勢いよく飛び出してきた小さな影が、ぱたぱたと羽音を響かせながら机の上へ降り立った。


ジャスティだった。


その後から、ルーミーも慌てて飛び出してくる。二人は机の端へ並ぶと、イグニスを見上げながら、どこか必死な様子で羽を震わせていた。


「……ほう?」


思わぬ乱入に、イグニスが目を丸くする。


ジャスティは、小さな胸を張るように前へ出た。


「あの! 私も学院へ行きたいのです!」


応接室の空気が、一瞬止まった。


アプローズが目を瞬かせ、プロフィアもぱちぱちと瞬きを繰り返す。ヴェゼルですら少し驚いた顔をしていた。


すると今度は、ルーミーが負けじと手を挙げる。


「わ、私も行きたいです!」


さらに。


「俺も!」


今度はプロフィアの肩から、トールがぴょんと飛び上がった。


だが、その一方で。ただ一人、タンクだけは相変わらずプロフィアの膝の上で丸くなったまま、ごろごろと喉を鳴らしている。


「ふわぁ……」眠たげに欠伸まで漏らした。


どうやらタンクは、学院というものにそこまで興味はないらしい。


その温度差に、ヴェゼルは思わず苦笑した。


しかし、ジャスティは至って真剣だった。小さな身体で机の上へぴしっと立つと、力説するように言う。


「私は勉強が大好きなのです! 学院は、試験で良い成績を取れれば十二歳以上から入学できますよね!?」


「う、うむ……」


「私はとっくに十二歳を超えています! ですから、ぜひ試験を受けて入学したいのです!」


その勢いに、イグニスは思わず目を瞬かせた。


やがて、老人はふっと吹き出すように笑う。


「なるほど。これはまた、熱心な志願者だ」


ジャスティは真剣そのものだ。だが、その小さな身体で必死に訴える姿は、どうにも微笑ましい。


イグニスは少し考え込むように顎へ手を当てた。


「……しかし、今年の入試は既に終わっておるのでな」


その言葉に、ジャスティの羽がしゅん、と下がる。


「そうですか……今年は無理ですか……」


露骨に落ち込む姿に、ルーミーとトールまでしょんぼりし始めた。


だが、イグニスはそこで続ける。


「もっとも、方法がないわけではない」


ぱっと、ジャスティが顔を上げた。


「学長権限で例外的に認めた者は、“聴講生”として学院へ出入りすることができる。正式な学生ではないが、授業を受けたり、図書館や研究設備を利用したりは可能なのだ」


三人の妖精の目が、一斉に輝いた。


「本当に学びたいのであれば、その形なら認めても良いぞ」


「ぜひお願いします!」


ジャスティが即答する。


「私も!」「俺も受けたい!」


ルーミーとトールまで、ぶんぶんと頷いていた。


イグニスはそんな三人を見ながら、どこか楽しげに笑う。


「妖精の聴講生など前例がないのでな。一応、学院側へ確認は必要だろう。だが……まあ、私が認めれば、おそらく問題あるまい」


その言葉に、三人は歓声を上げながら空中を飛び回った。


すると今度は、ヴェゼルの左ポケットから、ひょこりとサクラが顔を出す。


瞳を細めながら、どこか当然のように言った。


「私はヴェゼルと一緒なら学院へ行くわ。勉強には興味ないけど」


「サクラはそうだろうね……」


ヴェゼルが苦笑する。


すると、今度はプロフィアの膝の上で寝転がっていたタンクが、のそりと顔を上げた。


「むぅ……でも、僕だけ残るのも寂しいなぁ……どうしよう……」


どうやら今になって迷い始めたらしい。


イグニスは穏やかに笑った。


「学びたいという意志があるなら歓迎しよう。だが、迷っておるなら無理に来る必要はない。学院は逃げぬからな」


「むぅ……」


タンクは再びごろりと転がり、真剣に悩み始める。


その時だった。


不意に、ヴェゼルの足元の影が、ぬるり、と揺れた。


次の瞬間。黒い塊が影の中から飛び出す。


「お、おおっ……!?」


流石のイグニスも、思わず声を上げた。


突然現れたのはルドルフだった。


黒狼はそのままヴェゼルの隣へ座ると、きらきらした目で見上げてくる。


直後、ヴェゼルの頭へ念話が飛んだ。


『私、学ぶ! ヴェゼルと一緒、学院行く!』


ヴェゼルは思わず額へ手を当てた。


「……ごめんね、ルドルフ。流石に君は難しいと思うよ」


『ワォン……』耳がしゅん、と垂れる。


イグニスも苦笑交じりに頷いた。


「学院には対魔物結界が張られておってな。魔物が侵入すると警報が鳴る仕組みになっておる。……残念だが、ルドルフ殿は難しいのではないかな」


露骨に落ち込むルドルフ。


巨大な身体がしょんぼりと縮こまる様子は、どこか犬じみてい少し可愛い。


ヴェゼルは苦笑しながら、その頭を撫でる。


「休みの日には遊んであげるから、我慢してね」


『……ほんとう?』


「ほんとうだよ」


ようやく少し機嫌を直したルドルフを見て、応接室の空気が、ふっと柔らかく緩んだ。


つい先ほどまで、帝国の未来や政争の話で重苦しく沈んでいた空気が嘘のようだった。


暖炉の火が、静かに揺れている。


その赤い光の中、イグニスはどこか穏やかな目で、ヴェゼルと、その周囲へ集う者たちを見つめていた。


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