第六話:生贄令嬢はエコロジーについて考える
私のフライパン調理、無事、滞りなく、何の問題もなく終了しましたわ!
…………終了しましたの!!
決してもたついたりとか、火傷をしそうになった、などということはございませんわよ! ええ、決して!!
うっかりフライパンの縁に触ってしまって、呆れ顔のアルク様に回復魔法をかけられるだなんて、そんなこと……!
何しろ私には貞蓮の……前世の記憶がありますもの!
……とは思っていたのですけれど……やはり記憶があるということと、実際に自分でやってみるというのは違いますわね。
私の肩に飛び乗ってきて、宥めるように頭を頬に擦りつけてきてくれたサラマンダーの言葉に、思わず項垂れてしまいましたわ。
『まァ、誰だって”初めて”はそんなもんさ! むしろ、手際も良かった方じゃねェか?』
「うう……もう少し手が動くと思ったんですのよ、ええ、本当に!」
「記憶と肉体の間で齟齬があるのだろう? 慣れていくより他にあるまいよ」
私の落ち込み具合が相当だったのでしょうね。サラマンダーも、アルク様も、ちょっと慌てた様子でフォローをしてくださるけど……。
うう……余計にいたたまれませんわぁ!!!
いずれにせよ、アルク様が仰っている通り、記憶と肉体の乖離についてはおいおい慣らしていかなければダメね。
今は何とかなっているけれど、これから先何があるのかわからないのだし……。
それに、貞蓮の記憶の中に、かていさいえん? とかいうのもあって、面白そうだな、って思うの! 自分の手で食べるものが作れるって、凄くないかしら?
色々と対処しなければならないこと、やらなければならないことはあるのだけれど、今、凄く楽しいの!
でも、そうね……まずは一番簡単に対処ができるであろうごみ問題から片付けることにしますわ!
「……ただ、このガラスの空き瓶をどうするか、が問題かしら……?」
ぺちぺちと自分の頬っぺたを叩いて気合を入れ直して、食卓代わりに使っていた祭壇の上を眺めてみる。
……お取り寄せで出た紙や木箱、ぱっけーじ? とかいうものに関しては、サラマンダーの魔力に変換ができるのだけれど……このガラス瓶はどうすればいいのかしら?
土に埋めても還らないだろうし、かといってサラマンダーの炎で溶かしても……と思うと……。
場所を取ることを覚悟しながら、私の無限収納にしまっておくしかないかしら。
『あぁ。ソレの始末に困ってンのか、お嬢!』
「ええ。いったいどうしたものかしら、と……」
私が元気を取り戻したと判断したのでしょうね。肩から祭壇に飛び降りたサラマンダーが、ガラス瓶に鼻先を近づけて匂いを嗅ぐと銀朱の瞳を私に向けた。
濃い色合いのガラスがサラマンダーの炎を受けて、ぼおっと深い色合いの影を映し出す。なかなか綺麗な色合いですわね。
砕いてモザイクタイルにする……とかいう方法もあるようですけど、その……せめんと、とかいうものをどこで手に入れればいいのかわからないし……。食品ではないから、私のスキルで「お取り寄せ」できないのよね……。
底を切り取って植木鉢に……みたいな記憶もあるんだけど、ガラスなんてどうやって切ればいいのかしら……??
『あ~~~。確か、ご隠居がこんな感じのモンが好きなんだよなァ。一丁呼んでやろうかィ?』
「ごいん、きょ……??」
「……む……アレか…………アレは口喧しいのがな……」
思い悩む私とガラスの空き瓶とを交互に眺めていたサラマンダーが、何かを思い出したようにぱかりと口を開いた。
聞きなれない単語に私が首を傾げる隣では、アルク様がそれはもううんざりしたような表情を浮かべている。
あらあら。せっかく朝ご飯で気分が上向きになっていらしたと思ったのに。……なにか、こう……因縁があるお相手なのかしら?
でも、この空き瓶をどうにかできるのなら、話だけでも伺ってみたい気はするのよね……。
さてどうしたものかしら、と私が考え込んでいる間に、祭壇からもぴょいっと飛び降りたサラマンダーが前脚で地面をぺちぺちと叩く。
……? 魔法陣が書かれているわけでも、特別な祭壇の前……とかでもない、土が剥き出しになっている何の変哲もない場所、よね??
『ご隠居ォ! いるんだろぉ、ご隠居ォ!!』
サラマンダーの良く通る声と、ぺちぺちと地面を叩く音が辺りに響く。
……傍から見れば、大きなトカゲが地面を叩きながら大声を上げてるっていう感じだから、ちょっと、なんというか……アブナイ雰囲気よね。
ただ、そうやってサラマンダーが声を上げるうちに、サラマンダーの足元を中心に魔力が渦を巻いて集まっていくのがわかりましたわ。
そんな! 召喚陣もなにもないのに、何かが召喚されている、ということ!?
思わず口元を押さえながらも、何が起きているのか見逃すまいと目を皿にする私の目の前で、ぼふんという音と共に濛々たる土煙が上がる。
『なんだねぇ、騒がしい。少しは近所迷惑というものを考えたらどうだい、サラマンダー?』
その中から聞こえてきたのは、存外に低く優しげな声だった。




