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第五話:生贄令嬢はチーズパンの浪漫に思いを馳せる

 ちょっと端は焦げてしまいましたけど、うん。お料理一年生の一日目……と考えれば、まだ許容範囲ではなくて?

 サラマンダーが咥えてきてくれたお皿にちょぴり濃い目のきつね色に焼き上がったパンを乗せ、(わたくし)の分のチーズも炙っていく。

 うーん……このチーズが焼ける香ばしい匂い……胃袋を刺激しますわね……。とろっと蕩けていくさまも視覚を刺激しますし、ゲストの目の前でチーズを焼いては希望した食材にかけて食べさせるお店があったら、意外と繁盛するのではないかしら?

 見る間にチーズの角が取れ、糸を引きつつ火に落ちそうになっていくのを必死でくるくる串を回して阻止し続けて……。串が刺さる中心部分まで柔らかくなったところで、すかさずパンの上へ!

 パンの上に載せた途端、焼きチーズがとろとろ融け広がって黄金色の海を作っていく様子は、見ているだけで美味しそうですわよ!

ワクワク気分でチーズパンを持ってはみたものの……なんだか、ちょっと……さすがにはしたない気がして……。隣にちょこんと座り込んでいるサラマンダーの方を、思わず向いてしまいましたわ……。

 ……だって、この子といると肯定感がもの凄くアガる気がするんですもの……。


「……これは……熱いうちがご馳走ですわよね……?」

『おぅ、そうだな! チーズが硬くならねぇうちに、バクッといっちまいなァ!』

 

 縋るような目で見てしまった私に気が付いたのか、銀朱の瞳を細めたサラマンダーが、大笑いするようにぱかりと真っ赤な口を開けた。

 その言葉を聞いて、私も心を決めましたわ!

 チーズが垂れないように気をつけながら、パクリとチーズパンにかぶりつく。

 カリッと、かつ、サクッと焼き上がったパンは「極上小麦使用」という宣伝文句に違わず、一口齧れば香ばしい香りが口いっぱいに広がった。水分の抜けた表面の口当たりは軽いのに、中からはもっちりむっちりと吸い付くような生地が顔を出す。

 そこに、ミルクの風味たっぷりのチーズが口の中になだれ込んできて……! 軽い食感のパンに、どっしりした味と風味のチーズの組み合わせはちょっと卑怯ではないかしら?

 これ、私の包丁捌きが不安定で、土台のパンに厚い所と薄い所が混在してしまっているんですけど、それがかえって食感と味にメリハリがついて美味しい、というか……。結構いい仕事、してますのよ!!


「――――――っっっっ!!!」

「どうだ、フラン。我の衝撃がお前にもわかったか?」

「これは……ダメな奴ですわね! 限界を忘れて食べられそうですわ!」


 私より先にこの衝撃を味わった先達であろうアルク様に目を向ければ、空の皿を前に頬杖をついていたアルク様がニィと唇を釣り上げた。

 まさか見られているとは思わなくて、慌てて口元を覆いながらコクコクと幾度も頷いて見せる。

 アルク様も、わかってくださっているようで何よりですわ!!

 直火焼きしたロースハムも、炙っただけとは思えないほどの美味しさですのよ!

 しっとり柔らかな肉質のせいか、ちょっと厚めに切れてしまっているのに、大して力を入れなくても噛み切れてしまうのよね。そのくせ、「お肉です!」という主張を感じる程度には噛み応えもありますの。噛めば噛むほど肉汁がじゅわっと溢れてくるのも魅力的ですわ!

 脂身の部分もカリッと焼き上がっていて……全体的に塩気が程よいおかげでどんどん食べられてしまうの。炎で炙られて、程よく脂が落ちてるというのもあるんでしょうけどね。

 ……ただ、その……これチーズパンとハム一枚を食べきると、ちょっと口の中がもったりしてくる……というか……。

 すこし口をさっぱりさせるものが欲しくなりますわね。

 ということで、昨日お取り寄せした水出し紅茶を飲んだのだけど……。


「……あら。思った以上にさっぱりしますわね……!」


 花のように甘い香りがふわりと漂う液体が喉を滑り落ちていくと、思った以上に余計な脂を洗い流してくれた。後口に感じる仄かな苦みが味蕾を刺激するのか、口の中がリセットされる感じもありますわ。

 この水出し紅茶シリーズ、なかなかお味がよろしいのではなくて? お食事のお供にぴったりね!


「フラン! まだこの肉とチーズとパンはあるのか?」

「ええ。まだまだ残っておりますわ。もう少し焼きましょうか?」

「ああ。この程度では我の腹は膨れぬからな!」


 空っぽになった皿を差し出してくるアルク様のお顔は、酷く上機嫌そうに見える。

 お気に召していただけたようで何よりですわ!

 ……それにしても、どうしましょう……私、今更ながら思うのだけれど、チーズを串で焼くのって、意外と大変じゃない……?

 暇さえあれば私に囁きかけてくるゴースト、貞蓮(ていれん)の記憶を探ってみるけれど……なによ! フライパンで焼く方法だってあるんじゃない!

 したり顔で「チーズパンと言えば串焼きチーズでしょうが!」と力説してくる前世の(わたし)を頭の隅に追いやって……(わたくし)は改めて、こびりつかないコート長持ちと銘打たれたフライパンをお取り寄せいたしましたわよ!

 もう! もっと簡単な方法があるのなら、最初から教えてほしいわ!

 貞蓮(ていれん)の”浪漫”好きにも困ったものですこと!!

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他に連載中のストーリーです。こちらもご飯ものの小説です。カドカワBOOKS様より第一巻刊行中です!


捨てられ聖女の異世界ごはん旅

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