第三話:生贄令嬢は野望を胸に抱く
みんなできゅうきゅうとくっつきあって、スキルの力で具現化したタブレットを眺める。画面に表示される商品をあーでもないこーでもないと品定めしながら複数人で頭を寄せ合うのって、実は初めての体験ですの。私、前世である貞蓮(戒名)の記憶でいうなら、ボッチだったんですの。
「今日は何を召し上がります? お菓子よりはお食事系のものが良いのかしら?」
「我は昨日食べた肉でもどーなつとやらでも構わぬぞ」
「俺ァこの『干物セット』とかいうヤツが食いたいねェ! こんがり焼いてやるぜ?」
一向に方向性が決まらない会議に一石を投じるべく声をかけてみたけれど、あまり目に見えた効果はなかったようね。
アルク様は朝から食欲が旺盛ですし、サラマンダーはマニアックな所を突いてくるし……。私、まだ調理はちょっと自信がないのだけど……。
三者三様、まったく収拾がつかない話し合いだけれど、結局のところ、この時間が一番楽しい気がしますわねぇ。
商品が届いてしまえば、あとはもう食べるだけになってしまうもの。それって、なんだか答え合わせのようではなくて?
……いえ、美味しいものは大歓迎ですのよ? みんなでわいわい美味しいものを食べることも大好きよ?
ただ、こうやって写真や説明文から味や香りを想像したり、アルク様やサラマンダーとおしゃべりしながら商品を選ぶというのが、存外に面白くて……。ついついいつまでも話していたくなるのよね。
「……このままでは決まるに決まらんな。フラン。スキルの持ち主であるお前が好きなものを取り寄せよ」
「畏まりました。それでは、まずは軽めのものをお取り寄せいたしますわね」
喧々囂々の話し合いに飽きたのか、とうとう空腹が限界に達したのか、はたまたその両方か。痺れを切らしてしまったアルク様が、フンと鼻を鳴らして鷹揚に手を振っている。
お会いしてからほんの少し過ごしただけの私でも、今のアルク様のお気持ちが手に取るようにわかりますわ。憮然としたお顔とやる気のない動きから察するに、もうすっかり飽きてしまわれたんでしょうね。
それでも、タブレットの画面から目を離さないアルク様を横目に、私は指先をスワイプして画面をめくる。いくらアルク様に食欲があるからと言って、まだ起きたばかりですもの。お腹が完全に目覚めていないかもしれませんし、油モノは避けたいところですわね。
サラマンダーが食べたがっている調理が必要そうなものも、これから先のお楽しみ……ということで許してもらいましょう。最初の料理は、もう少し簡単そうなものから始めたいの……。
……そうねぇ。昨日飲んで美味しかった水出しの紅茶の別銘柄と、パン……チーズなんてどうかしら? あとはハムなんかもあれば、アルク様にもご満足いただけるような気がしますわね。
ざっくりと方針を決めたら、あとはタブレットを通じて「お取り寄せ」するだけ!
注文を確定させた途端に、アルク様が腰を下ろしている崩れかけた祭壇の上に、どさどさと荷物が積み上げられた。
本当に迅速ですわねぇ。貞蓮のいた世界でも、こんなに早く到着する荷物はなかったのではなくて?
ほとんどタイムラグなく届く荷物に改めて規格外な空気を感じつつ、私は早速荷解きを開始した。紙の箱や包装は、ワクワクとした様子を隠しきれていないサラマンダーに。パッケージのビニール? とやらもサラマンダーの糧になるみたいですし、これも渡してしまいましょう。
「それで……今回は何を買ったんだ、フラン?」
「本日は、四元豚のロースハムと、チーズの食べ比べセット。あとは生食パンと水出し紅茶をお取り寄せしてみましたの!」
一緒に取り寄せたカッティングボードにハムの塊とチーズ各種を乗せてアルク様にお見せすれば、金の瞳が満足そうに弧を描く。
やっぱり、本質は竜の御姿を取るだけあって、お肉やチーズのような食べ物がお好きなんでしょうね。予想が当たっていたようで何よりですわ!
そうそう。今回は幾許かのカトラリーと食器、カッティング用のナイフ等もお取り寄せいたしましたのよ。まずは、切るところから始めようと思って……。千里の道も一歩から、というのでしょう?
いつかは食器や調理器具を仕舞っておく棚のようなものも欲しいわね。実現するのはいつになるかわかりませんけど……。
「そうだ! ねぇ、サラマンダー。私、切ったハムやパンを焼いてみたいのだけれど、いい方法はあるかしら?」
「奥の部屋の焼き台で焼くンじゃァダメかい?」
「あそこはあくまでもこの神殿の神様の為の焼き台でしょうから、私達の為の食事を調理するのは……ちょっと気が引けますわ」
箱や包装の山を次々と炎に包んで消費していくサラマンダーに声をかければ、きょとんとした顔でこちらを振り返られた。
サラマンダーが言っているのは、私が寝台を置いた部屋にあった焼き台のことですわね。かつてはあそこで犠牲の動物を焼いていた由緒正しいものなんでしょうけど……由緒正しいが故に私用で使うのが憚られますわ……。
言い淀んだ私の様子から、それでも言いたいことをくみ取ってくれたのでしょうね。残っていた紙の山を青い光でめろりと包んだサラマンダーが、くるりと身体ごと私の方に向き直った。
「それじゃァ……ちょいと昔を懐かしんで、焚火調理といこうじゃねェか、お嬢!」
銀朱の瞳が茶目っ気たっぷりにウィンクをしてきたかと思ったら、地面に青い炎が走る。煌めく炎はそのまま小さな魔法陣を描き、次の瞬間には大きな炎がその上に浮かんでいた。
すごい……精霊が魔法を使うところなんて初めて見ましたわ! とっても綺麗!!
「俺の魔力で作った簡易的な焚火さね! これなら俺が火力を調整できるし、安心して料理ができるだろォ?」
炎を背景ににぱっと笑うサラマンダー……とっても男前に見えましたわ……!
それじゃあ、さっそく……初めてのお料理としゃれ込みましょう!
「……食えるものが出来ればいいがな……」
頬杖をついてこちらを眺めるアルク様が、生温かな笑みと共にわざとらしいため息をつく。
んもぅ! 聞こえてましてよ、アルク様!! 絶対にギャフンと言わせて見せますわ!!!




