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人間の清濁

 思念を送った後、チェーン店の牛丼並みの早さでエリーザは来た。


「ハルディ、来たよ。車を学校の駐車場に停めているから、ついてきて」


 僕たち三人は、走るエリーザのすぐ後ろをついていった。




 やがて、駐車場の隅に停めてある赤いスポーツカーの前まで来ると、エリーザはこちらを振り向いて笑う。


「さあ、みんな乗って」


 促され、三人とも乗りこんだ。


 シートベルトを締めたら、いざ発進!


 車内はなんだか落ちつくので、僕は隣で運転しているエリーザに、呑気な質問をした。


「やけに早かったね。飛ばしてきたの?」


「失礼なっ! あたしは制限速度を守るロボットだよ。たまたま近くに用事があっただけよ」


「ごめん、ごめん。そういえばエリーザは真面目で身体も心も鋼鉄な堅物ロボットだもんね」


「ううっ、ハルディ……。けなしているの?」


「いやいや、冗談だって。落ちこまないでよ。それにしてもモアイのやつ、なんで僕たちを豆腐メンタルにしたんだろうね?」


 会話に水を差すように、勇利は大きくてわざとらしい咳払いをした。


「あのね、ハルディさんにエリーザさん。どうでもいい話をしてないで、早く山の麓に行こうよ。それとこの車、今時ナビもついていないの?」


「失礼なっ! この車にはナビなんていらないよっ。あたしの頭の中にあるからね!」


 ストイックにも、安全運転をしながら激昂(げっこう)するエリーザ。しかし、勇利は怯んでいる様子もなく、不快な大声をあげた。


「僕にナビを見せなきゃあばら屋の場所を教えられないでしょうがっ!」


 エリーザは無視をしているが、僕は後部座席の勇利をにらみつけた。しかし、奴の右隣に座っているこりすが震えていたので、僕は怒鳴りつけた!


「おい、勇利! 大声を出すなよっ。こりすが怯えているだろうがっ!」


「ハルディさんこそうるさいよ。それに、僕は正論を述べたまで」


「……わかった。大声出すのはやめるけど、なんで勇利はそんなつけあがった言い方しかできないんだ?」


「性分。仕方ない」


「まあ。親が放火魔だもんな」


「そこは否定しない。僕の幼少期、親父が借金作って蒸発したから、そのしわよせがすべて母にいった。これから行くあばら屋は、今は亡き母の両親が住んでいたところさ。山奥だから、借金取りに怯えずのびのびと生活できた。ある事件が起きるまでは……」


 勇利の話を聞いて、僕は不思議な感覚に苛まれた。


 家政婦は絶対悪だと思っていたのに……。


 『人間の心には善と悪がある』と、いつかエリーザが言っていた意味がわかった気がする。


 僕の口から自然と言葉が漏れた。


「その事件とは?」


「母は山奥の不便さと、かねてよりの借金返済による生活苦で、幼い僕に手をあげるようになった。のびのびした生活は、地獄に変わった。だから、あばら屋に近づけば近づくほど、顔の傷がうずくのさ」


 てっきり、対等なケンカでできた傷かと思っていたが、そんなエピソードがあったとはーー。


 僕はしみじみ車窓の外を眺めると、山道の坂道を走っていた車は待避所に入って駐車した。


「勇利さん、ごめんね。実はあたし、モニターを持っているの。ただあなたの事いけ好かない人だと思って黙っていたの」


 エリーザはそう言って、グローブボックスからスマホくらいの大きさのモニターを取り出した。


「電源入ってないよ?」


 僕が尋ねると、なぜか彼女は紅潮して、


「実は、黙ってた理由はもうひとつあるんだ。モニターのケーブルにワニ口クリップが2つついているでしょ。それを……。きゃっ」


 両手で顔を覆うエリーザ。もったいぶらされると、知りたくなる。


「エリーザ、ワニ口クリップをどうすればいいんだ?」


「えっ、こ、答えるのっ?」


「言ってくれないとわからないよ」


「もう……。そ、そのクリップをね。あ、あたしの、胸の真ん中に挟んでね。もちろん、ワンピースの上からよ」


 急に僕の鉄の心臓がロックのような高速ビートで躍動する。体が熱を帯びて発火しそうだ。


 震える指でワニ口を開いてみると、


「ハルディ……。ためらわれるとは、恥ずかしくなってくるじゃない。な、なぜか出力がここだけなのよ。早くして!」


 僕はゆっくりとワニ口を胸に近づける。


(よし、胸の真ん中はここかな!)


「いたっ、ちょっとハルディ! そこは胸の端よっ。もう一度やり直して!」


「えっ、あ、あの動作をもう一度!?」


「だ、だってしょうがないじゃない……。あたしだって嫌だけど……」


 エリーザの顔が真っ赤。顔から発火しないか心配だ。


 彼女は突然目を閉じて、


「ゆ、指でなぞってみて。ま、真ん中には、その、ケーブルなしのピンプラグがついていて、突起になっているから……」


 促されるまま指を胸に当てると、「ひゃっ」とエリーザの艶かしい声。


 ゆっくりとワンピースに包まれた胸をなぞると、シリコンでも入っているのか柔らかい。


 指を這わせながら突起を探している間、モアイのエロ設計に半分怒り、半分感謝する。


「ひゃああっ、ちょっとハルディ! 手つきがいやらしいっ」


 エリーザのおうふくビンタ、30コンボ! 一瞬スクラップになったかと思った……。


 僕が頬をさすっていると、


「は、早くしなさいよ」


 と、顔を背けながらエリーザが言うので、指をつき出してみた。


 ビンゴ! 胸の真ん中に突起の感触。指はマシュマロバストに深く沈み、快楽が僕の鉄の脳をしびれさせる。


 愉悦を与えてくれたモア……、いや神に感謝。


 だが、その行為を続ける許可は神から降りなかったようだ。おうふくビンタ、60コンボ! HP0……。




 僕が気がつくと、エリーザの胸にワニ口クリップが繋がれていた。


「おはよう、ハルディ。安心して、こりすちゃんにつけてもらったから。最初から、彼女に頼めばよかったわ」


「ぐあっ、エリーザ。その言い方、すごく傷つく……」


「だって、あたしもハルディがロボットなのにエッチなんて知らなかったもん!」


 反論できず。僕はエッチだから失敗作でスクラップ対象なのか? いや、そもそもモアイがエッチな設計をするからこんなことに……。


「まあまあ。何はともあれ、こうやってナピを見ることができるからいいじゃない!」


 こりすのポジティブな言葉に救われた。彼女こそ、僕の心の薬箱。もちろんナース姿で。


 またまたあらぬ妄想をしている僕をよそに、エリーザ司令官と勇利隊長の指令の下、車は山道の隘路を直進していく。


 僕が勇利のことを隊長なんて呼ぶのは、境遇に同情の余地ありと思ったからだ。

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