史上最悪の中退
本当は嫌いだけど、こりすのため、勇利に呼びかける。
「い、勇利ぃいい、君……。きょ、協力して家政婦を探そうじゃあないかぁっ……」
感情を惨殺して、勇利をなんとか迎合できた。
「協力? 僕はハルディさんのことが嫌いになりました。木中さんのみに力を貸してもらいます」
かわいくないっ!!
「さあ、行こう。木中さん」
「さりげなくこりすの腰に手を当てるなっ。それと、僕を置いていくな!」
絶叫する僕の後頭部に大ダメージ! ……やめてと言っているのに。
僕が振り向くと、黒ボンテージとその手にムチを持ったうさぎ先生が笑顔で立っていた。
しかし、目は笑っていない。破顔してるのに目が冷酷なのは、ここの教職員の特徴か?
「ねーえ、ハルディ君。勝手に抜け出すなら、激しくおしおきしてもいいかしら?」
強くしなうムチ。ロボットには手加減しないかもしれない……。
「さて、ハルディ君。あなたはドMなのかしら? ……このムチで、確かめてあげるぅ」
「ひぇえっ、うさぎ先生! た、助けてっ」
一目散にとんずら。退室し廊下に出ると、後ろからなぜか微笑んでいるうさぎ先生が追いかけてくる。
「ハルディ君、待ちなさい。捕まえたら縄できつく体を縛り、『保健体育 課外授業 SMの時間』を行うわよ!」
「SMか、ゴクリ。いやいや、乗せられるところだった。そもそもうさぎ先生ってどっちなんですか?」
「あたしはもちろんドSよ。その鋼鉄の身体を……ああん、ムチでしばき倒したい!」
ムチの動きがいっそう激しくなったことを感知した僕は、足を早める。
しかし、トランス状態にあるであろううさぎ先生の脚力は、うさぎだけに凄まじい。
まずい、このままでは追いつかれてしまう! SMの課外授業を受けざるを得ないっ。
……待てよ、アリかも。いや、家政婦を探さねば!
前方、廊下のつきあたりに教室発見。鍵を閉めてやり過ごそう。
いざ、開扉ーー!
あれっ、室内にはピンク、グリーン、白、黒。大小様々な胸を包むブラをあらわにしたお姉さんたちが……。
それぞれ、スカートは穿いているものの、机の上にカッターシャツが被さっている。
これは、もしや……。着替え中だっ!
教室中が絶叫の坩堝。そんな中、入室してきたボンテージのSM女王こと、うさぎ先生は口の端を歪め、
「みんな安心して。この変態ロボットは、あたしが熱く、激しく、そしてバイオレンスに痛めつけてあげるから!」
拍手が起こりヒロイン扱いのうさぎ先生だが、ちょっと待って。おかしくないかさっきの言葉。
とはいえ、四面楚歌だ。SM女王がにじりよって来たので、僕は窓際まで追いつめられる。
四方八方にしなうムチ!! 女子の視線……。
「ええい、こうなったら窓から飛び降りてやる!」
僕はすばやく開け放った窓から飛び降りた。
下は校庭。そこには、二人っきりで歩くこりすと勇利の姿が。
手を繋いでいる彼ら。しかし、こりすは嫌そうな顔をしている。
ならば、勇利に制裁を加えよう! ……さっきの仕返しを兼ねて。潰れろっ勇利!
「食らえ、鉄プレス……。あばばばばっ!」
勇利は僕が降ってきたのを察知していたらしく、スタンガンを持って右手を上げていた。
またスタンガンを食らってしまい、あお向けに砂に埋もれる僕。
ヒラヒラ舞う布から見える脚線美。僕はこの光景を知っている。
「水色か。まるで、この空の色のようだ」
こりすの足下に僕の顔。彼女はスカートをおさえて紅潮している。
なんか、守ってあげたいなぁ。
僕はすくっと立ち上がって、
「よし、こりす。僕もきたよ。一緒に勇利の母、家政婦を探そう!」
「ハ、ハルディさん。あの、その……」
完熟トマトのように真っ赤になって、慌てるこりすの手を握りしめ、引っ張りながら僕は走りだした。
しかし、すぐに手放されてしまう。
僕が振り返ると、彼女は桜色に染まった頬を両手で覆いながら、
「あっ、あの、み、みたよね、です。は、恥ずかしい。帰りたいっ」
「さ、さっきのは事故……。あっ、いや。ごめん。本当にごめん」
真紅の頬でこくんとうなずくこりす。
しかし、勇利は訝しそうに僕を見つめてきたので、慌てて咳払いをする。
「さあ、卑劣な放火魔を探すぞーっ!」
……誰も、返事しないね。
それどころか、勇利は不満そうな面構えで、
「ハルディさんがどうしても一緒に行きたいというならば、躊躇している時間がもったいないから、仕方なく連れていってあげる。でも、手がかりはあるの?」
「ない」
「じゃあ、やっぱり来るな」
「いやいや、待てよ。そういう勇利は息子のくせに、一切手がかりがないのか?」
「ある。僕たちは、山奥からこの街へ越してきたんだ。あそこはあばら屋だったけど、隠れ家としては最適だろう。多分、あそこだ」
「詳しい道のりはわかるか?」
「ああ、遠いぞ。ここから20キロ。ここらで一番高い山の麓だ」
「そうか、遠いのか……。へっへーっ、勇利。後でハルディさんがいてくれてよかったって言うんじゃないぞ! 僕の相棒、エリーザには運転技術とナビ機能が備わっている」
「ならばそのエリーザさんだけに感謝する」
「く、口の減らない……。腰抜かすだろうな、エリーザのすごさに!」
僕は頭で念じた事をエリーザに伝えることができる思念送信機能を使い、エリーザに事情を説明した。




