第211話。さぁ~、蝦夷地へ向かって出発だ。
銀次と小次郎の二人がロシア軍を全滅させた明くる日から、線路の積み込み作業は考えられていたよりも効率良く運び、特に小次郎は線路に繋がれたロ~プを見事な操作で、吊るされた線路は大きく振れる事も無く、次々と積み込まれ、予定の半数の日数で終了するので有る。
「親分さ~ん、残りが五本で終わりま~す。」
「は~い、了解で~す。」
「親分、良かったですねぇ~、大きな事故も起こらずに。」
「はい、ですが、問題は蝦夷地に無事着くまでは安心出来ないです。」
「まぁ~、まぁ~、親分さんも余り難しく考えられずに、後は、軍艦と貨物船の船員さん達に任せるしか方法は有りませんからねぇ~。」
「はい、其れと、我々銀龍と大工さん、そして、鍛冶屋さん達も一緒に蝦夷地へ行く事になって要るんですよ。」
「では、総司令からの指令なのですか。」
「はい、左様でして、源三郎様はロシア軍はどんな方法を使ってでも上陸させてはならないと、其れだけは何としても阻止しなければなりませんと申されておられます。」
「私も総司令と全く同じ意見でして、奴らだけは、どんな事が有っても絶対に上陸させてはならないと考えております。
其れで、先程のお話しに戻りますが、銀次親分も勿論でしょうが、我々と一緒に蝦夷地へ向かわれるのですね。」
「はい、閣下、何卒宜しくお願い致します。」
そして、この数日後には、日本海軍の第一艦隊と第二艦隊と共に、枕木と線路に、そして、バラスを積んだ三十五隻もの貨物船が蝦夷地へと向かった。
「お~、汽車が着いたよ、えっ、だけど、一体誰が来たんだろう。」
最初の汽車には大勢の男達が乗っており、その中からひとりの男が降りて来た。
「あの~、此処に宮川さんって、居られますか。」
「えっ、なんだって、宮川って言われるけど、此処には六千人もの兵隊が居るんだよ。」
「じゃ~、石工って言われるお人なんですがね。」
「え~、なんじゃ~、その石工って。」 と、其処へ、橘司令官がやって来た。
「一体、どうしたんですか、何か揉め事でも起きたのですか。」
「あっ、司令官殿、このお人なんですがな、宮川って言われるお方なんですが、石工を探してるって言ってるんですが、で、あんたは。」
「はい、我々は左官屋でして。」
「そうだ、確か、あの人物は石工って言ってたと思うんだがなぁ~、ほれ、あの大きな型枠の時の。」
「ああ、じゃ~、あの人かも知れませんねぇ~。」
「ああ、多分、間違いは無いと思うんだが。」
「司令官殿、自分が行って来ます。」
と、言った兵士は先端の掘削現場へと走って行った。
「あの~司令官様、この辺りに川は有るでしょうか。」
「ええ、有りますよ、其処の小高い山の裾を右に曲がり、暫く行くと見えますから。」
「はい、有難う御座います、お~い、誰か其処を右に曲がると川が有るそうだ、見てくれるか。」
「は~い、じゃ~、オレが行きますんで。」
「親方、え~っと、窯は何処に。」
「う~ん、そうだなぁ~、まぁ~、少しでも現場に近い方がいいからなぁ~、向こう側で工事をやってるから、山のすぐ下のあの草地にでも。」
「ちょっと、ちょっと、待って下さいよ、あの山の裾野は大変危険でしてね、あの草原の全ては、浮島って言いましてね、あの浮島付近一帯は底なし沼なんですよ。」
「えっ、底なし沼って本当なんですか。」
「勿論、本当ですよ、ですからね、あの草が生えて要るところから先は行かれない方が宜しいかと思いますよ。」
「あ~あ、良かった、下手をすると、今頃、我々はお陀仏だったんですか、じゃ~、こちらの目の前に見える聳える山の裾野は宜しいでしょうか。」
「はい、此処からならば大丈夫ですよ。」
「はい、有難う御座います、じゃ~此処に窯を作りますんで。」
「親方、じゃ~今から直ぐに掛かります。」
左官屋だと名乗る男達は、何も知らずに山の麓へ近付き、下手をすれば、今頃は底なし沼に沈み、お陀仏になっていたのかも知れない。
「其れとだ、他の者は粘土が有る山を探すんだ、皆もわかって要ると思うが、今度は沢山要るんだから、其れも考えて探すんだぞ。」
十人以上の男達が周辺を見回り、粘土が取れるところを探して要るが、果たして、直ぐに見付ける事が出来るのだろうか。
そして、暫くすると、石工がやって来た。
「遅くなって、申し訳有りません、私が宮川です。」
「社長さんですね、わしらは左官屋でして、源三郎様から今回は蝦夷地での仕事ですが、大変厳しいですが、何卒宜しくお願い致します。と、直接お話しが有りましてね、其れで、腕のいい職人だけを連れまして、で、今、やっと着いたんです。」
「そうだったんですか、でも親方さん、大変申し訳御座いませんが、私は、今申されました源三郎様と申されます御方とは面識が無いんですよ。」
「えっ、総司令からですか、じゃ~社長さん、源三郎様ならば、何のご心配も有りませんよ、今回の件の全てをご存知ですからね。」
「左様ですか、では直ぐに説明させて頂きますので、では。」
そして、石工だと言う宮川は詳しく説明して要ると。
「親方、まぁ~、確かに川は有りましたが、でもあの浜から川砂を此処まで運ぶとなったら、其れは物凄く大変ですよ。」
「えっ、其れはどう言う事だ。詳しく話してくれ。」
「はい、まず此処から川に行くまでは、下り坂を大よそ一キロ以上を、そして、其処から浜までが、そうですねぇ~、ゆっくりとした下り坂を三キロ以上は有りますよ。」
「え~、そんなにも有るのか、う~ん、これは大変だぞ、川砂を此処まで運ぶだけで相当な人数と時間が掛かるからなぁ~。」
「親方さん、私はまだ理解出来ておりませんので、宜しければ詳しく説明して頂きたいのです。」
「はい、承知しました、じゃ~お話ししますので。」
其の後、左官屋の親方と呼ばれる男は、司令官にもだが、近くに居る兵士達にも理解出来る様に話した。
「う~ん、これは確かに大変ですなぁ~、私の様な素人が休みの日にやる様な仕事では、とてもでは有りませんが、無理ですよねぇ~、じゃ~親方さんは何か良い方法でも考え付かれておられるのでしょうか。」
「いや、其れよりも、今のお話しを伺って、わしらは、まぁ~飛んでも無い仕事を受けたんですよねぇ~、ですが、源三郎様は全てをご存知なんでしょうから、でも若しも全てをご存知だとすれば、此処での仕事の出来次第で、日本国の運命が決まるんじゃ無いかって、今、頭の中に、あの時、源三郎様が言われた言葉が浮かんで来るんすよ。」
「ですが、総司令の事ですから、全てを知ったうえで、我々に今回の仕事をお願いされたのでは有りませんか。」
「でも、私が考えた方法をお願いしましたら、司令官様や、他の方々に怒られるやも知れませんですよねぇ~。」
やはり、左官屋の親方は相当厳しい方法を考えて要る様だ、だが誰が考えても親方の考えた方法以上に素晴らしと思われる様な方法を、果たして考え付くのだろうか。
「親方さん、私や、他の方々がどうのこうのと言う事は、後程考えても宜しいかと思います。
ですが、今の問題は、どの様な方法が有るのか、そして、その方法は実行可能なのかを考えるべきでは有りませんか、正直申しまして、私個人としましては、今、親方さんが考えておられる方法しか無いと言うので有れば、一日でも早く、いいえ、一刻でも早く決断しなければならないです。
まぁ~その様な訳ですから、後程の事は、全て私が責任を持ちますから、安心して発言して頂ければ宜しいかと思いますよ。」
と、橘司令官は後の事は、全て自分が責任を取るとの発言をし、そのお陰か、やっと、左官屋の親方は方法を説明するので有る。
「司令官様、本当に宜しいんですか。」
左官屋の親方はまだ疑心暗鬼の様なのだが。
「ええ、勿論ですよ、今の私達には、何も思い浮かばないのですからね、ですから何も心配されず安心して説明して頂きたいのです。」
「はい、じゃ~今から、わしが考えた方法を説明させて貰いますんで。」
左官屋の親方は身振り手振りで説明を始めると、傍で聞いて居る司令官は。
「うん、ふん、ふん、ほ~そうですか、成程ねぇ~。」
と、親方の説明を、まるで最初から知っていたかのような様子で、そして、一応の説明が終ると。
「いゃ~さすがに親方さんだけの事は有りますねぇ~。」
「いいえ、正か、ただ、わしとしては今更今回の仕事を投げ出すわけには行かないですから。」
「ほ~成程ねぇ~、では総司令からの命令ですか。」
「いいえ、飛んでも有りませんよ、源三郎様に限って絶対に命令はされませんよ、ですが、あのお言葉を聞けば、わしは何としても、この仕事だけは命を掛けても絶対に完成させなければならないと思った、ただ其れだけの事なんです。」
「左様でしたか、皆さん、私は、親方さんが考えておられた方法に大賛成ですが、だからと言って、私は皆さんに強制するつもりは有りませんのでね、全ては皆さんで決めて頂いても宜しいですよ、其れと他にも良い方法が有ると思われるのであれば、お伺いしますからね。」
「私も大賛成ですよ、まぁ~其れにしても見事な方法だと思いますよ、私達の仕事は、岩山を削り、大きな穴を開けるんですが、親方さん達の仕事は、反対に開けた穴を、今度は綺麗に修復と言うんですか、仕上げて頂けるんですから、今から楽しみにしておりますよ。」
「司令官殿、自分も親方さんの考えられた方法に賛成で有ります。
やっぱり、長い間、其の仕事をされておられるお方の考えられた方法だと思います。」
其の後は反対する者もおらず、左官屋の親方が考えた方法で工事を進める事になったので有る。
「源三郎様、今、宜しいでしょうか。」
「お~、これは、これは、昌吾郎さんでは有りませんか、如何されましたか。」
「実は、ちょっと、お伺いしたい事が有りましたので。」
「勿論、宜しいですよ、さぁ~どうぞ。」
源三郎の傍には雪乃が居り、何か大切な話しでもしていたので有ろうかと、昌吾郎は思った。
「何か、大切なお話しでもされておられたのでは御座いませんか。」
「いいえ、別に、其れよりも、お話しをお伺いしましょうか。」
「はい、じゃ~説明させて頂きますが、実は大陸の事なんですが。」
「大陸の事と申されますと、若しやとは思いますが、ロシア軍の。」
「はい、その通りでして、あの隊長と中隊の兵隊さんの全員を、我が部隊の仲間として、入って頂ければ大変有難いのですが、如何で御座いましょうか。」
「いゃ~さすがに昌吾郎さんですねぇ~、では、詳しくお話し下さい。」
「はい、じゃ~、先日、源三郎様と工藤閣下のお話しに寄りますと、今度、編成する忍者部隊で、ロシア陸軍の基地を攻撃する作戦なのですが、私は、あの中尉と中隊の兵隊さん達も一緒に攻撃に参加して頂ければ、ロシア陸軍を攻撃する時には、大変役に立つと考えたのです。」
「ほ~成程ねぇ~、其れで、忍者部隊と攻撃に参加させると言う事ですが、何か特別な理由でも有るのですか。」
「はい、其れが、実に簡単な話しでして、私もですが、我々は大陸の事もですが、ロシア陸軍の事を全く知らないのです。
武器は、特に鉄砲はどの様なものを、更に、どの様な作戦を使うのか、そして、地理も其れが全く分からないのです。」
「それ程にも、昌吾郎さんが大事だと考えておられるのは。」
「其れならば、実に簡単でしてね、奴らも、正か目の前にやって来たのが、同じ軍服を来た、ロシア陸軍の兵達が、実は仲間では無かったと言うだけの話しなのです。」
「そう言う事ですか、大変素晴らしいお話しだと思いますよ、では、こそこそと入る事も無く、其れに、先陣として、あの中隊が堂々とロシア陸軍の基地に入る事が出来ると言う事なのか、ふ~ん、成程ねぇ~、其れならば、是非とも、採用しなければなりませんねぇ~。」
「左様ですか、誠に有難う御座います。」
「昌吾郎さん、少し待って下さいよ、今、頭に浮かんで来たのですがね、ロシア人って、みんな同じ様な顔付きなのでしょうか。」
「えっ、今、何と申されましたか、実は、私もあの時から同じ様な事を考えておりましてね、其れでですが、これは、若しもの話しですがね、若しも、ロシア陸軍の中の兵隊ですが、若しもですよ、若しも、奴らの全員がロシア人では無く、ロシア皇帝の軍隊から攻撃を受けた、他の部族とでも言うのでしょうか、他の人種の人達が強制的に兵隊さんにさせられた人達が含められて要るとは考えられないでしょうか。」
「いゃ~これは参りましたねぇ~、実を申しますとね、私は其処までは考えてはおりませんでしてね、単に、ロシア人と言うのは、皆、同じ様な顔付きの人達だろうかと、考えただけでしてね、ですが、今、昌吾郎さんが申された様な事が有るとすれば、やはり、戦略を考え直す、いや、幾つもの戦略を考えなくてはなりませんねぇ~。」
源三郎は昌吾郎が言う様な事態を想定しなければならないと考えたので有る。
「ですが、これはあくまでも、私が若しもと考えただけでして。」
「いいえ、その様な事は有りませんよ、私はねぇ~、やはり昌吾郎さんだけの事は有りますと、今、改めて知りましたよ、ですが、事実、我々はロシアの事などは全く知らないのですから、私は今からでも遅くは無いと思うのです。」
「あの時、日本陸軍と日本海軍は運良く、ロシアと言う超巨大帝国の軍隊に勝利したと考えなければならないのですねぇ~。」
「ですが、私は、その様に考えておりませんでしてね、私はねぇ~、あのロシア帝国が、このまま黙って要るとは、とてもでは有りませんが、考えられないのです。
事実、蝦夷地の最北端の岬へ攻撃を仕掛けましたし、潜水艦で向かった先の軍港にもですが、早くも別の方向からも軍艦が集結して要るところでしたからねぇ~。」
「では、私は考え付くだけの事を書き出して見ます。」
「そうですねぇ~、まぁ~これからは昌吾郎さんに取りましては、大変な事が続くやも知れませんが、全ては日本国と日本国民の為ですから、何卒宜しくお願いします。」
昌吾郎は大陸へ向かうのは未だ先の事だと聞いており、だが果たしてどれだけの事を考え付くのだろうか。
「もう皆さんのところでは人選は終わりましたでしょうか。」
「もう、わしのところでは終ってますんで。」 と、最初に大工の親方が発言した。
「はい、わしのところでも終ってますんで。」 と、鍛冶屋のところでも人選は終って要ると言う。
「親分さん、ところで宿舎を造る為の木材なんですが。」
「其れだったら、最初に降ろす枕木や、倉庫を解体した木材を持って頂いても宜しいんです。」
「じゃ~、そのまま貨車に積み込んでも宜しいんですね。」
「ええ、勿論ですよ、その為に積み込んだんですからね、ですが、余り遠慮されない様にね、少ないと困りますので多く持って行って欲しいんですよ。」
「親分さん、我々鍛冶屋ですが、大陸でやってた方法で宜しいんですか。」
「はい、勿論で、今のところは何の変更も有りませんので、ですが、今度は大工さん達と相談で決めて欲しいんです。」
「誰か、銀次親分を呼んで来てくれるか。」
「はい、自分が参ります。」
海兵は銀次達が話し合いをして要る場所を知って要るのだろうか。
「コンコン、コンコン。」 と、ドアをノックする海兵だが、何の返事も無い。
「コンコン、コンコン。」 と、再びノックし。
「あの~銀次親分さん。」「銀次親分さん。」 と、呼んでも返事は無く、で、仕方無く、ドアを開けると。
「失礼します、あれ~、銀次親分さんは一体何処に行かれたんだろうか。」
「おい、君は誰を探してるんだ。」
「あっ、はい、失礼しました、閣下が親分さんを呼んで来いと。」
「ああ、そうか、銀次親分だったら、一般食堂で話し合いをされてるよ。」
「はい、有難う御座います、では、失礼します。」 と、海兵は敬礼すると、大急ぎで一般食堂へ向かった。
「コンコン、コンコン、失礼します。」
「はい、何か。」
「はい、閣下が親分さんをお呼びで有ります。」
「分かりました、直ぐに、では、皆さん、何卒宜しくお願い致します。」
銀次は親方達に頭を下げ、直ぐ艦橋へと向かった。
銀次は、何時もと同じ様に艦橋に入るが、今までならば、敬礼などは全く無かった、だが、あの一件以来、皆が銀次を見る目が変わり、其れは、参謀長を始め、全員で有る。
だが、銀次は軍人でも無い、だが元は有る藩の剣術指南で、更に、北辰一刀の達人でも有る。
今では銀次も艦橋に入る時は、必ず、一歩前に進み、直立不動の状態で全員に対し礼をする。
「閣下がお呼びだと伺いましたが。」
「おお、これは銀次親分、忙しいところ大変申し訳無い、まぁ~部屋へ。」
本藤と銀次は特別室に入った。
「まぁ~お座り下さい、君、済まんがコーヒーを頼む。」
「はい。」 と、言って、当番兵は部屋に有る、カップにコーヒーを入れ、テーブルに置くと、部屋を出た。
「まぁ~どうぞ。」
「はい、有難う御座います、では頂きます。」 と、銀次はコーヒーを一口飲んだ。
「其れで、もう打ち合わせは終わりましたか。」
「はい、丁度でして、でも今回は何時もとは違いまして、今度、私が向かうところへは、口の固い職人さんをお願いして要るんです。」
「まぁ~其れも仕方が無いと言えば、余りにも簡単な言い方ですが、其れよりも、銀次さん達は蝦夷地で基地建設に入られるのですか。」
「はい、源三郎様からは、今回は日本国の運命が掛かって要ると伺っておりまして、私も其れは感じておりますので、例え、どんなにも厳しくとも完成させなければならないと考えております。」
「左様でしたか、ですが、余り無理をされ、身体を壊したら何にもなりませんからねぇ~。」
「はい、其れは、勿論承知しております。」
「ところで、総司令は来られるのでしょうか。」
「はい、多分ですが、次回には必ず来られる思っております。」
源三郎は次回には必ず来ると言う、本藤も其の後、どの様に進んで要るのか聞きたいので有ろう。




