第210話。遂に正体がばれてしまった。
「みんな、聞いて欲しんだ、取り除いた岩石だけど、今は直ぐ捨てるのでは無く、隅の方に集めてくれ。」
「中隊長殿、でも、何故、捨てては駄目なんですか。」
「実はなぁ~、この付近一帯には多くの沼地が有ると言われてるんだ。」
「えっ、そんな話しって、でも本当なんですか。」
「ああ、本当だよ、皆も見たと思うんだが、直ぐ傍に有る、あの草原なんだが。」
「あれですか、オレ達も何であの草原に線路を敷設しないんだろうって言ってたんですよ、じゃ~、若しかあれもですか。」
「ああ、その通りだ、君の考える通りなんだ、この話しは司令官殿が、先に技師長殿から聞かれてな、其の時、技師長殿が、「此処から数十メートル先からは直ぐ底なし沼だと、其れに地元の人達ならば、誰でも知っておりましてね、其れとこの付近一帯には多くの底なし沼が有るのです、」って、まぁ~そう言う事なんだよ。」
「じゃ~、何も知らずに入って行くとですよ、直ぐにお陀仏って事になって、え~、じゃ~、オレ達の死体は二度と。」
「ああ、その通りだと思うんだ、其れでだ、さっきの質問なんだが、先程の判断は司令官殿と技師長殿の意見が一致したと言う事なんだ。」
「と、言う事はですよ、山の中から突然開けたところに出た、だけど其処の目の前には底なし沼が見付かった、で、其の時に、今取り除いた岩石を掘り込むんですか。」
「ああ、その通りなんだ。」
兵士達も正か、付近一帯にも多くの底なし沼が存在していると知らず、少し驚いては要るが、司令官と技師長の判断で取り除いた岩石を掘り込むんだと判り、納得したので有る。
だが其の時、作業員達が巨大な木造の馬蹄形をした枠組みを運んで来た。
「あの~、司令官様は。」
「今、此処にはおられませんが、其れよりも、あの型枠と申しましょうか。」
「隊長様ですか、実はこの型枠で山を掘り進めて行くんです。」
「なんですと、この型枠と同じだけ山を切り崩して行くのですか。」
「ええ、その通りでしてね、ですが、実際は型枠よりも大きく切り崩して行くんですがね、そして、型枠の外側には煉瓦を型枠に沿って積み上げ、そして、最後に切り崩した小石を詰め込んで終わりになるんです。」
「隊長殿、こりゃ~物凄い工事になりますねぇ~。」
「だがなぁ~、この工事をやり遂げなければ、鉄道も通じず、その為、ロシアの軍隊が攻め込む事にもなりかねないんだ、我々は兵士に取っては、この工事も我々に取っては戦と思うんだ、奴らが、此処蝦夷地に上陸し、攻撃を仕掛けるのが早いか、其れとも我々が工事を完成させる方が早いか、其れが、我が大日本帝国の存亡が決定すると言っても過言では無いんだ。
其れにだ、これは我が連合国の為にも必ずやり遂げるんだ。」
「そうか、正か総司令も蝦夷地がこんな事になってるって、夢にも思ってられなれないと思うんだけどなぁ~。」
「ああ、全くその通りだ、総司令も我々ならば、必ず蝦夷地をロシア軍から護ってくれると考えられた思うんだ、其れにだ、我々だって、総司令のお陰でだと思うんだが、今の今まで命を永らえて来れたのも間違いは無いんだ、だから此処はみんなで総司令の問にお答えする事が、我々には本当の任務だと思うんだ、どうだ、みんなやってくれるか。」
「隊長殿、そんなのって当たり前の話しですよ、其れにですよ、今更、我々は工事の為に蝦夷地に来たんじゃ無いなんて、絶対に言えないですよ、自分は恥ずかしくって。」
「よ~し、話しは決まった、今から班を編成してだ、何を担当するかを決めようぜ。」
「あ~あ、又、始まったよ、真吾って、何時も自分が親方のつもりで要るんだからなぁ~、まぁ~困った奴だよ。」
「えっ、オレって、今、そんな事を言ったのか。」
「あ~あ、な、これだ、もう自分の言った事も忘れてるぜ、まぁ~本当に困った奴だぜ。」
「まぁ~何時もの事だかなぁ~。」
何時の間にか、部隊の誰もが和み、そして、笑いが起きている。
「よ~し、じゃ~、真吾が班編成するか。」
「えっ、そんなのって無理ですよ、だって自分は。」
「え~自分はなんだよ、はっきりと言うんだ、お前が言い出したんだからなぁ~。」
「その通りだよ、お前が言い出したんだぞ。」
「もう、みんな、そんなにいじめるなよ、この通りだから、頼むよ。」
と、真吾と言う兵隊は両手を合わせ、頭を下げた。
「真吾、本当に決めても良いんだぞ。」
「もう、隊長殿まで、お願いですから、どうか許して下さいよ。」
「よ~し、分かった、じゃ~、中隊長達で決めてくれますか。」
「はい、じゃ~、真吾、お前には一番大事な仕事が有る、其れはなぁ~、みんなの動きを注視してだ。」
「え~、中隊長殿までも、もうお願いしますよ、お許しを。」
と、真吾は頭を下げるのだが。
「いいや、駄目だ、だが何も真吾ひとりにさせる様なことは無いんだ、此処での仕事は色々と多く有ると思うんだ、真吾の役目と言うのはだ、危険が無いか、事故が起きないかを見て欲しんだ、そして、若しもだよ、真吾の目で見て、これは危険だと思った時には、直ぐ仕事を中止させ、隊長殿にお知らせし、改善する様に、其れが真吾の一番大事な仕事なんだ。」
「いゃ~さすがに中隊長だなぁ~、私も今の意見には大賛成だよ、だがその前に、先程、真吾が言った様に班編成が必要だが、まずは仕事の内容からだなぁ~。」
「なぁ~あんたに少し聞きたい事が有るんだけど、いいかな。」
「わしにですか、で、一体何を知りたいんですか。」
「今、目の前に有る巨大な型枠の事なんだけど、あの一番上では、一体何人くらいの作業員が要るんだろうかなぁ~って、さっきから考えてるんだけど、あんただったら、何人くらい要るって思うか、其れを聞きたいんだけなんだ。」
「う~ん、そうですねぇ~、まぁ~一番少ない人数でも七人ですかねぇ~。」
「えっ、七人もですか、でも何で七人も要るんですか、わしは素人なんで、全然分からないんで。」
「そうですか、わしは兵隊になる前ですがね、石の採掘場で働いてたんで、まぁ~其れで、大体の事はわかるんですよ。」
隊長と中隊長も直ぐ傍で二人の会話を聞いて要る。
「だったら、少しですが、わしの知ってるだけの事ですけど、説明しますからね。」
彼は、軍隊に入る前は石の採掘場で働いていたと言う、彼が説明を始めると、隊長や中隊長だけで無く、二人の周りには多くの兵士が集まり、皆は元石工だと言う兵士の説明を真剣に聞いて要る。
だが、元石工の兵士の説明を聞き始めると、隊長もだが、中隊長も、其れはもう大変な驚き様だ。
「隊長殿、彼の説明を聞いておりますと、今の一個中隊では余りにも、人数が少ないとは考えられないでしょうか。」
「そうだなぁ~、実は、私も今其れを考えて要るのですが、一度、司令官殿に話す必要が有る様に思えるんですよ。」
だが、其の時、橘司令官がやって来た。
「隊長、何か問題でも起きたのですか、皆が集まって、何やら話し合っておられる様に見えるのですが。」
「あっ、司令官殿、実は、今、ひとりの元石工と言われる兵士が説明して要るのですが、彼の説明を聞いておりますと、今、此処におります、一個中隊だけでは、余りに少ないのではと考えられましてね、其れで今からでも司令官殿にご相談に参るところだったのです。」
「そうだったんですか、で、彼の話しでは一体何人が必要だと言われて要るのですか。」
「其れが、少なくとも二個、いや、三個中隊程の人数が必要だと考えられるのですが。」
「そうですか、それ程にも大勢が必要だと考えられるのですね。」
「はい、左様でして。」
「では、私も聞かせて頂きましょうか。」
と、橘司令官は傍に行って聞く事にしたので有る。
「なぁ~、ちょっと聞きたいんですがね、さっき、岩石にも木材と同じで、石にも目が有るって、その石の目って、オレの様な素人でもわかるんですか。」
「ああ、直ぐにわかるけど、だけど、そんな岩は極少数でね、まぁ~普通だったら、五年、いや十年は掛かって認識出来るんですよ、其れよりも、目の前の山の岩石だけど、皆さんは簡単に削れるって、考えてはおられませんか。」
「えっ、だけど、普通の石だと思うんだけどなぁ~。」
「確かにその通りですがね、実は其れが大変な間違いなんですよ、確かに前の岩だったら、誰にでも出来ますよ、ですがねぇ~、皆さんの前に有る山は殆どが岩で出来て要ると思うんですよ、其れを鏨を金槌で打って行くんですが、普通のお人だったら、普通だったらまぁ~三十分、いや、良く出来るお方でも一時間も打ち続ければ、もう手の、いや腕の力は抜け、何も持つ事は出来なくなりますよ、其れに下手をすれば、多分ですが、お箸も持つ事も出来無くなると思いますがねぇ~。」
「えっ、其れって、本当なのか、じゃ~、その仕事に就く人は大勢居るって事なのか。」
「ええ、勿論、本当ですよ、私は元が石工なので、数時間は大丈夫ですがね。」
だが、其の時。
「ちょっと、済まんが開けてくれますか。」
「あっ、司令官殿だ、みんな開けてくれよ、司令官殿がそっちに行かれるから。」
すると、す~っと、皆が開けて行く。
「君か、元石工って言う兵士は。」
「はい、自分で有ります。」
と、敬礼すると、司令官が答礼した。
「其れで先程からの話しだが、あれは本当なのかね。」
「はい、全て自分の経験からで有りますが、ですが、若しかすれば、一部は違って要るかも分からないのです。」
「まぁ~其れは良い、其れよりもだ、私が知りたいのは、作業員の人数だが、君の考えを聞かせてくれないか。」
「司令官殿に申し上げますが、今直ぐにと申されましても、その前にこの様な仕事には順番と言うのが有りまして、まずこの工事を何時迄に完成させれば良いのか、其れが、最も大切だと考えますが、其れよりも、皆様方の中には、お前の様な二等兵が、司令官殿に対し、何を偉そうに質問するんだ、大変失礼な事だと思っておられるやも知れません。
ですが、只今、お話しさせて頂きました事は一番大事な事で有ります。
司令官殿、私の様な二等兵の分際で、大変失礼な事を申しまして、誠に申し訳御座いません。
と、元石工は頭を下げたのだが、橘司令官は不思議に起こる気持ちにはなれなかったので有る。
この元石工だと名乗る二等兵はただの石工では無いと、だが、今は其れを追及する必要も無く、何れは分かるで有ろうと。
「そう言えば、確かあの時、技師長からは、「機関車を含め、貨車や客車を六両連結した状態を一編成として、其れを十編成、いや、十五編成が待機出来る場所が必要なんです。」とは言われたが、期日の指定は無かったなぁ~。」
「ですが、何故だか判りませんが、不思議でならないのですと、申しますのは、我々は先日まで、岸壁の倉庫に有った、線路や枕木などを、この現場に運び入れました。
自分は何も技師長殿を疑って要るのでは有りませんが、人間の記憶して要る事よりも、忘れて要る事の方が多いと聞いております。
ですが、司令官殿のお話しで有りますと、後日、いや、自分は何時頃になるのか判りませんが、今度は其れこそ本当に大量の線路や枕木が到着する様に思えてならないので有ります。」
「おい、おい、今、君は何と言ったんだ、え~君は後日、其れこそ大量の線路や枕木が到着すると、えっ、若しやあの電文と書面に書かれた事は。」
やっと、橘司令官も気付いたのかも知れない、だが橘司令官は不思議と、この石工の言う事が本当かも知れないと思うので有る。
だが、石工の言う後日、大量の線路や枕木が到着する事が本当になるとは、この時の誰もが本気には考えていなかった。
「大将、先程の一件ですが。」
「えっ、先程の一件って、一体何んの話しですか。」
「もう、お忘れですか、私の子分達は大将のお話しを聞いていなかったと言う一件ですが。
「いゃ~あれはねぇ~、いやもういいんですよ、だって。」
「いいえ、その様な訳には参りません。本日、大将のお話しは大変重要で有ると伺っておりましたので、其れを子分達は折角のお話しを聞かずに、更にあの様な態度、私はあのような態度は決して許されるものでは無いと考えております。
ですが、今は子分達全員の首を刎ねますと、仕事が大変な事になります、どうか、お許しの程、お願い致します。」
と、銀次は地面に手を付き、頭を下げたのだが、何故か大将の返答は無かった。
だが、其れよりも子分達は一体何が起きたのかもさっぱり分からず、全員が啞然としており、言葉も出せない状態で有る。
「左様ですか、では仕方御座いません、私の首を差し出しますので、其れで、お許しの程お願い致します。
小次郎、私の首を刎ねるのだ、だが其れでもお許し願えねば、分かっておるな。」
「はい、勿論で御座います、私の首をお出しします。」
「よし、では。」と、銀次は座り直し、そして、小次郎が太刀を上段に構えた、と、その時。
「ちょっと待った。」 と、本藤が止めた。
「なぁ~銀次親分、いや、銀次さんとでも呼ばせて頂きましょうか。」
「本藤元帥閣下、これは、全て私の責任で御座いますので、何卒、お許し下さいませ。」
「いいや、そうは参りませんよ、その前に銀次さんの本当の名をお聞かせ頂けますか。」
銀次は、さすがに大日本帝国海軍の元帥閣下だけの事は有る、全てを見抜いて要るのだと思い、全てを話す気持ちになった。
「はい、では申し上げます、私は性を米田、名を銀次郎と申しましす。そして、この者は、私の息子で、名を小次郎と申します。」
「やはりねぇ~、其れで剣術ですが。」
「はい、私は東北の有る小藩で剣術指南をさせて頂いておりましたが、有る時、突然、時の幕府から藩を取り壊されまして、私も家族も当然、藩でも指南役を召し上げられまして、それで、家族と共に江戸へ参る事になったのです。」
其の後も銀次は詳しく話した、そして、又も、銀次は言った。
「これは、私がやくざ者だからと言うのでは無く、上に立つ者の責任だと思います。」と言うと。
「よ~く、分かりました、では、私がお手伝いさせて頂きます。」
「はい、閣下、宜しくお願いします。」と、銀次は改めて座り直し、手を付き、頭を少し下げた、その瞬間、本藤の持つ太刀が風を切った。
「さぁ~これで終わったよ、銀次親分。」
「閣下、誠に有難う御座います。」と、改めて手を付き、頭を下げた時、銀次の頭から髷がぽとりと落ちた。
「親分、本当に済みませんでした、でもオレ達は。」
「もう、いいんだ、明日からはもっと大変になるぞ、皆もわかって要るな。」
「はい、勿論、任せて下さい、オレ達だって馬鹿じゃ有りませんから、それに今度下手な事をすれば、それこそ、源三郎様には、大変なご迷惑を言掛ける事になるって、そんなのってみんなも分かってますんで。」
「そうですよ、それに親分にだって、いや、銀次郎大親分にもで。」
「親分さん、明日からの事は皆さんに任せても大丈夫ですよ。」
「大将にその様に言われますと、何も言う事が無くなりますよ。」
「まぁ~まぁ~其れで先程の話しですがね、流儀って言うのですか、何流ですかな。」
やはり、本藤も、いや、本藤の父も有る藩では、名の知れた使い手で有り、本藤も幼い頃より、厳しく鍛えられた。
だが、其れよりも、倉庫の向こう側には八十人近くのロシア陸軍の兵士の殆どが、喉を突かれ、更に切り裂かれ、声を出す事も出来ずに死んで行ったが、其れもあっという間の出来事で有る。
「はい、一応ですが、北辰一刀流を少々学んでおりました。ですが、先程のロシア陸軍の兵士との戦ですが、全く別の。」
「そうでしたか、で、総司令には。」
「あの御方だけは特別でして、私が、最初にお会いした頃は、其れはもう全身から恐ろしい程にも殺気を感じまして。」
やはり、本藤も銀次と同じ様に感じていたので有る。
「やはりでしたか、実は、私も同じでしてね、私がまだ若い頃の話しですが、時々ですが、今の三鶴港に来られるのですが、その時には、もう身の毛がよだつ程と言いましょうか、近寄りがたい程の殺気でしたからねぇ~、ではお伺いしますが、江戸におられた頃ですが。」
「閣下は若しやとは思いますが、高橋道場におられたお若い総指南役の事では有りませんか。」
「やはり、聞かれておられたのですか。」
「はい、其れはもうあの当時、江戸では誰も知らぬ者はいなかったと聞いておりまして、これは聞いた話しですが、毎日多くの侍が、若い総指南役に稽古をと挑まれるのですが、殆どが何も出来ずに道場を去って行くと、言うよりも、余りの恐ろしさに、誰もが、其れ以上に殺気に負けたので有ろうと思っております。」
「では、一度くらいは道場に参られたのですか。」
「いいえ、飛んでも御座いませぬ、私の剣法など、とてもでも有りませんが、御方には通じる訳は有りません。」
と、銀次は否定するのだが、やはり、何処かに、一度でも良いから立ち会う事が出来れば考えていたのだが、それが、正か、源三郎だと知った時には、やはり行かねば良かったと思うので有る。
「ですが、多分、源三郎様ほどの御方ですから、最初にお会いした時には、私の全てを見抜かれたと思います。」
本藤も銀次も、源三郎を見る目は同じで有る、そして、明くる日から、線路の積み込み作業に入るので有る。




