第209話。何と、銀次は地獄の閻魔大王なのか。
「技師長殿。」
「大変申し訳有りません、司令官殿には大変お忙しいところをご無理を申し上げまして。」
「いいえ、其れは別に宜しいのですよ、其れよりも技師長殿が重要なお話しが有るとの事で急いで来たのですが、で、その重要な用件とは一体どの様な事柄なのですか。」
橘司令官は技師長から重要な話しが有ると聞き、だが、今一番重要な案件とは鉄道線路の敷設だと考えており、他に一体どの様な用件が有ると言うのだ。
「司令官殿、まずはこの地図を見て頂きたいのです。」
技師長は二枚の大きな地図を広げた、一枚は蝦夷地の全体図で、その地図には赤い線が引かれており、今後予定されて要る鉄道線路の敷設地図で有る。
そして、もう一枚の地図には現在工事が進められて要る付近一帯の地図で、その地図を見ると、東から西へと進み、そして、最初の大きな曲がり角付近が拡大され、だが予定よりも遥かに遅れて要ると見られる。
「司令官殿、こちらの地図を見て頂きたいのですが、実はこの部分なんですがね。」
技師長が指で示したところを見て。
「えっ、若しやこの地点が、今我々が工事に入って要るところなのですか。」
「はい、全くその通りでして、この曲がり角から大よそ三キロ程だと思います。」
何と言う事だ、これでは全く進んではいないでは無いか、と、橘司令官は大声で叫びそうになった。
「其れで、私に重要な話しとは、一体どの様な内容のお話しなのですか。」
「はい、実は、この曲がり角と言うのは、大変重要なところでして、先日も大変なご無理を申し上げました。」
技師長が其の後、詳しく説明すると。
「技師長殿の説明ですと、この山の向こう側へは行けぬと、ですが、何故ですか、同じ工事ならば、直線に進む方が余程楽だと思いますがねぇ~。」
「ええ、確かに司令官殿が申されます通りでして、ですが、この地図に載っておりますが、この半島近くには昔より、蝦夷地では最も大きな藩と申しましょうか、国が有りまして、その国に行くには、今でも高い山を越して行くか、海上から行くか、この二通りしか無いのでして、更に、厄介なのが、山の向こう側はその国が所有する土地なのです。」
「えっ、と、言う事はですよ、日本政府でも対処が出来ないと申されるのですか。」
「はい、左様でして、ですが、我々は何とかして山の向こう側まで待機線を引きたいと、何度も交渉を行ったのですが、全てが却下されたのです。」
「技師長殿のお話しは良く分かりましたが、其れで、我々は一体何を致せば宜しいのでしょうか。」
この時、司令官は一瞬では有るが、技師長から向こう側の国を何かの方法を使い、待機線の工事が出来る様に説得して欲しいと言われるものだと思ったのだが。
「実は、先日、駅長さんのところへ行ったのは、駅に有る電信機を使いまして、東京に連結を取り、次の策を聞く事でした。」
「其れで、東京からの返事はどうだったのですか。」
「はい、其れが、全く思いも掛けない内容でした。」
「で、思いも掛けない内容とは。」
だが、橘司令官は全く想像出来ない内容を聞かされるので有る。
「司令官殿、もう一度地図を見て頂きたいのですが此処が、今我々の工事現場でして、其れで、次に考えられたのが、同じ山ですが、掘り進めて行くのですが、その時に少しづつですが、右側へゆっくりと曲がって行く方法でして。」
「其れは分かりますが、でもその前に有る、あの草原に線路の敷設する方が遥かに簡単では有りませんか。」
二人が話し合って要るところからは大きなと言うのか、広大な草原が見える、橘司令官にすれば、広大な草原に線路を敷設する方が遥かに簡単だと考えて要る。
「司令官殿が申されますあの草原ですが、あれは巨大な湿地帯でして、ですが、私が調査した結果ですが、此処から百メ~トル先からは全体がもう沼地と思われるのです。
私自身が五メ~トル程の棒を突き刺しましたところ、浅いところで三メ~トルで、深いところでは五メ~トルの棒が全部入りましてね、もうこれでは無理だと判断したのです。」
「う~ん、そうですか、これは大変な事になって来ましたが、では我々は目の前に見えます、高い岩山を掘削するのですか。」
「はい、左様でして、工具類は全部有りますので、後は人員だけなのです。」
橘司令官は正かとは思ったのだろうが、だが現実として、今、目前に有るのだ。
「後日、私も作業員に聞きましたところ、あの草原は全てが浮島と言って、地元では、あの様なところは全てが底なし沼と言いまして、この付近には多く存在しており、誰も近付かないそうなのです。」
「底なし沼ですか、では、技師長殿が申される様に、岩山を掘り進む方法しか、手が無いと言う事なのですか。」
「其れと、言い忘れておりましたが、何故に待機線が必要かと申しますと。」
技師長は、其の後、何故待機線が必要なのかを詳しく説明すると。
「左様でしたか、よ~く、分かりました、早速工事に掛かる様にしますので。」
「司令官殿、誠に申し訳有りません、ご無理を申しまして、ですが、こちらの工事が完了しますと、線路を敷設も大きく前進すると思います。」
技師長にすれば、これで大きな問題は解決出来たと考え、後は一日でも早く工事が完了する事だけを願って要る。
だが、この工事を終える頃、源三郎が進める、潜水艦艦隊の秘密基地の建設に大きく貢献するとは、技師長もだが、橘司令官も全く予想すらしていなかった。
「其れならば、あの中から二千人程を選んでも何の問題も無いと言う事になりますが、其れで宜しいでしょうか。」
「ええ、其れは勿論宜しいですが、でもちょっと待って下さいよ、確かに佐野さんと掛川さんのお二人ですが、お互いの部隊ですが、え~っと確か、一千人づつくらいの兵隊さんが居られるはずですが。」
工藤も、あれからはもう長い年月が経っており、正か自分と一緒にこの連合国にやって来た仲間を新しい部隊に参加させる事などは全く考えてはおらず、更に仲間の多くが、今では農村や漁村と、更に城下にも仕事に就いており、勿論、殆ど全員が夫婦となり、今の生活を潰す事などは出来ず、勿論、殆どが子供を儲けて要る。
「閣下は若しやとは思いますが、二千人くらいと聞かれた時、最初にこの大隊を思い浮かべられたのでは有りませんか。」
「いゃ~参りましたねぇ~、其処まで見抜いておられるとは、総司令、やはり昌吾郎殿には今回の作戦に参加して頂かなければ、我が連合国もですが、我が大日本帝国の民は、数百年、いいえ、我らは半永久的にロシアの植民地となり、地獄の生活を強いられるのです。
やはり昌吾郎殿は今回の作戦には是非とも参加して頂きまして、今の様に見抜いて頂ければ、作戦は必ずや成功するものと確信致します。」
「如何でしょうか、昌吾郎さんも直ぐに答えを出すのも大変でしょうから、数日間でも考えて頂く訳には行かないでしょうか。」
源三郎は数日間考え、其の後にでも答えを出しても良いと言うのだが、傍に居る工藤は昌吾郎の事だ、直ぐに答えを出すで有ろうと考えて要る。
「其れと、今ひとつお伺いしたいのですが、総司令に本藤閣下、そして、工藤閣下、この様に三人の賢者が、僅か二千の兵隊さんを連れ、ロシアの軍勢に襲い掛かると言う様な無謀な策を考えておられるとはとてもでは有りませんが、考えてはおられないとは思うのですが、何か特別な方々でもおられるのでしょうか。」
さすがだ、昌吾郎は全てを見抜いて要るのだと、源三郎もだが、本藤も工藤を驚いて要る。
「いゃ~さすがに参りましたねぇ~、私は何も申し上げる事は有りませんよ、昌吾郎さんの申されます通りでしてね、先程の二千人とは別に特殊部隊として二百人程が必要なんですがね、その人達が今一番の問題なのです。」
源三郎はもう脱帽しましたよと言う様にも聞こえる様な言葉を発して要る。
「特殊部隊と申されますと、やはりロシアに侵入し、破壊活動を行うのですか。」
「まぁ~、その方法も有るとは思いますが、私の考えですが、基地の破壊は勿論ですが、ロシア兵も全員抹殺しなければ、何の意味も無いと考えて要るのです。」
「と、言う事は全滅させるのですか。」
「ええ、正しくその通りです。」
工藤はロシア軍の基地を破壊するのもだが、兵士達全員を殺す事の方が最も大事で有ると考えて要る。
「その為には二百人程の特殊部隊も必要だ、だが、一番の問題は人選で有ると、総司令も工藤閣下も考えておられるのですね。」
「ええ、二千名の部隊を編成するよりも、特殊部隊の編成する方が大変で有ると、考えておられる様ですが、何故に問題なのでしょうか、若しやとは思いますが、特殊部隊には何か特別な任務を考えておられるのでは有りませんか。」
「う~ん、やはり、昌吾郎殿だけは別格ですねぇ~、確かに昌吾郎殿が申される通りでして、最初に申しました二千人は普通の部隊とは申しましても、射撃に関しましては、特選隊の方々には厳しく、更に特別訓練をして頂く所存でしてね、まぁ~、簡単に言えば、昔の忍者の組織の様だと考えて頂いても宜しいかと思います。」
「成程ねぇ~、忍者部隊ですか、まぁ~、二千人だとして、一千人が伊賀の衆で、片方は。」
「其れならば、もうひとつの、いや、一千人は甲賀衆と言う事になりますねぇ~。」
工藤はこれでやっと一歩前進したと思うのだが。
「では、先程、申されました二百人の特殊部隊と申されますのは。」
「実はですねぇ~、私の考えですが、この二百人の特殊部隊と言うのが最も大事な部隊でしてね。」
「大事な部隊と申されますと。」
「先程の部隊と特選隊と合わせた部隊が一番の主力の部隊になると考えております。」
「成程ねぇ~、そう言う事だったのですか、其れで、私は一体何を致せば宜しいのですか、正かとは思いますが、その特殊部隊の訓練でもやれと申されるのでは有りませんですよねぇ~。」
「いいえ、飛んでも有りませんよ、正か昌吾郎殿に訓練などをお願いする事などとは、全く考えてはおりませんので、実は総司令と私と一緒に大陸へご同行願いたいのですが、宜しいでしょうか。」
「ほ~、大陸へですか、では、やはり向こうで何か問題でも有るのですか。」
「はい、左様でして、では詳しく説明しますので。」
工藤は何故に今回の一件で昌吾郎が必要かを説明した。
「承知致しました。私の様な者が一体どれ程お役に立てるのかわかりませんが、精一杯させて頂きますので、宜しくお願い致します。」
「いいえ、実は私も昌吾郎さんの人を見る目には大変感心しておりましてね、其れで今回、工藤さんからお話しをお伺いした時には、まぁ~正直申しまして、私自身としましては物凄く痛いと、いいえ、其れよりも、連合国を含め、日本国の為だと考えたのです。」
源三郎は今までならば連合国の領民の為が最優先とするのだが、もう今となっては連合国だけの事よりも、大日本帝国の領民の為にと考える様になったので有る。
「ですが、大陸へ向かうのは今直ぐでは有りませんのでね、其れまではゆるりとして頂いても宜しいのですよl。」
「親分、大変だ、ロシア軍が、親分は。」
「おい、一体何が起きたんだ、そんなに慌てて。」
「親分、大変なんですよ、ロシアの兵隊が。」
「何だと、其れは本当か。」
「ええ、勿論ですよ、まぁ~あれだったら、七十か八十人以上は居りますよ。」
「そうか、分かったよ、お前達は引っ込んでろ、小次郎は何処だ。」
「はい、此処に。」
「わしの太刀を持って来るんだ。」
「はい、では、私も参ります。」
「だが、相手は。」
「はい、勿論承知して居ります、では、直ぐに。」
「ねぇ~、親分、一体どうしたんですか、何時もと全然。」
子分達は銀次の表情が突然変化し、今はまるで鬼の様な形相に驚いて要る
「お前は皆に知らせ、此処には来るなと言え、小次郎は此処で止めるんだ。」
「はい、承知しました。」
「では、参るぞ。」
と、銀次は太刀を腰の帯に通し、ゆっくりとロシア軍がやって来ると言う方へと向かって行く。
「一体、何が起きたのですか。」
「あっ、参謀長殿、実は遂さっきなんですがね、ロシアの兵隊がやって来たんですよ。」
「えっ、で、一体、誰が向かったのですか。」
「はい、其れが銀次親分がおひとりで行かれたんですよ。」
「なんですと、では、他は。」
「はい、其れがその向こう側に一家の若い者が待ち構えてまして。」
「其れは大変だ。」 と、言った参謀長は軍艦が停泊中の岸壁へと走って行った。
「隊長殿、向こうから変な男が向かって来ますよ。」
「わかっておる。」
と、隊長と呼ばれる男は銀次の動きをじ~っと見て要る。
銀次は尚もゆっくりと歩いて来る。
「五十二、五十三、う~ん、大よそ八十と言うところか、少し厳しいが、まぁ~何とかなるだろう。」
と、独り言を言う銀次はひとりでロシア軍の兵士八十人を相手にするとでも言うのか、其れに銀次は鉄砲では無く、太刀の一振りだけで有る。
「おい、お前は一体何者で、何処から来たんだ。」
「何だと、人にものを訪ねる時にはなぁ~、先に自分の身分を名乗る事も知らんのか、やっぱりロシア人の教育程度は低いなぁ~。」
「何だと、わしはロシア大帝国陸軍のオレルチェンコ中尉で有る。」
と、ロシア陸軍の指揮官と思われる人物は偉そうな顔で名乗ったのだが。
「そうか、わしはなぁ~、大日本帝国では一番恐ろしいと言われる、やくざ者で銀龍一家の銀次と言う大親分で有る。
わしは今からお前達赤鬼野郎を成敗する為に来たんだ、さぁ~何処からでも掛かって来い。」
「お前は一体何を言ってるんだ、わしには全く理解が出来ないぞ、其れよりも用件はなんだ。」
「なぁ~んだ、全然分からないのか、じゃ~今はっきりと言ってやる、わしはなぁ~、お前達全員を殺しに来たんだよ、おい、わかったのか、この大馬鹿野郎が。」
と、言いながらも、銀次は少しずつだが間を狭め、ロシア軍の兵士とは殆ど目の前近くまで来た時、一瞬、銀次は太刀を抜いたとほぼ同時にロシア陸軍のオレルチェンコ中尉の喉に銀次の太刀の剣先が突き刺さったと思うと、直ぐ抜き、目前の兵士十数人の喉を切り裂き、そのままで後ろに居た兵士十数人も同じく喉を切り裂いて行く。
何と言う早業で有ろうか、銀次は銀龍一家と言う、やくざ組織の親分で、その様なやくざの親分が、あっと言う間に数十人のロシア陸軍の兵士を切り殺したので有る。
ロシア陸軍の兵士達は目の前に現れたひとりのやくざ者の早業とでも言うのか、奇襲攻撃とでも言うのか、更に、運が悪いとでも言うのか、彼らは何故だか分からないが、彼らが持つ銃には一発の弾丸も入れておらず、其れを忘れて要るのか、全員が必死で引き金を引くのだが、何度引いたところで銃から弾丸は発射されず、兵士達は次々と銀次の持つ太刀に喉と突かれ、そして、切り裂かれ、声も出せず倒れ、そして、息絶えて行く。
だが其れでも銀次の太刀は止まる事を知らず、ロシア陸軍の兵士の死体だけが増えて行く。
だが、中には一体何を考えたのか、銀次の攻撃から必死に逃れようと、だが何故に小次郎が待ち構えて要るところへと向かう。
「やはりなぁ~、父上の太刀裁きに恐れをなしたのか、赤鬼野郎がこちらに来るのか、よ~し、今度は私の番だ、奴に日本人の恐ろしさを思い知らせてやるか。」
と、小次郎は独り言を言って、腰の脇差を抜き構えた。
「もうこの先にお主達を行かせる訳には参らぬ、この場で三途の川を渡れ。」
だが果たして小次郎の言葉がロシア軍の兵士に通じるのか怪しい、だがもうロシア軍の兵士は何も考える事が出来ないのだろうか、小次郎に向かって突っ込んで来る。
だが小次郎の脇差の剣先がロシア軍の兵士の喉に突き刺さり、声を発する事も無く、鮮血を噴きながら、その場に倒れ、其れはあっという間の出来事で、ロシア軍の兵士達にすれば、何故死んだのかもわからずのままで有ろう。
銀次と小次郎の二人だけで、ロシア陸軍の兵士を次々と倒して行くのを、銀龍の子分達はもだが、大将を含め、船員達を見て要るのだが、其れよりも、銀次と小次郎の動きは、やくざ者の動きでは無く、だが、あの二人は一体何者だと考えだすのも当然で有り、やがて、其処へ騒ぎを聞き付けた、本藤が数十人の海兵を伴い、駆け付けたのだが、本藤も海兵の全員が現場を見た途端、あっけに取られ、一体何が起きたのかもさっぱり分からない状況で有る。
そして、銀次と小次郎の二人は、一体何者で有ろうか、だが、ロシア兵の殆どが倒れて要る。
「小次郎、その者は殺すで無い。後で聞きたい事が有る。」
「はい、承知しました。」
と、小次郎は両手を広げ、行く手を塞ぎ、脇差が兵士の脇腹を思いっきり打つと、兵士は呻き声を挙げ、その場に倒れ、そして、やっと終わったので有る。




