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週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

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第97話:プリントの配り方

翌朝の1時間目。

雨はすっかり上がっていたが、空気は昨日よりも一段と冷え込み、教室の窓ガラスは白く結露していた。

先生が教壇の上に新しいプリントの束をドンと置くと、「じゃあ、一番前の席から順番に後ろへ回せ」と指示を出した。教室内は、紙が擦れるカサカサという音と、生徒たちの小さな雑談の声で包まれていく。

新学期から手に入れた一番後ろの廊下側の席。蓮がノートを開いて授業の準備をしていると、前の席から回ってきたプリントの束が、隣の白石真白の元へと届いた。

真白はプリントを自分の机の上に置くと、蓮の方をくるりと振り返り、お箸を揃えるようにして紙の端を綺麗に整えた。そして、マフラーに顔を半分うずめながら、ニヤニヤとしたいつもの意地悪な笑みを蓮に向けてきた。

「宮本くん、授業が始まる前の『勝負』、しない?」

(また始まった……。本当に朝一番からこれかよ)

蓮は苦笑いしながらも、いつもの日常のペースに戻ってきたことに、どこか安心している自分に気づき、お箸……ではなくシャープペンシルを持ったまま身構えた。

「何の勝負だよ。早くプリント回してくれよ、先生に怒られるぞ」

「いいじゃん、すぐ終わるよ。ルールは簡単。私がこのプリントをね、宮本くんに『右手』で渡すか、それとも『左手』で渡すか、宮本くんが当てるの。もし宮本くんの予想が当たったら、今日の放課後、私がまた購買のいちごオレを奢ってあげる。でも、もし外れたら……今日の放課後の日直の仕事、私の分の黒板消しも宮本くんがやってね。はい、どっち?」

真白はプリントの束を自分の胸の前に持ちながら、蓮の顔をじっと覗き込んできた。

(右手か、左手か……)

蓮は真白の手元をじっくりと観察した。彼女はすでに、自分の『右手』でプリントの端をしっかりと握り、今にも蓮の机の上に差し出そうとしている。左手は机の上に置かれたままで、動かす気配は全くない。

(……いや、待てよ? これはあいつの罠だ。僕が『右手』って答えるのを見越して、あえて直前で左手に持ち替えてから渡してくるかもしれない。いや、さらにその裏をかいて、普通のストレートな選択肢で僕が深読みして自滅するのを待っているのか? 昨日の傘の勝負だって、あいつは僕が難しく考えすぎるのを完璧に読んできたんだからな!)

真白のこれまでのずる賢いパターンを思い出し、蓮の脳内コンピューターがフル回転を始める。彼女の白い頬が、朝の柔らかな日差しを浴びて、ほんのりと桜色に染まっているように見えた。

(だったら、あいつの予想のさらに上をいってやる!)

蓮は意気込んで、真白の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「……左手だろ。真白さん、右手に持ってるように見せかけて、僕が右手って答えた瞬間に、わざわざ左手に持ち替えて渡すつもりなんだろ。そのずる賢い顔を見れば全部分かるぞ!」

少し挑発的に笑ってみせる。

すると、真白は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。しかし、彼女はすぐにクスッと含み笑いを漏らし、自分の右手に持っていたプリントを、本当にわざわざ『左手』に持ち替えてから、蓮の机の上にそっと置いた。

「はい、正解。普通の左手でしたー」

「よし! 勝った!」

蓮は心の中でガッツポーズをした。ついに真白の高度な心理戦を読み切り、完全な勝利を収めたのだ。

「宮本くん、私のことよく分かってるね。私がわざわざ持ち替えるってことまで完璧に読まれてたんだ。……じゃあ、勝負は宮本くんの勝ちだから、約束通り宮本くんのその『シャープペンシル』、私が授業中ずっと借りててあげるね」

真白は当然のようにお箸を伸ばすようにして、蓮の机の上から彼のシャープペンシルをヒョイとつまんで、自分の机へと持って行ってしまった。

「あ、おい! ちょっと待て! なんで僕が勝ったのに、ペンを取られてるんだよ!」

蓮は慌てて声をあげた。

「何がだよ? 勝負は宮本くんの勝ちでしょ?」

真白は蓮のシャープペンシルを器用に指先でくるくると回しながら、不思議そうに首を傾げた。

「いや、勝負のルール、最初に言ってだろ! 僕が勝ったらいちごオレを奢ってくれるって……!」

「え? 私は『もし宮本くんの予想が当たったら、今日の放課後、私がまた購買のいちごオレを奢ってあげる。でも、もし外れたら黒板消しね』って言ったよ。……でも、宮本くんが勝った時のお返しのルールとして、私の『お気に入りのペン』を貸してあげるなんて一言も言ってないもん。だから、代わりに宮本くんのペンを借りるの」

「なっ……! どんな無茶苦茶な等価交換だよ!」

完全に矛盾していた。蓮が抗議するが、真白は「ちゃんと確認しなかった宮本くんの落ち度です。これ、すっごく書きやすいね」と、満足そうに蓮のシャープペンシルを使ってノートに文字を書き始めた。

結局、新学期の最初の短い戦いでも、蓮は彼女の手のひらの上で転がされただけだった。

付き合うとか、特別な関係になるとか、そんなことよりも、この一番後ろの席で、毎日くだらない勝負を仕掛けられ、それに本気で悔しがって言い返す。そんな二人の日常こそが、何よりも特別で、大切にしたい時間なのだった。

「見てろよ、次のお昼休みの勝負こそ、僕が絶対に勝つからな」

「ふふ、お望みなら、いつでもかかってきてね、宮本くん」

真白はマフラーの奥から、満足そうな最高の笑顔で、蓮のことを見つめ返すのだった。

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