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週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

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第91話:タコさんウインナーの数

4時間目の授業が終わり、教室内はお弁当の匂いと賑やかな雑談の声で一気に満たされた。

購買のパンを買いに走る生徒たちの騒がしい足音が廊下へと消えていく中、宮本蓮はカバンから母親が作ってくれたいつものお弁当箱を取り出し、自分の机の上に広げた。

3学期から手に入れた一番後ろの廊下側の席は、前に座るクラスメイトたちの背中に隠れて、周囲の視線が届きにくい特別な陣地のようになっている。

蓮がお箸を割りながら少し一息ついていると、すぐ左隣の席から、衣類が擦れるカサカサという音が聞こえた。見ると、白石真白も自分の机の上にお弁当箱を置き、淡いピンク色のハンカチの包みを丁寧に解いているところだった。彼女は中身を隠すように蓋を半分だけ開けると、お箸を持ったまま、ニヤニヤとしたいつもの意地悪な笑みを蓮に向けてきた。

「お疲れさま、宮本くん。午前中の英語の授業、ずいぶんと眠そうにノートを取ってたね。あ、そういえばさ、宮本くんのお弁当箱、ちょっと覗かせて?」

「の、覗くなよ。普通のお弁当だって」

蓮が少し身を引いたが、真白はすかさず身を乗り出して、蓮のお弁当箱の中身をじっと観察した。今日のおかずは、から揚げに卵焼き、そして蓮が密かに楽しみにしていた赤いタコさんウインナーが綺麗に並んでいる。

それを見た真白の目が、きらりと怪しく光った。

「ねえ、宮本くん。新学期最初のお昼休みの『勝負』、しない?」

(また始まった……。本当にお弁当の時間くらい普通に食べさせてくれよ)

蓮は内心で身構えた。ここで油断すると、またしても彼女の高度な心理戦のペースに巻き込まれて、せっかくだのおかずを奪われるか、恥ずかしい思いをさせられる。

「何の勝負だよ。お弁当のおかずでも賭けるのか?」

「半分正解! 今からね、お互いのお弁当のおかずを『1個だけ』交換するの。ただ交換するんじゃなくて、宮本くんのお弁当に入ってるその赤いタコさんウインナーをね、私がこれから『何口で食べるか』を宮本くんが当てるの。もし宮本くんの予想が当たったら、今日の放課後、私がまた購買のいちごオレを本当に、今度こそルール詐欺なしで奢ってあげる。でも、もし外れたら……宮本くんのお弁当に入ってるその大きな卵焼き、私にちょうだいね」

真白はお箸を綺麗に揃えながら、蓮の顔をじっと覗き込んできた。

(タコさんウインナーを何口で食べるか……?)

蓮はお箸を持ったまま腕を組んで考えた。

タコさんウインナーのサイズは、中学生の口なら一口で簡単に収まる大きさだ。普通に考えれば『一口』と答えるのが最も自然である。

(……いや、待てよ? これはあいつの罠だ。僕が『一口』って答えて驚かせようとするのを見越して、あえて細かく刻んで食べてくるかもしれない。いや、さらにその裏をかいて、一気に口に入れてから『一口でしたー』って笑うか? 真白さんのこれまでのずる賢いパターンを思い出すんだ。あいつは僕が勝手に深読みして自爆するのを待っている!)

真白のこれまでの行動パターンを総動員し、蓮の脳内コンピューターがフル回転を始める。彼女の白い頬が、お昼の柔らかな日差しを浴びて、ほんのりと桜色に染まっているように見えた。その様子は、ただからかおうとしているだけにしては、少しだけ楽しそうにこちらの出方を窺っている。

(だったら、あいつの予想のさらに上をいってやる!)

蓮は意気込んで、真白の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「……一口だろ。真白さん、一気に口に入れて僕を驚かせようって企んでるんだろ。そのずる賢い顔を見れば全部分かるぞ!」

少し挑発的に笑ってみせる。

すると、真白は一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、すぐにクスッと含み笑いを漏らした。そして、蓮のお弁当箱からタコさんウインナーをヒョイとつまむと、自分の口元へと運んだ。

しかし、真白はそれを一口で食べることはしなかった。

彼女はウインナーの小さな足を一本だけ、前歯でちびちびと齧り、モグモグと美味しそうに咀嚼した。そして、お箸で残りの部分を指差しながら、大真面目な顔で蓮に言った。

「ザンネン。正解は『八口』でした。足が八本あるから、一本ずつ順番に食べるんだもん」

「そんなのありかよ! 絶対に今思いついただろ!」

蓮が小声で猛抗議するが、真白は「何口で食べるかは私の自由だもん。宮本くんの負けね」と、満足そうに蓮の好物である大きな卵焼きを一つ、自分のお箸でヒョイとつまんで口へ運んでしまった。

「あ、おい! 卵焼き……!」

「んー、甘くてすっごく美味しい。宮本くんのお母さんの卵焼き、やっぱり最高だね」

真白は幸せそうに頬を緩め、ハフハフと口を動かしている。その姿を見ていると、勝負に負けた悔しさなんて、本当にどうでもよくなってしまうから不思議だ。

結局、お昼休みの短い戦いでも、蓮は彼女の手のひらの上で転がされただけだった。

付き合うとか、特別な関係になるとか、そんなことよりも、この一番後ろの席で、毎日くだらない勝負を仕掛けられ、それに本気で悔しがって言い返す。そんな二人の、いつも通りの「照れたら負け」のからかい合いの日常こそが、蓮にとって一番安心できて、何より楽しい時間なのだった。

「見てろよ、次の休み時間の勝負こそ、僕が絶対に勝つからな」

「ふふ、お望みなら、いつでもかかってきてね、宮本くん」

真白はマフラーに顔を深くうずめ、満足そうな最高の笑顔で、蓮のことを見つめ返すのだった。

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