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週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

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第88話:新学期の朝と二つのカバン

冬休みの終わりに見せた穏やかな冬晴れの空はどこへやら、新学期が始まって最初の月曜日の朝は、肌を刺すような冷たい北風が吹き抜けていた。

宮本蓮は、通学路の坂道のふもとで、自分の黒いスクールバッグとは別にもう一つ、肩にかけられたベージュ色のスクールバッグの重みを感じながら、深く溜め息をついた。

(……本当に僕、こいつのカバンを持って登校してるよな)

ことの始まりは、あの土曜日の海での勝負だった。波打ち際での度胸試しに負けた罰ゲームとして、真白から『新学期が始まってからの1週間、毎朝の登校中に私のカバンを代わりに持って歩くこと!』という無茶な条件を突きつけられ、律儀にそれを実行させられているのだ。

恋人同士ではない。ただの隣の席の友達。その曖昧な名前のまま、二つのカバンを肩に下げて歩くのは、蓮にとってこれ以上ないほどに照れくさく、そして周囲の視線が痛かった。

「宮本くん、歩くの遅いよー。そんなんじゃカバン持ち失格になっちゃうよ?」

少し前をトコトコと軽やかな足取りで歩く真白が、首元のチェック柄のマフラーに顔を半分うずめながら、振り返ってにこにこと笑いかけてきた。彼女は両手をコートのポケットに入れたまま、荷物から解放されて実に向きが軽そうだ。一方の蓮の首元には、彼女が冬休みに編んでくれたチャコールグレーのマフラーがしっかりと巻かれていた。

「誰のせいでこんな重い思いをしてると思ってんだよ。だいたい、女子のカバンを持ってるなんて、クラスのやつらに見られたら一発で変な誤解をされるだろ」

「えー、誤解されたっていいじゃん。事実、宮本くんが私のために頑張って持ってくれてるんだし。……ねえ、宮本くん。新学期最初の、朝の登校勝負、しない?」

(また始まった……。本当にカバンを持たせておきながら、さらに勝負を仕掛けてくるか)

蓮は苦笑いしながらも、いつもの調子にどこか安心している自分に気づき、歩きながら身構えた。

「何の勝負だよ。これ以上、僕のおかずを奪ったり変な罰ゲームを増やすのは勘弁してくれよな」

「あはは、そんなに怯えないでよ。今日のルールはとってもシンプル。今から学校の正門をくぐるまでの間に、クラスの男子の『木村くん』か『高尾くん』のどちらかとばったり遭遇するかしないか、どっちか当てるの。もし宮本くんの予想が当たったら、今日の放課後、私が購買のいちごオレを本当に、ルール詐欺なしで奢ってあげる。でも、もし外れたら……今日の放課後の日直の仕事、私の分の黒板消しも宮本くんがやってね。はい、どっち?」

真白は校門へと続く坂道を登りながら、ニヤニヤと楽しそうに蓮の顔を覗き込んできた。

(木村か高尾に遭遇するか、しないか……)

蓮は周囲を警戒するように見回した。まだ登校時間の少し早めの時間帯ということもあり、坂道を上る生徒の数はそれほど多くない。木村たちの家は別の方向だから、このルートで遭遇する確率は決して高くないはずだ。

(……いや、待てよ? 真白さんのことだ。僕が『遭遇しない』って答えるのを見越して、さっき駅前の駐輪場とかで、木村たちがすぐ後ろを歩いているのを確認してからこの勝負を仕掛けてきたんじゃないか!? 昨日の海編での勝負だって、あいつは僕の裏の裏をかいてきたんだからな!)

蓮はこれまでの敗北から学んだ教訓を総動員し、脳内コンピューターをフル回転させた。真白は僕が安全な方を選んで自滅するのを待っているのだ。

(だったら、あいつの予想のさらに上をいってやる!)

蓮は意気込んで、真白の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「……遭遇する、だ。木村か高尾のどっちかが、今まさに僕たちの後ろから歩いてきてるんだろ。真白さん、さっき駅前で見かけたからこの勝負にしたんだ。そのずる賢い顔を見れば全部分かるぞ!」

蓮がドヤ顔で勝利を確信して言い放つと、真白は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。

しかし、彼女はすぐにフフッと楽しそうに笑い声を漏らし、そのままトコトコと歩みを止めずに坂道を登りきってしまった。

そして、二人が正門をくぐり、昇降口のロータリーに辿り着くまでの間、後ろからも前からも、木村や高尾の姿はただの1人も現れなかった。

「ザ・ン・ネ・ン。普通に誰もいませんでしたー! 宮本くん、また深読みしすぎでハズレ!」

真白は下駄箱の前でくるりと振り返り、カバンを蓮から受け取りながら、勝ち誇ったような最高の笑顔を浮かべた。

「くそ……。本当にただの勘の勝負だったのかよ!」

蓮はがっくりと肩を落とした。あいつの罠を警戒しすぎるあまり、ただのストレートな状況に自滅してしまったのだ。本当に真白の心理戦には敵わない。

「あはは! 宮本くんって、勝負になると急に難しく考えちゃうから、簡単に騙せちゃう。新学期になっても、私の手のひらの上で転がされっぱなしだね。というわけで、放課後の黒板消し、よろしくね?」

真白は自分のカバンを嬉しそうに肩にかけると、上履きに履き替えて廊下へとトコトコと歩き出した。

蓮も溜め息を吐きながら上履きに履き替え、一番後ろの自分たちの席へと戻ろうと階段を上った。

しかし、運命の悪戯は、勝負が終わった直後に容赦なく襲いかかってきた。教室のドアを開けた瞬間、教卓の前に座っていた木村と高尾が、蓮の顔を見るなりニヤニヤとした笑みを浮かべて近づいてきたのだ。

「よお、蓮。お前、さっき校門の坂道で、白石さんのカバンを持って一緒に歩いてるの、高尾が後ろからバッチリ見てたぞ」

木村が蓮の肩をポンと叩く。

「え……!? 高尾、後ろにいたのかよ!?」

蓮が驚いて高尾を見ると、高尾は親指を立てて不敵に笑った。

「おう。俺、ちょっと忘れ物して駅からダッシュしてたからさ。蓮のやつ、白石さんのベージュのカバンを大事そうに抱えて、白石さんの後ろをトコトコついて歩いててさー。ありゃ完全に、ただの隣の席の友達の距離感を超えてるよな?」

「ち、違うって! あれは勝負に負けた罰ゲームで、ただ持たされてるだけで……!」

蓮が顔を真っ赤にして必死に言い訳をしていると、すぐ左隣の席に座った真白が、教科書の陰からくすくすと笑い声を響かせながら、蓮のノートの端にさらさらと文字を書き込んできた。

蓮がその文字を盗み見ると、丸っこい可愛らしい文字で、こう書かれていた。

『宮本くん、勝負が終わった「後」に木村くんたちに捕まるなんて、本当に運が悪いね。でも、これで明日の朝も、私のカバンを堂々と持てるね?』

(っ……!)

蓮は慌てて自分のノートの端に返事を書いた。

『堂々と持てるわけないだろ! 完全に付き合ってるとか誤解されてるじゃんか!』

付き合ってる、という単語を文字にするだけで、自分の指先が熱くなるのを感じる。恋人同士という明確な関係にはあえて踏み出さない、ただの隣の席の友達。その曖昧な距離感のまま、彼女はいつもこうして、蓮の想定を遥かに超えた方法で、彼の心の最も柔らかいところを揺さぶってくるのだ。

真白は蓮の文字を読むと、マフラーに顔を深くうずめ、蓮の方を見てにやっと意味深に笑った。マフラーに隠しきれていない彼女の耳たぶが、朝の寒さのせいだけとは思えないほど、ほんのりと赤くなっているのを蓮は見逃さなかった。

結局、男子たちの冷やかしは新学期早々エスカレートしてしまったが、蓮は自分が彼女の手のひらの上で完全に転がされていたことを再び確信するのだった。

ただの隣の席の友達。その曖昧で焦れったい名前のまま、二人の間を流れる空気は、冬の寒さを一瞬で忘れさせてしまうほどに、優しく、そしてどこまでも温かい熱を帯びていくのだった。

「見てろよ、放課後の黒板消しの時間こそ、僕が絶対に言い返してやるからな」

「ふふ、お望みなら、いつでもかかってきてね、宮本くん」

真白はマフラーの奥から、満足そうな最高の笑顔で、蓮のことを見つめ返すのだった。

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