表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/1100

第87話:帰り道の秘密と小さな宝物

砂浜を覆っていた黄金色の光は、いつの間にか紫と藍色が混ざり合う、深い夕暮れのグラデーションへと移り変わっていた。

波の音が冷え込んできた空気の中に低く響く中、宮本蓮と白石真白は、海の見える静かな一本道を駅に向かって並んで歩いていた。

先ほど砂浜での宝探し勝負のとき、真白に突然手のひらを包み込まれた瞬間の、柔らかくて温かい感触が、蓮の右手にはいまだに微かに残り続けている。それを思い出すたびに、胸の奥がドクンと跳ねて、顔がカッと熱くなる。

蓮は照れ隠しのために、真白が冬休みに編んでくれたチャコールグレーのマフラーに顔を深くうずめ、わざと少しだけ大きな足音を立てて歩いた。

「宮本くん、楽しかったね、海」

隣を歩く真白が、自分のチェック柄のマフラーを少しだけ下げて、蓮の顔を覗き込んできた。低い位置で一つに結ばれた彼女の髪が、夕方の冷たい風に吹かれてさらさらと揺れている。

「……まあね。勝負は全敗したし、新学期からのカバン持ちも決まっちゃったけどさ。でも、冬の終わりの海って、思ったより静かで悪くなかったよ」

蓮が少しだけ拗ねたような、だけど本心から楽しかったというニュアンスを込めて答えると、真白はふふっと嬉しそうに目を細めた。

「そっか、よかった。……ねえ、宮本くん。駅に着くまでの間に、今日最後の『おまけの勝負』をしない?」

(また始まった……。本当に最後の最後まで勝負なんだな、あいつは)

蓮は苦笑いしながらも、いつものお決まりのやり取りに、どこか終わりが近づく寂しさを紛らわせてもらうような気持ちで、歩みを緩めて身構えた。

「何の勝負だよ。もう僕の負けは確定してるんだから、これ以上毟り取るものなんてないだろ」

「そんなことないよ。今回の勝負はね、私のカバンの中に、宮本くんに内緒で『こっそり持って帰ってきたもの』が1個だけ入ってるの。それが何か、宮本くんが当てるの。ヒントは……さっきの砂浜で、宮本くんが探してたものに関係すること。もし宮本くんの予想が当たったら、私の勝ちで、宮本くんの負けね」

真白はカバンのポケットを小さな手でポンポンと叩きながら、ニヤリといつもの不敵な笑みを浮かべた。

「はあ? 僕が当たったら僕の負けって、どんなルールだよ。それじゃあ僕、外すしかないじゃんか」

「あはは、そうだね。宮本くんが外したら、宮本くんの勝ち。どっちでもいいから、当ててみてよ」

(当たったら負けで、外れたら勝ち……。変なルールだけど、とにかく中身を当てさせたいってことか。砂浜で僕が探してたものに関係すること……)

蓮は歩きながら、さっきの宝探し勝負の記憶を辿った。

自分は砂の中から珍しい『紫色のシーグラス』を見つけた。真白に見せたら、彼女は驚いた顔をして、その後に蓮の手を握ってきたのだ。

(真白さんがカバンの中に隠してるもの……。僕が探してたシーグラスに関係するものだとしたら、あいつが自分で見つけたシーグラスか、それとも綺麗な貝殻か……? いや、待てよ?)

蓮はハッとして、自分の上着のポケットに手を突っ込んだ。

さっき見つけたはずの紫色のシーグラスが、ポケットの中のどこを探しても見当たらない。

(あ……! そういえば、真白さんに手を握られたとき、びっくりして手のひらを開いたままだったから、あのときに砂の上に落としちゃったのか!? いや、それとも……!)

蓮は真白の顔を凝視した。真白は「早く答えて?」という表情で、歩きながら蓮の顔を覗き込んでいる。彼女の白い頬が、夕闇の冷たい空気の中で、ほんのりと桜色に染まっているのが見えた。

「……分かった。真白さんのカバンに入ってるのは、僕がさっき砂浜で見つけた『紫色のシーグラス』だろ。僕の手を握ったドタバタの隙に、真白さんがこっそり僕の手のひらから盗んだんだ」

蓮が確信を込めて言い放つと、真白は一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、観念したようにふふっと優しく目を細めた。

そして、カバンのポケットから小さな白い手のひらを取り出し、蓮の目の前でそっと開いてみせた。

彼女の小さくて柔らかい手のひらの上で、夕暮れの淡い街灯の光を浴びてきらきらと輝いていたのは、間違いなく、蓮がさっき砂の中からはみ出すようにして見つけた、あの傷一つない丸い『紫色のシーグラス』だった。

「……正解。宮本くん、本当に私のことよく見てるね。手が離れた瞬間に、宮本くんの手のひらから、こっそり貰っちゃった」

真白はトコトコと駅の改札へと続く階段の手前で立ち止まり、そのシーグラスを蓮の前に差し出した。

「やっぱり……! 泥棒じゃないか、真白さん。ほら、僕が見つけたんだから返してよ」

蓮がそれを受け取ろうと手を伸ばすと、真白はすっと手を引いて、シーグラスを自分の胸の前にぎゅっと抱え込んだ。

「ダメだよ。これは、今日私を海に連れてきてくれた宮本くんへの『今日のお礼』だもん。本当は、宮本くんに返そうと思ったんだけど……私のほうが、この宝物を大切に持っていたいなあって思っちゃったから」

真白はマフラーに顔を深くうずめながら、潤んだ瞳で蓮を上目遣いにじっと見つめ返した。その耳たぶは、夕闇の寒さのせいだけとは思えないほど、これ以上ないほどに真っ赤に染まっていた。いつもなら完璧に蓮をからかうはずの少女が、自分の素直な行動のせいで、自分自身も限界寸前まで照れてしまっているのだ。

「っ……!?!?!?」

蓮の心臓が、今日一番の激しい衝撃で跳ね上がった。頭に血が一気に上り、顔から湯気が出そうになる。恋人同士という明確な名前にはあえて踏み出さない、ただの隣の席の友達。その曖昧な距離感のまま、彼女はいつもこうして、学校の外の広い世界でも、蓮の心の最も柔らかいところに、すとんと足を踏み入れてくるのだ。

「……じゃあ、真白さんが持っててよ。僕が一生懸命探したやつなんだから、大切にしろよ」

蓮が真っ赤になった顔を隠すように、首元のチャコールグレーのマフラーに顔を深くうずめ、観念したように小さく呟いた。

「うん、ありがと。絶対に失くさないで、私の部屋の机の上に、大事に飾っておくね」

真白は本当に嬉しそうに微笑むと、シーグラスをカバンの奥へと仕舞い込み、プシューと電車の到着する音が響く駅の改札へと、トコトコと楽しそうな足取りで歩き出した。

海に一緒に行った、冬の終わりの特別な一日。

からかわれて全敗して、新学期からのカバン持ちまで決まっちゃったけれど。

二人の間にあるチャコールグレーの手編みのマフラーの温もりと、彼女のカバンの奥に眠る紫色のシーグラスの存在が、これからの学校での一番後ろの席の日常を、もっともっと特別で温かいものにしてくれることを、蓮は静かに確信するのだった。

「新学期の最初の日の勝負こそ、僕が絶対に勝つからな、真白さん」

「ふふ、お望みなら、いつでもかかってきてね、宮本くん」

真白は改札の手前で振り返り、満足そうな最高の笑顔で、蓮のことを見つめ返すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ