第8話:日直の仕事
その日の日直は、蓮と真白さんのペアだった。
放課後、クラスメイトたちが全員帰った静かな教室で、2人は黒板消しを持って黒板の掃除をしていた。
「ふぅ、今日の授業、板書が多くて大変だったな」
蓮がチョークの粉を吸わないように顔を背けながら黒板を消していると、隣で同じように黒板を消していた真白さんが、突然手を止めた。
「ねえ、宮本くん。ちょっとこっち向いて」
「ん? なに……うおっ!?」
振り返った瞬間、蓮の鼻の頭に、冷たくて白いものがぽんと触れた。
真白さんの人差し指だった。彼女の指先には、白いチョークの粉がついている。
「あはは! 宮本くん、鼻の頭が真っ白。トナカイみたい」
「な、何すんだよ! 汚いだろ!」
蓮は慌てて袖で鼻をこすった。
「ひどいな、せっかく可愛くしてあげたのに」
「どこが可愛いんだよ! 悪戯ばっかりしやがって……」
悔しくなった蓮は、手元にあったチョークの端切れを拾い上げた。
「よし、お返しだ!」
蓮は真白さんの頬にチョークを塗ってやろうと、手を伸ばした。真白さんは逃げるかと思いきや、その場に立ち止まり、目を閉じて顔を少し前に突き出してきた。
「いいよ、お返しして。どこにつける? ほっぺ? それとも……口紅みたいにする?」
(うっ……!!!!)
目を閉じ、少しだけ唇を尖らせた真白さんの顔が、すぐ目の前にある。
長いまつ毛がかすかに震えている。夕方の教室の、オレンジ色の光が彼女の横顔を照らしていて、言葉を失うほど綺麗だった。
蓮の手が、空中でピタリと止まる。チョークを持った指先が、緊張でガタガタと震え始めた。
(だ、ダメだ、これ以上近づいたら、なんか大変なことになる……!)
「……も、もういいよ! 掃除終わらせるぞ!」
蓮はチョークを黒板の溝に放り投げ、大急ぎで黒板消しを動かし始めた。
真白さんはゆっくりと目を開けると、少しだけ残念そうな、でもどこか愛おしそうな目で蓮の背中を見つめた。
「宮本くんって、本当にヘタレだね」
「うるさい! 掃除に集中しろ!」
背中越しでも、真白さんがクスクスと笑っているのが分かった。
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