第7話:プリント配り
「じゃあ、このプリント、後ろに配ってくれ」
先生に頼まれ、蓮は列の一番前としてプリントの束を受け取った。
自分の分を1枚取り、後ろの席……つまり真白さんに渡すために振り返る。
「はい、真白さん」
「ありがとう、宮本くん」
真白さんはプリントを受け取ろうと手を伸ばした。しかし、蓮はふと思いついた。
(いつもからかわれてばかりだし、たまには俺からちょっと意地悪してみるか?)
蓮は真白さんが指先を伸ばした瞬間、プリントをすっと上に持ち上げて避けた。
「あ、ほーら、届かない」
ちょっとした悪戯のつもりだった。真白さんが「あ、ずるい!」と悔しがる顔が見たかったのだ。
だが、真白さんは全く動じなかった。それどころか、妖しく目を細めて笑った。
「へえ、宮本くん。私にプリント、渡したくないんだ?」
「いや、ちょっとしたお遊びだよ。ほら、あげる……」
蓮がプリントを戻そうとしたその時、真白さんは差し出されたプリントではなく、それを握っている蓮の手首を、下からきゅっと掴んだ。
「えっ……!?」
「捕まえた」
真白さんの指先は驚くほど冷たくて心地よく、蓮の手首にピタリと吸い付いた。
「な、何すんだよ、放せって!」
「嫌だよ。宮本くんが意地悪するからでしょ? このまま先生に言っちゃおうかな。宮本くんがプリントを渡してくれません、って」
「おい! それは困るって!」
前を見ると、先生は黒板に文字を書き始めている。クラスメイトたちも自分の作業に夢中だ。
今、この瞬間、蓮の手首は真白さんにしっかりと握られたままだ。
「ねえ、宮本くん。放してほしい?」
「当たり前だろ! 恥ずかしいし、誰かに見られたら……」
「じゃあ、私の目を見て『真白さん、大好きです』って言ったら放してあげる」
「言えるか、そんなこと!」
蓮は顔を真っ赤にして抵抗するが、手首を掴む真白さんの力は案外強く、何よりドキドキして力がうまく入らない。
「言わないんだ? じゃあ、授業が始まるまでこのままだね」
真白さんは首を少し傾げ、楽しそうに蓮の目を覗き込んでくる。
その距離の近さに耐えかねて、蓮はついにギブアップした。
「わ、わかった! ごめん! 俺が悪かったから、放してください!」
「……ちぇ、普通に謝っちゃうんだ」
真白さんは少しつまらなそうに唇を尖らせ、蓮の手首をパッと放した。そして、蓮の手からプリントをするりと抜き取る。
「はい、ありがと。宮本くん」
プリントを受け取った真白さんは、何事もなかったかのように前を向いた。
蓮は自分の席に向き直り、赤くなった手首をさすりながら、自分の心臓のバクバクという音を必死に抑え込もうとしていた。
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