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週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

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第79話:一番後ろの席とおかずの奪い合い

午前中の4時間の授業がすべて終わり、担任の先生が教壇の後片付けをして教室を出ていくと、教室内は一気にお昼休みの賑やかな活気に包まれた。

あちこちでお弁当の包みを解く音が響き、購買のパンを買いに走る生徒たちの足音が廊下へと消えていく。

宮本蓮は、自分のカバンから母親が作ってくれたいつものお弁当箱を取り出し、机の上に広げた。

新学期から手に入れた一番後ろの席は、先生の目からも周りの生徒の視線からも遠く、余計な邪魔が入らない。1時間目に木村たちからマフラーの件で散々突っ込まれた蓮としては、ようやく一息つける時間だった。

ふと隣を見ると、白石真白も自分のお弁当箱を机の上に置いていた。

彼女は中身を隠すように蓋を半分だけ開けると、お箸を持ったまま、ニヤニヤとしたいつもの意地悪な笑みを蓮に向けてきた。

「お疲れさま、宮本くん。午前中、木村くんたちにからまれて、ずいぶんと分かりやすくオロオロしてたね」

「……うるさいな。誰のせいで僕があんなに冷や汗をかいたと思ってるんだよ。真白さんが急に『私が編んだ』なんて言い出すからだろ」

「あはは、だって宮本くんの顔、トマトみたいに真っ赤になって面白かったんだもん。でも、ちゃんとその後で『冗談だよ』って言って助けてあげたでしょ? 感謝してほしいな」

真白はクスクスと肩を揺らした。完全にいつもの調子だ。朝の緊迫感などどこへやら、彼女にとってはただの格好のからかい材料でしかなかったらしい。

「感謝なんてするか。心臓に悪いんだよ……」

蓮はお箸を割り、自分のお弁当の蓋を開けた。今日のおかずは、から揚げにタコさんウインナー、そして蓮の好物である大きな卵焼きが2個入っている。

それを見た真白の目が、きらりと怪しく光った。

「ねえ、宮本くん。お昼休み最初の勝負、しない?」

(また始まった……。本当にお弁当の時間くらい普通に食べさせてくれよ)

蓮は内心で身構えた。ここで油断すると、またしても彼女のペースに巻き込まれて、せっかくのおかずを奪われるか、恥ずかしい思いをさせられる。

「何の勝負だよ。お弁当のおかずでも賭けるのか?」

「半分正解! 今からね、お互いのお弁当のおかずを『1個だけ』交換するの。ただ交換するんじゃなくて、私が宮本くんにあげるおかずが、市販の『冷凍食品』か、それともお母さんに手伝ってもらって作った『手作りのおかず』か、宮本くんが当てるの」

真白はお弁当箱の向こうで手元を隠しながら、ふふんと鼻を鳴らした。

「手作りか、冷凍食品か……?」

蓮は腕を組んで考えた。

真白が料理をするイメージはあまりない。だが、冬休みの間にマフラーを編むくらいだ。その流れで、お母さんにお弁当のおかずの作り方を一つくらい教わっていても不思議ではない。

(……いや、待てよ? これはあいつの罠だ。僕が『手作り』って答えてドキドキするのを見越して、あえて普通の冷凍食品を入れておいて、『ハズレ、ただの冷凍食品でしたー! 宮本くん、期待しちゃった?』ってからかってくる可能性のほうが圧倒的に高い!)

真白のこれまでのずる賢いパターンを思い出し、蓮の脳内コンピューターがフル回転を始める。あいつは僕が勝手に期待して自爆するのを待っているのだ。

(だったら、あいつの裏の裏をかいてやる!)

蓮は意進んで、真白の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「……冷凍食品だろ。真白さんが朝から早起きしておかずを作るわけないじゃん。いつものお弁当だって、全部お母さんが作ってるんだろ」

少し挑発的に笑ってみせる。

すると、真白は一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、すぐにクスッと含み笑いを漏らした。そして、お箸で小さなおかずを一つ持ち上げ、蓮のお弁当の蓋の上にぽんと置いた。

「はい、正解。普通の冷凍食品のから揚げでしたー」

「よし! 勝った!」

蓮は心の中でガッツポーズをした。ついに真白の心理戦を読み切り、完全な勝利を収めたのだ。

「宮本くん、私のことよく分かってるね。朝は弱いから、お弁当のおかずなんて作れないもん。……じゃあ、勝負は宮本くんの勝ちだから、約束通り宮本くんのその『卵焼き』、私にちょうだいね」

真白は当然のようにお箸を伸ばし、蓮のお弁当箱から大きな卵焼きをヒョイとつまんで、自分の口へと運んだ。

「あ、おい! ちょっと待て!」

蓮は慌てて声をあげた。

「何がだよ? 勝負は宮本くんの勝ちでしょ?」

真白はモグモグと卵焼きを美味しそうに食べながら、不思議そうに首を傾げた。

「いや、勝負のルール、最初に言ってただろ! 僕が勝ったら真白さんが僕に何かくれるとか、僕が負けたら卵焼きをあげるとか……。なんで僕が勝ったのに、卵焼きを取られてるんだよ!」

完全に矛盾していた。蓮が抗議すると、真白はお箸を綺麗に揃えて、大真面目な顔でこう言った。

「え? ルールはね、宮本くんの予想が当たったら、私の『手作りの味』じゃなくて、普通の『冷凍食品の味』を宮本くんが食べられる、っていうルールだよ。で、私が勝ったら、宮本くんの卵焼きをもらう。……でも、宮本くんが勝った時のお返しのルール、私、何も言ってないよ?」

「なっ……!?」

蓮は慌ててさっきの会話を思い返した。

確かに真白は『もし宮本くんの予想が当たったら、これをあげる。でも、もし外れたら卵焼きをちょうだい』とは言っていなかった。『もし外れたら卵焼きをちょうだい』の部分しか言っていなかったのだ。

「ずるいぞ! それじゃあ僕が勝っても負けても、結局真白さんにおかずを取られるだけじゃないか!」

「ずるくないよー。ちゃんと確認しなかった宮本くんの落ち度です。それにほら、私のから揚げ、美味しいでしょ?」

真白は自分の空いたスペースに、蓮のお弁当からもう一つのタコさんウインナーを隙を見て奪おうと、お箸をチクチクと動かしている。

「あ、ウインナーはダメだ! 死守する!」

蓮は慌ててお弁当箱を両手で隠した。

一番後ろの席。周りの生徒たちはそれぞれの雑談に夢中で、誰も二人のくだらないおかずの奪い合いには気づいていない。

真白はウインナーを諦めると、「ちぇー」と少しだけ頬を膨らませた後、再び嬉しそうにくすくすと笑った。その瞳には、自分の仕掛けたルール詐欺にまんまと引っかかって、顔を真っ赤にして悔しがっている蓮の姿が、何よりも面白くてたまらないという色が浮かんでいた。

「宮本くんって、勝負になると急にムキになるから、簡単に騙せちゃう。新学期になっても、全然進歩してないね」

「うるさいな……。今度はもっとちゃんとしたルールで勝負して、真白さんから購買のパンを毟り取ってやるからな」

蓮は悔しさに唇を噛みながら、蓋の上に置かれた冷凍食品のから揚げを口に放り込んだ。少し濃いめの味が、悔しがる蓮の口いっぱいに広がる。

結局、文字通りの戦いでも、ルールの枠組みでも、蓮は彼女の手のひらの上で転がされただけだった。

付き合うとか、特別な関係になるとか、そんなことよりも、この一番後ろの席で、毎日くだらない勝負を仕掛けられ、それに本気で悔しがって言い返す。そんな二人の、いつも通りの「照れたら負け」のからかい合いの日常こそが、蓮にとって一番安心できて、そして何より楽しい時間なのだった。

「見てろよ、次の休み時間の勝負こそ、僕が絶対に勝つからな」

「ふふ、お望みなら、いつでもかかってきてね、宮本くん」

真白はマフラーに顔を深くうずめ、勝ち誇ったような最高の笑顔で、蓮のことを見つめ返すのだった。


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