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週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

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第73話:おみくじの運勢と二人の距離

出店で買った温かいカスタード味の大判焼きを二人で食べ終えた頃、境内の木々の隙間から差し込む西日は、さらに深いオレンジ色へと変化していた。冷たい風が吹くたびに、真白の白いダッフルコートの裾が小さく揺れ、彼女は満足そうにマフラーへと顔をうずめた。

「ごちそうさまでした、宮本くん。やっぱりお正月の境内で食べる大判焼きは格別だね」

「……僕の財布は格別に軽くなったけどな」

蓮は少しだけ拗ねたように財布をポケットに仕舞い込んだ。お昼休みの『好きなタイプ』の話題から、先ほどの『隣の席にいられますように』という爆弾発言まで、新年早々真白のペースに完全に引きずり回されている。

「そんなに落ち込まないでよ。ほら、まだお正月のお楽しみが残ってるよ?」

真白はトコトコと歩き出し、本殿の脇にある大きな木造の案内板を指差した。そこには大きな文字で『おみくじ』と書かれており、多くの参拝客が小さな白い紙を真剣な表情で見つめていた。

「おみくじか。真白さんは引くの?」

「うん、もちろん! 宮本くんも一緒に引こうよ。一年の運試しだよ」

真白はすでにカバンから自分の財布を取り出し、百円玉を握りしめていた。蓮も「まあ、おみくじくらいなら……」と、真白に続いておみくじの引き所の列に並んだ。

木製の頑丈な箱をシャカシャカと振り、小さな穴から出てきた棒の番号を巫女さんに伝える。二人はそれぞれ手渡された折りたたまれた白い紙を受け取り、境内のはずれにある静かな並木道へと移動した。

「せーので開けようよ、宮本くん。……あ、待って。開ける前に、また勝負しない?」

真白は手の中のおみくじを大切そうに握りしめながら、ニヤリといたずらっぽく笑った。

(やっぱり、そう来るよな……)

蓮は身構えた。おみくじの結果なんて完全に運だ。真白が何を引き、自分が何を引くか、コントロールできるはずがない。

「何の勝負だよ。おみくじの運勢の良さでも競うのか?」

「ううん、それじゃ普通だし、本当にただの運になっちゃうでしょ? だからね、おみくじの中に書いてある『恋愛』の項目を当てるの。お互いに、相手のおみくじに何て書かれているかを予想するの」

真白は楽しそうに首を傾げた。

「恋愛の項目って……そんなの『待て』とか『誠意を尽くせ』とか、いろいろ種類があるだろ。当たるわけないじゃん」

「大丈夫だよ。選択肢は二つだけにするから。そこに書かれている内容が、相手にとって『嬉しいこと』か『ちょっと困ること』か、どっちか予想してね。もし宮本くんの予想が当たったら、次の新学期、最初の購買のパンを私が奢ってあげる。でも、私が勝ったら……冬休みの宿題、数学のわからないところを宮本くんが教えてね」

(数学の宿題を教える……。まあ、それくらいなら僕にとっても大した負担じゃないし、むしろ真白さんとまた会う口実になるか……って、僕は今何を考えてるんだ!?)

蓮は慌てて頭の中の雑念を振り払った。真白と冬休みにまた会うことを、一瞬でも楽しみに思ってしまった自分に猛烈に照れが込み上げてくる。

「……分かった。じゃあ、その勝負乗った。まずは僕から予想するぞ」

蓮は真白の手元のおみくじをじっと見つめた。

真白の『恋愛』の項目。彼女はいつも余裕たっぷりで、蓮をからかって楽しんでいる。そんな彼女にとって『嬉しいこと』が書かれているとしたら、それはきっと『思う通りになる』といった内容だろう。しかし、真白は蓮を動揺させるために、あえて逆の展開を狙ってくるかもしれない。

「真白さんのおみくじの恋愛は……『ちょっと困ること』が書かれてる!」

蓮が自信を持って答えると、真白は「ふーん、そう思うんだ」と意味深に微笑んだ。

「じゃあ、次は私の番ね。宮本くんのおみくじの恋愛の項目はね……『すっごく嬉しいこと』が書かれてるよ。……よし、じゃあ開けよ?」

二人は同時に、折りたたまれた白い紙をゆっくりと開いた。

蓮はまず、自分の運勢の欄を見た。大きく『吉』と書かれている。全体的に良いことが書かれていたが、問題は真白が指定した『恋愛』の項目だ。スクロールするように目を下に走らせると、そこにはこう書かれていた。

『恋愛:高望みするな。身近な人に目を向けよ』

(身近な人に目を向けよ……!?)

蓮の心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった。身近な人、と言われて真っ先に思い浮かぶのは、今まさに自分の隣で同じようにおみくじを覗き込んでいる少女の顔だった。

「わあ、宮本くん、大正解じゃん!」

真白が声を弾ませて、自分のおみくじを蓮に見せてきた。彼女の運勢は『小吉』だったが、恋愛の項目にはこう書かれていた。

『恋愛:からかい過ぎは禁物。素直にならねば破れる』

「あ……」

蓮は思わず声を漏らした。まさに真白にとって『ちょっと困ること』、というか、彼女の日頃の行いを神様に見透かされたかのような、完璧な内容だった。

「神様ってば、ひどいなあ。からかい過ぎは禁物だって。宮本くんをからかうのが私の生きがいなのに」

真白は少しだけ頬を膨らませて、不満そうにおみくじを睨みつけている。その姿がなんだか無性に可笑しくて、蓮はふっと笑ってしまった。

「ほら、神様も言ってるじゃんか。真白さんは僕をからかいすぎなんだよ。だから、今日の勝負は僕の勝ちだな」

蓮が勝ち誇ったように言うと、真白はゆっくりと顔を上げ、蓮の瞳をじっと見つめ返した。その瞳には、いつもの悪戯っぽさではなく、どこか真剣で、だけど少しだけ照れくさそうな不思議な光が宿っていた。

「……本当に、宮本くんの勝ちなのかな?」

「え? だって、真白さんの恋愛の項目は『困ること』だったし、僕の予想が当たっただろ」

「そうだけど、そうじゃなくて。宮本くんのおみくじ、何て書かれてるの?」

真白がトコトコと距離を詰め、蓮の手元のおみくじを覗き込んできた。

蓮は慌てて紙を隠そうとしたが、真白のほうが一瞬早かった。彼女の綺麗な瞳が、しっかりと『身近な人に目を向けよ』という文字を捉えていた。

「あ……」

真白の動きが、ピタリと止まった。

夕暮れの静かな並木道に、冬の冷たい風が通り抜ける。二人の距離は、今朝の相合い傘のときと同じくらいに近かった。真白の衣服から漂う甘い香りが、蓮の鼻腔を優しくくすぐる。

真白はゆっくりと顔を上げると、マフラーの隙間から、これまで見たこともないほどに真っ赤に染まった頬を覗かせた。彼女の瞳は潤んでいて、いつもならすぐに飛び出してくるはずのからかいのセリフが、どこにも見当たらなかった。

「……ほらね、私の予想も、当たってたでしょ?」

真白は消え入りそうな小さな声で呟いた。

「え……?」

「宮本くんにとって、これって『すっごく嬉しいこと』でしょ? だって、神様が、もっと私のことを見なさいって言ってるんだよ……?」

「っ……!?!?!?」

蓮の全身の血流が、一気に頭頂部へと駆け上がるのを感じた。顔がこれ以上ないほどに熱くなり、胸の奥の鼓動がうるさいほどに鳴り響く。

真白の言葉が、ただのからかいなのか、それとも限界寸前の本音なのか、もう蓮の頭では判断がつかなかった。ただ、目の前で真っ赤になって自分を見つめる真白の姿が、あまりにも愛らしくて、視線を逸らすことすらできなかった。

「……あ、いや、それは……」

蓮が言葉を詰まらせていると、真白は突然、おみくじをぎゅっと握りしめ、くるりと背を向けてしまった。

「もういいもん! 引き分け、引き分けだよ! だから、新学期のパンも奢らないし、数学の宿題も教えてもらうからね!」

真白は早足で参道を下りていってしまう。マフラーに顔を完全に埋めているが、後ろからでも彼女の耳たぶが、夕日よりも赤くなっているのがはっきりと見えた。

蓮は呆然と立ち尽くしたまま、手の中の『身近な人に目を向けよ』という文字を見つめ、それから深く息を吐き出した。

(引き分けって……あいつ、完全に無理やりルール変えたろ……)

しかし、急ぎ足で歩いていく真白の背中を追いかけながら、蓮の胸の奥には、お正月の一番最初にもらった、何よりも温かい熱がしっかりと居座り続けていた。

おみくじの運勢がどうであれ、二人の距離は、この冷たい冬の空気の中で、誰にも止められないほどに近づいているのだった。


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