第5話:テスト勉強
中間テストを3日後に控えた日の放課後。
蓮と真白さんは、図書室の片隅の席で並んで勉強をしていた。
「うーん……全然わからない……」
数学のワークを前に、蓮は完全に頭を抱えていた。数式の羅列が、まるで宇宙の呪文のように見える。
「どこがわからないの? 教えてあげようか」
真白さんは、自分のワークをすでに終わらせたらしく、余裕の表情でペンを回している。
「この、確率の問題。サイコロを2回投げて、出た目の和が5になる確率、とかいうやつ」
「あ、それね。簡単だよ。まず、全部の出方は何通り?」
「ええと、6×6で、36通り?」
「正解。じゃあ、足して5になる組み合わせは?」
真白さんが優しく解説してくれる。その教え方はとても分かりやすく、蓮の頭の中の霧が少しずつ晴れていった。
「あ、なるほど! 4通りだから、4/36で、答えは1/9か!」
「そう、大正解。宮本くん、やればできるじゃん」
真白さんは嬉しそうに微笑み、蓮の頭をポンポンと叩いた。
「子供扱いするなよ……」
蓮は照れ隠しにぶっきらぼうに言ったが、心の中では真白さんの頭の良さと優しさに、少し見とれていた。
「じゃあ、次の問題。これが解けたら、宮本くんのご褒美に、私の秘密を1つ教えてあげる」
「秘密?」
「うん。宮本くんがずっと気になってるかもしれないこと」
真白さんは、次の応用問題に赤ペンで印をつけた。
「よし、受けて立つ!」
俄然やる気が出た蓮は、必死にシャーペンを動かした。計算ミスをしないよう、慎重に、何度も確かめる。
5分後。
「できた! 答えは、2/9だ!」
「どれどれ……」
真白さんは蓮のノートを覗き込み、赤ペンで大きな花丸を描いた。
「すごい、大正解! じゃあ、約束通り、私の秘密を教えてあげるね」
真白さんは、机の上に両肘をつき、小さな声をさらにひそめた。図書室の静寂の中で、真白さんの声が蓮の耳に直接届く。
「あのね……私、今回のテストで、宮本くんが私より合計点数が高かったら……宮本くんの『好きな人』になってあげてもいいよ」
「ぶっ……!!!!」
蓮は危うく大声を出すところだった。必死に喉を鳴らして声を抑える。
「な、な、何言ってるんだよ! 意味がわからないだろ!」
「だって、宮本くん、私のこと好きでしょ?」
「ち、違うわ!」
「じゃあ、テスト頑張ってね。負けないから」
真白さんは綺麗にウインクをしてみせると、また自分の勉強に戻ってしまった。
蓮はノートに視線を落としたが、もはや数式は1文字も頭に入ってこなかった。ただ、花丸の赤色が、自分の顔と同じくらい熱く燃えているように見えるだけだった。
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