第4話:雨宿り
放課後、学校の昇降口は、立ち往生する生徒たちで溢れていた。
さっきまで晴れていたのに、バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨が街を襲っていた。
「うわー、最悪だ。傘、持ってきてないよ……」
蓮が大きなため息をついていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「宮本くん、傘持ってないの?」
真白さんだった。彼女の手には、水色の折りたたみ傘が一本握られている。
「真白さん。うん、完全に予報外したわ。しばらくここで雨が止むのを待つよ」
「ふーん。じゃあさ、一緒に帰る?」
「えっ?」
真白さんは、手の中の傘を軽く振ってみせた。
「相合い傘、しよっか」
「あ、相合い傘!?」
蓮の声が裏返る。周囲の視線が一瞬こちらを向いた気がして、蓮は慌てて声を潜めた。
「な、何言ってるんだよ! 恥ずかしいだろ!」
「誰も見てないよ。それに、この雨じゃ夜まで止まないかもよ?」
外を見ると、雨足はさらに強くなっている。ここで何時間も待つよりは、真白さんの提案に乗った方が賢明かもしれない。いや、でも女子と一つの傘で帰るなんて、緊張で死んでしまう。
「ほら、行くよ」
真白さんは躊躇なく傘を開き、雨の中へ一歩踏み出した。
「あ、おい! 待てって!」
蓮は吸い寄せられるように、真白さんの傘の下へと飛び込んだ。
折りたたみ傘は小さい。二人が肩を寄せ合わないと、どうしても外側の肩が濡れてしまう。
「ほら、宮本くん、もっとこっち寄って。濡れちゃうよ」
「お、おう……」
蓮はできるだけ真白さんにぶつからないよう、体を縮こまらせた。しかし、歩くたびに二人の肩や腕がかすかに触れ合う。雨の音にかき消されているが、蓮の心臓は信じられないほどの速さで脈打っていた。
「ねえ、宮本くん」
「な、何?」
「相合い傘ってさ、左側の人が右側の人を好きっていう意味があるんだって」
「……またそういう出鱈目を言う」
「本当だよ? ちなみに、今、私が左側で、宮本くんが右側だね」
真白さんは、傘を差しながら楽しそうに蓮の顔を覗き込んできた。
「ってことは、私が宮本くんのこと好き、ってことになっちゃうね」
「だ、だから、そういうからかいはやめろって!」
「ふふ、からかってないかもよ?」
真白さんはそう言うと、不意に傘を少し蓮の側へ傾けた。
真白さんの左肩が、雨に濡れ始める。
「あ、おい、真白さん、濡れてるぞ! もっと傘を自分の方に……」
「いいの。宮本くんが濡れるの、嫌だから」
真っ直ぐに自分を見つめる真白さんの瞳は、いつものからかいのそれとは、少しだけ違うように見えた。蓮は何も言えなくなり、ただ真白さんの肩がこれ以上濡れないように、そっと彼女の体を引き寄せるようにして歩くことしかできなかった。
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