第47話:紅葉の並木道
温かい飲み物で十分に体が温まった二人は、カフェを出て再び駅へと向かう道を歩き始めた。
お店に入る前はまだ少しだけ明るさが残っていたが、外に出ると、あたりはすっかり本格的な夕暮れ時に変貌していた。
駅へと続く一本道は、見事な紅葉の並木道になっている。昼間見る紅葉も綺麗だが、西の空を赤紫に染める夕焼け光線に照らされた落ち葉は、まるで自ら発光しているかのように、どこまでも深く、鮮やかな赤色に輝いていた。風が吹くたびに、カサカサ、カサカサと、乾燥した落ち葉がアスファルトの上を転がっていく音が響く。
「うわぁ……。さっきよりも、ずっと綺麗だね、宮本くん」
真白さんは足を止め、並木道の奥へと続く赤いトンネルを見上げた。夕日のオレンジ色の光が、彼女の横顔を優しく照らしている。ベレー帽の影から覗く横顔が、いつも学校の蛍光灯の下で見ているときよりも、言葉を失うほどに綺麗で、蓮は思わず生唾を飲み込んだ。
「あ、ああ。本当だな。こんな綺麗な紅葉、今年初めて見たわ」
「ねえ、宮本くん。こういう場所を二人で歩いてるとさ、なんだか映画のワンシーンみたいじゃない?」
真白さんは歩みを進めながら、蓮の顔をちらりと盗み見た。
「映画? どんな映画だよ。アクション映画か?」
「違うよ。恋愛映画。ほら、最後に向かい合って、手をつなぐシーンの途中のやつ」
(れ、恋愛映画……!)
そのワードだけで、蓮の頭の中には様々な妄想が駆け巡った。今日の真白さんは、学校にいるときよりもどこか大胆で、距離感が近い気がする。
真白さんは歩くペースをさらに落とし、蓮のすぐ隣、肩が触れ合うか触れ合わないかという、絶妙な距離をキープして歩き始めた。カサッ、カサッ、と二人が落ち葉を踏む足音が、綺麗に重なっていく。
しばらく歩いていると、真白さんのコートの袖が、蓮の上着の袖に何度もかすり合うようになった。それだけではない。時折、彼女の小さな手の甲が、蓮の手の甲にツン、と触れるのだ。
(な、なんか、めちゃくちゃ手が当たるんだけど……! これって、わざとなのか? それとも偶然?)
蓮は緊張のあまり、右手の動かし方が分からなくなってしまった。ロボットのように不自然に腕を固定してみるが、真白さんはそんな蓮の様子をお見通しのように、さらに一歩、距離を縮めてきた。ついに、二人の二の腕がぴったりと密着する。
「……あの、真白さん? ちょっと距離近くないか? 歩きにくくない?」
蓮は顔を真っ赤にしながら、前を向いたまま声を絞り出した。
「え? 歩きにくくないよ。むしろ、こうしてた方があったかいし」
真白さんは当然のように言った。
「いや、でも、誰かに見られたら、なんか勘違いされるかもしれないし……」
「誰に? ここには私たち二人しかいないよ。それに、勘違いされても、私は別に困らないけどな。宮本くんは、私と並んで歩くの、そんなに嫌?」
真白さんは立ち止まり、蓮の前へと回り込んだ。そして、ベレー帽の端を少し引っ張り、上目遣いで蓮の目をまっすぐに見つめてきた。
夕日に照らされた彼女の瞳は、まるで宝石のように輝いている。そこにはいつもの「からかい」の意地悪な光だけでなく、ほんの少しだけ、蓮の反応を怖がっているような、真剣な本音が混ざっているように見えた。
「嫌じゃ……ないけど。ただ、その、緊張するっていうか……」
蓮は完全に降伏した。嘘をついても、どうせ見破られる。正直に白状するしかなかった。
すると真白さんは、一瞬だけ驚いたように目を見開き、それから、これまで見たこともないくらい、顔をリンゴのように真っ赤に染めた。そして、慌てて後ろを向き、足早に歩き始めた。
「な、何だよ、真白さん! 急に走るなよ!」
蓮が慌てて追いかける。
「……宮本くんのバカ。そういうこと、不意打ちで言うの、ずるい」
背中越しに聞こえた真白さんの声は、いつもより少しだけ震えていて、からかいの盾を失った本物の女の子の声だった。
赤い紅葉の並木道の中、二人はお互いに真っ赤な顔をしたまま、言葉を交わさずに駅へと向かって歩いた。




