表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週間ランキング49位、月間ランキング74位『となりの席の真白さん』  作者: S.S
中学生 いたずらやからかい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/1100

第46話:帰り道のカフェ

公園の奥でどんぐり勝負を終えた頃には、お昼過ぎの明るかった太陽も、ずいぶんと西の空へと傾き始めていた。秋の日暮れは驚くほど早い。木々の隙間から差し込む光はオレンジ色を帯び、それと同時に、肌を刺すような冷たい風が一段と強くなってきた。

「うぅ……、急に寒くなってきたね、宮本くん」

真白さんは首元のマフラーにきゅっと顔を埋め、少し身震いをした。コートを着てベレー帽を被っていても、やはり秋の夕方の寒さはこたえるようだ。

「本当だな。さすがにずっと外にいるのは冷えるわ。駅に向かう途中に、確か新しくできた小さなカフェがあったはずだから、そこでちょっと温まっていかないか?」

蓮が提案すると、真白さんは待ってましたと言わんばかりに、マフラーの中から満面の笑みを覗かせた。

「賛成! 温かい飲み物、すっごく惹かれちゃうな。早く行こ、宮本くん」

二人は公園を後にし、少しレトロなレンガ造りの並木道を歩いていった。五分ほど歩くと、目的のカフェが見えてきた。木製のドアに小さな真鍮のベルがつけられた、隠れ家のようなお洒落な店構えだ。ドアを開けると、カランカランと涼やかな音が響き、それと同時に、店内を優しく包み込む珈琲の香ばしい匂いと、スパイスの甘い香りが二人を迎え入れた。

「いらっしゃいませ」という店員の穏やかな声に導かれ、二人は窓際の小さな二人掛けの席に腰掛けた。卓上には小さなキャンドルが灯されており、外の寒さを一瞬で忘れさせてくれるような温かさがあった。

「私はね、もう決まってるんだ。ふわふわの泡が乗った、ホットミルクティーにする」

真白さんはメニュー表を開いてすぐに指を差した。

「じゃあ、俺は……ブレンドコーヒーで」

蓮は少しだけ背伸びをして、ブラックのコーヒーを注文した。本当は、普段から家で飲むときは牛乳と砂糖をたっぷり入れる派で、苦いブラックコーヒーは少し苦手だった。しかし、今日のような「学校外のデートのようなお出かけ」の場で、真白さんの前で子供っぽいところを見せたくないという、男子特有の小さなプライドが働いてしまったのだ。

やがて、丁寧に淹れられた飲み物が二人の前に運ばれてきた。真白さんのミルクティーの上には、きめの細かい真っ白なミルクの泡がたっぷりと乗っており、シナモンスティックが添えられている。一方、蓮の前には、漆黒の液体から湯気を立てる大人のコーヒーだ。

「おいしそう……。じゃあ、いただきます」

真白さんはスプーンで泡を少しすくい、上品に口へと運んだ。

「ん、すっごく濃厚。生き返るなぁ。宮本くんも、コーヒー温かいうちに飲みなよ」

「おう。いただきます」

蓮はカップを持ち上げ、フーフーと湯気を吹き飛ばしてから、意を決して一口含んだ。

(……っ! 苦っっ!!!)

想像以上の本格的な苦味と深いコクが、蓮の舌を直撃した。あまりの苦さに思わず顔をしかめそうになったが、真白さんがじっとこちらを見つめていることに気づき、必死でポーカーフェイスを維持した。ゴクリと喉を鳴らして飲み込み、何事もなかったかのようにカップを置く。

「ふぅ……。やっぱり、秋の夕方はこういう深いコーヒーが美味いよな」

蓮は精一杯の大人ぶったセリフを吐いた。

しかし、真白さんの目は完全にすべてを見抜いていた。彼女は頬杖をつき、楽しそうに目を細めて蓮の顔を覗き込んできた。

「ふーん、美味しいんだ? でも宮本くん、今、眉間にすっごくシワが寄ってたよ? 無理しちゃって、可愛いね」

「む、無理なんてしてないし! これくらい大人の男なら普通だろ!」

「じゃあ、もう一口飲んでみて?」

「それは……今ちょっと冷ましてるんだよ!」

言い訳をする蓮を見て、真白さんはクスクスと笑うと、自分のミルクティーに添えられていたスプーンを手に取った。そして、自分のカップから、ふわふわの甘いミルクの泡をたっぷりとすくい、蓮の目の前へと差し出してきた。

「はい、これあげる。すっごく甘くて美味しいよ」

「えっ!? ちょっと待て、それって真白さんが使ったスプーンじゃ……」

「そうだよ? 宮本くん、コーヒーが苦くて困ってるんでしょ? ほら、あーんして」

(あーん、だと……っ!?)

静かなカフェの席で、真白さんがスプーンを差し出している。その距離、わずか十センチ。彼女の細い指先と、甘いミルクの泡が目の前にある。周囲のお客さんに見られているかもしれないと思うと、蓮の心臓はブラックコーヒーのカフェインのせいではなく、純粋な動揺で爆発しそうだった。

「ば、バカ! 自分で入れるからいいって! ほら、砂糖あるし!」

蓮は大慌てで卓上にあったスティックシュガーをひったくり、袋を破ってコーヒーの中にバサバサと投入した。

「あーあ、拒否されちゃった。せっかく私の『あーん』だったのに、もったいないな」

真白さんは残念そうにスプーンの泡を自分でパクッと食べると、また悪戯っぽく笑った。

蓮はスプーンで必死にコーヒーをかき混ぜ、砂糖が溶けたそれを一気に飲んだ。しっかりと甘くなったコーヒーは、さっきよりずっと飲みやすくなっていたけれど、それ以上に、真白さんに翻弄されて熱くなった胸の奥の甘酸っぱさは、どんな砂糖を落としても消えそうにないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ