第45話:どんぐり集め
焼き芋を食べ終えた二人は、さらに公園の奥へと歩みを進めた。そこは大きなクヌギやコナラの木がそびえ立つ、少し鬱蒼としたエリアだった。
地面を見つめながら歩いていた蓮は、足元にたくさんの丸々とした茶色い実が転がっているのに気づいた。
「うわ、懐かしい。どんぐりが大量に落ちてるぞ」
蓮はしゃがみ込み、帽子(殻斗)がついたままの綺麗などんぐりを一つ拾い上げた。
「本当だ、たくさんあるね。宮本くん、小学生のときとか集めてた?」
真白さんも隣で腰を落とし、蓮の手元を覗き込んできた。
「集めてた、集めてた! バケツ一杯に集めて、家に持って帰って母ちゃんに怒られるまでがセットだったわ。俺、こういうの探すの、結構得意なんだぞ」
蓮は誇らしげにどんぐりを指先で回した。学校の勉強や都会的なセンスでは真白さんに敵わないが、泥臭い野遊びなら自分の土俵だ。
真白さんはその言葉を聞くと、目をキラリと光らせ、立ち上がってスカートの土を払った。
「へえ、得意なんだ。じゃあさ、宮本くん。ここでまた勝負しよ」
「また勝負かよ。今度は何するんだ?」
「どんぐり拾い勝負。今から三分間で、この周りから『一番大きくて綺麗などんぐり』を見つけてきた方の勝ち。審査員はお互いね」
「いいよ、乗った! どんぐり勝負なら、真白さんには絶対に負けない!」
蓮は自信満々に立ち上がった。
「じゃあ、スタート!」
真白さんの掛け声とともに、二人はそれぞれ木の下へと散らばった。
蓮は本気だった。クヌギの木の根元を重点的に攻め、落ち葉をカサカサと手でかき分けていく。
(小ぶりなやつはいらない……。もっとこう、丸々と太った大物がどこかに……あ、あった!)
大きな木の根の隙間に、まるで栗のようにはち切れんばかりに太った、立派なクヌギのどんぐりが埋まっていた。傷もなく、ツヤツヤと輝いている。
「よし、これなら完璧だ! 勝ったな」
蓮はどんぐりを握り締め、意気揚々と待ち合わせのベンチへと戻った。
三分後、真白さんも何かをそっと握りしめながら戻ってきた。
「タイムアップ。じゃあ、せーので見せ合おうよ。せーの……」
二人が同時に手のひらを開く。
蓮の手の上には、狙い通りの見事な大玉どんぐりが乗っていた。しかし、真白さんの手のひらを見た瞬間、蓮は目を疑った。
真白さんの細い指先の上に乗っていたのは、蓮のものよりもさらに一回り大きく、まるで小さなラグビーボールのような、見たこともないサイズの見事などんぐりだった。
「うわっ、デカっ!? なんだよそれ、どこにあったんだよ!」
「ふふ、あっちの大きな木の裏側。宮本くんが一生懸命落ち葉をがさがさ探してる間に、見つけちゃった」
真白さんは勝利の女神のような笑みを浮かべた。
「くそー、完全に負けたわ。やっぱり真白さんには敵わないな……」
がっくりと肩を落とす蓮に、真白さんは自分のどんぐりを蓮のポケットにぽんと入れた。
「え? くれるのか?」
「うん。それと、宮本くんのどんぐりも私に頂戴?」
真白さんは蓮の手のひらから、蓮が見つけただんぐりをつまみ上げた。
「何にするんだよ、それ」
「私のカバンに入れて、お部屋に飾っておくの。今日、宮本くんと公園でどんぐり勝負をした記念」
真白さんはそう言うと、拾ったどんぐりを丁寧にハンカチで拭き、自分の小さなカバンの中へと大切そうに仕舞い込んだ。
「記念なんて……ただのどんぐりなのに」
蓮は照れくさくてぶつぶつと呟いたが、ポケットの中に入った真白さんの大きな「勝利の証」に触れると、なんだか宝物をもらったような気がして、胸の奥がくすぐったいような、温かい気持ちで満たされていくのだった。




