第31話:最後の勝負
席替え前日、今の席での最後の放課後。
クラスメイトたちが次々と帰宅する中、蓮と真白さんは居残りで日直のプリント整理をしていた。
「あーあ、この席とも今日で終わりか。なんだかんだ、ちょっと寂しいね、宮本くん」
「そうだな。真白さんのからかい攻撃がなくなると思うと、清々するよ」
「嘘ばっかり。じゃあさ、この席での『最後の勝負』をしよ?」
真白さんは、プリントをトントンと机に揃えて、蓮に向き合った。
「勝負? 何するんだよ」
「どっちが長く目を見つめ合っていられるか、にらめっこ。変な顔はなしね。先に目をそらした方の負け」
「へえ、にらめっこか。いいよ、乗った! 最後くらい、俺が勝たせてもらう!」
蓮は今までの敗北を覆すべく、真剣な目で真白さんの目をじっと見つめた。
真白さんの綺麗な黒目が、蓮を真っ直ぐに見つめ返す。
5秒、10秒。静かな教室に、2人の視線だけが交差する。
(……綺麗だな)
ふと、そんな雑念が蓮の頭をよぎった。真白さんの長いまつ毛、透き通るような肌。距離が近すぎて、彼女の吐息まで聞こえてきそうだ。
「……っ」
蓮の心臓が急激に自己主張を始める。だめだ、恥ずかしすぎる。
パッと、蓮は耐えかねて右側に目をそらした。
「あはは! 私の勝ち! 宮本くん、やっぱり弱いなぁ」
「くそ……! なんで真白さんはそんなに平気なんだよ!」
悔しがる蓮に、真白さんは整理したプリントをカバンにしまいながら、ふっと小さく微笑んだ。
「平気じゃないよ? 宮本くんが目をそらしてくれなかったら、私、心臓が破裂しそうだったもん。……先にそらしてくれて、ありがとう、宮本くん」
真白さんはそう言うと、カバンを肩にかけて「じゃあね」と教室を出て行った。
残された蓮は、彼女の言葉の「本気度」を測りかねたまま、夕日に染まる誰もいない教室で、ただただ呆然と立ち尽くすのだった。




