第29話:辞書のハプニング
英語の授業中、先生から「今から辞書を使って、この単語の意味を調べなさい」と指示が出た。
蓮は重い英語辞書を開き、ページをめくっていく。となりの真白さんも、同じように辞書を引いていた。
「ええと、目的の単語は……あ、これか」
蓮がページを指差したのと、まったく同じ瞬間。
「あ、あった」と呟いた真白さんの指先が、蓮の指の上にぴったりと重なった。
「うおっ」
「あ……」
2人の指が、辞書の紙の上で重なり合う。お互いにびっくりして、一瞬動きが止まった。
いつもならすぐにからかってくる真白さんだったが、この時ばかりは、ぱちくりと目を丸くして蓮の指を見つめていた。
「ご、ごめん。真白さんのページだったか」
「う、うん。……宮本くんの指、あったかいね」
真白さんは小さく呟き、ゆっくりと指を引っ込めた。その顔が、いつもよりほんの少しだけ赤くなっているように見える。
「……真白さん?」
「……何でもない。ほら、授業に集中しなきゃ怒られるよ」
真白さんは大急ぎで前を向いた。いつもの余裕のある笑顔ではなく、少し照れたような、動揺したような横顔。
蓮は初めて「真白さんをドキドキさせちゃったかもしれない」と思い、自分の方が急激に恥ずかしくなって、辞書の文字が完全にぼやけてしまうのだった。




