第20話:背中の温もり
夜の住宅街を、蓮の自転車が静かに進んでいく。
後ろに乗っている真白さんは、静かに蓮の背中に頭を預けていた。
「宮本くん……」
「ん? どうした?」
「ありがと。宮本くんが来てくれなかったら、私、どうなってたか……」
「気にすんなって。隣の席の友達なんだから、助けるのは当然だろ」
蓮は前を向いたまま答えた。
「友達」という言葉を使ったが、今の蓮の心臓は、恐怖の余韻とは違う理由で激しく波打っていた。背中に伝わる真白さんの体温と、かすかな呼吸の振動が、ダイレクトに伝わってくるからだ。
「宮本くんの背中、おっきいね」
「え? そうか? 普通だろ」
「ううん。すっごく頼りになる。……さっきの宮本くん、本当に、本当にかっこよかったよ」
真白さんの声は、いつも蓮をからかうときのような軽さは一切なく、心からの本音が溢れていた。
普段なら「からかってるんだろ」と言い返せるのに、今の真白さんのトーンには、それが一切通用しない。
「……そ、そうか。ありがと」
蓮は顔が燃えるように熱くなるのを隠すため、がむしゃらにペダルを漕いだ。
やがて、真白さんの家の前に到着した。玄関の明かりが見え、真白さんはゆっくりと自転車から降りた。彼女の顔には、いつもの落ち着きが少しだけ戻っていた。
「送ってくれてありがとう、宮本くん。……じゃあ、またね」
「おう、気をつけてな。家に入ったら、ちゃんと鍵閉めろよ」
「うん」
真白さんは門扉をくぐり、玄関を開ける直前、もう一度振り返った。
「宮本くん」
「何?」
「私、宮本くんに助けてもらえて、本当に良かった。……おやすみなさい」
真白さんは少し照れくさそうに微笑むと、家の中に入っていった。
残された蓮は、夜風に吹かれながら、自分の背中に残る彼女の温もりをいつまでも感じていた。この日を境に、2人の距離感は、からかいの中にも少しだけ「特別な空気」が混ざるようになっていく。




