第19話:黒い影
夏休みの終盤。蓮は塾の夏期講習が終わり、すっかり暗くなった夜道を自転車で帰っていた。
大通りを外れ、街灯の少ない静かな住宅街の十字路に差し掛かったとき、前方に「見覚えのある白いワンピース」が見えた。
(あれ……真白さん?)
真白さんが、1人でトボトボと歩いている。買い出しの帰りなのか、手には小さなビニール袋を持っていた。
声をかけようとした蓮だったが、すぐに異変に気づいた。
真白さんの後ろ、数メートルの距離を、フードを深く被った怪しい男が、足音を殺しながらピタリとつけて歩いているのだ。あきらかに普通の通行人ではない。真白さんも気進んでいるのか、心なしか歩くペースが早くなっている。
(……ストーカーか!? 嫌な予感がする!)
蓮の心臓がドクンと跳ね上がった。全身に緊張が走る。
いつもは真白さんにからかわれてばかりで、情けない姿しか見せていない自分。だけど、今行かなきゃ、絶対に後悔する。
蓮は自転車のペダルを強く踏み込んだ。
キィッ、と静かな夜道にブレーキ音が響く。蓮は真白さんと男の間に割り込むようにして、自転車を止めた。
「真白さん!」
大声で名前を呼ぶと、真白さんはビクッと肩を震わせ、蓮の顔を見て目を見開いた。
「み、宮本くん……!?」
蓮は自転車から飛び降りると、真白さんの前に立ちはだかり、後ろの男をキッと睨みつけた。
「おい! お前、さっきから何なんだよ! 警察呼ぶぞ!」
蓮の声は少し震えていたが、必死に胸を張って男を威嚇した。
フードの男は、蓮の剣幕と、住宅街の家の電気がパッと点いたのを見て、チッと舌打ちをすると、踵を返して暗闇の中へと走り去っていった。
「……はぁ、はぁ……。行った、か……」
男の姿が見えなくなると、蓮は一気に緊張が解け、その場にへたり込みそうになった。
「宮本くん……」
後ろから、真白さんの震える声がした。振り返ると、いつもポーカーフェイスな彼女が、見たこともないくらい顔を真っ白にして、大粒の涙を目に溜めていた。
「真白さん、大丈夫? 怪我はない?」
「うん……。怖かった、すっごく怖かった……っ」
真白さんは蓮のシャツの袖を、ギュッと両手で掴んだ。その手は、小刻みにガタガタと震えていた。いつも蓮をからかう余裕なんて、微塵もなかった。
「もう大丈夫だから。俺が家まで送るよ。自転車、乗って」
「……うん」
真白さんは小さく頷き、蓮の自転車の後ろ(荷台)に腰掛けた。蓮は真白さんを安心させるように、力強くペダルを漕ぎ出した。




