第17話:図書館のすれ違い
夏休みの宿題を終わらせるため、蓮は地域の小さな図書館にやってきた。
冷房の効いた静かな館内。空いている席を探していると、窓際の席で熱心に参考書を読んでいる真白さんの姿を見つけた。
(あ、真白さんだ……。私服、やっぱり新鮮だな)
声をかけようか迷ったが、真白さんがあまりにも真剣に勉強していたため、邪魔をしては悪いと思い、蓮は少し離れた席に座ることにした。
集中して数学のワークを解き、気づけば2時間が経過していた。
「ふぅ、疲れた。ちょっと休憩するか……」
蓮が伸びをしていると、トントン、と肩を叩かれた。
振り返ると、いつの間にか真白さんがすぐ後ろに立っていた。彼女の手には、1冊の分厚い図鑑が握られている。
「宮本くん、やっぱり。さっきからずーっと背中が見えてたよ」
「えっ、気づいてたの?」
「うん。入ってきたときから知ってた」
真白さんは静かに蓮の隣の席に座った。図書館なので、2人の会話は自然と囁き声になる。
「何で声かけてくれなかったんだよ」
「だって、宮本くんがすっごく真面目な顔して勉強してたから。珍しいもの見たなーって思って」
「珍しいって言うな」
蓮がむっとすると、真白さんは持っていた図鑑を開き、あるページを蓮に見せてきた。そこには、珍しい深海魚のイラストが載っている。
「ねえ、宮本くん。この魚、宮本くんが怒ったときの顔にそっくり」
「似てないわ! どこがだよ!」
「ふふ、声が大きいよ、宮本くん。ほら、司書さんに怒られちゃう」
真白さんは人差し指を自分の唇に当てて「しー」と言った。その仕草があまりにも近くて、蓮は言葉を詰まらせる。
「じゃあ、私はもう帰るね。がんばって、宮本くん」
真白さんはメモ用紙を蓮の机に置いて、足早に去っていった。
残されたメモを見ると、そこには綺麗な文字でこう書かれていた。
『となり、空いてたのに座ってくれなかったから、ちょっと寂しかったな。明日も同じ時間にいるよ』
蓮は思わずそのメモを両手で隠し、静まり返った図書館の中で、自分の心臓の音が誰かに聞こえてしまわないか、本気で焦るのだった。




