第15話:秘密の待ち合わせ
夏休みも中盤に差し掛かったある日の午後。
蓮のスマホに、真白さんから1通のメッセージが届いた。
『今日の夕方5時、いつもの公園のベンチで待ってます。宿題、手伝ってあげる』
(真白さんからの呼び出し……!?)
蓮は心臓が跳ね上がるのを感じた。友達に知られたら絶対に冷やかされる。蓮は家族にも「ちょっと図書館に行ってくる」と嘘をつき、少し早めに家を出た。
夕方5時、セミの鳴き声が少し静かになり始めた公園。
大きな木の下のベンチに、真白さんは座っていた。学校の制服ではなく、白いワンピースに麦わら帽子という、完全な私服姿だった。
(……めちゃくちゃ可愛いじゃん……)
蓮は一瞬、足を止めて見とれてしまった。
「あ、宮本くん。おそい、1分遅刻だよ」
「あ、ごめん。……っていうか、その格好、なんかいつもと違うな」
「変かな? 夏休みだし、ちょっとオシャレしてみたんだけど」
真白さんはワンピースの裾を少し広げて見せた。
「いや、変じゃないけど……似合ってると思う」
「ありがとう、宮本くん」
真白さんは嬉しそうに微笑み、ベンチの隣をポンポンと叩いた。蓮は緊張しながら、少し距離を空けて座る。
「はい、これ。頑張ったご褒美」
真白さんがカバンから取り出したのは、冷たいラムネの瓶だった。2人の分がある。
カラン、とガラス玉が涼しい音を立てる。
「宿題、どこまで進んだ?」
「うーん、自由研究が全然手をつけてなくてさ……」
「じゃあ、一緒に考えよっか。私の研究テーマ、貸してあげてもいいよ」
2人でノートを広げ、あらすじを話し合う。私服の真白さんから漂う、ほのかなシトラスの香りが、蓮の集中力をことごとく奪っていく。
「ねえ、宮本くん」
「……ん?」
「今日、親に何て言って家出てきた?」
「え、あ、図書館に行くって……」
「ふふ、やっぱり。私もね、『友達の家に行ってくる』って嘘ついちゃった」
真白さんはラムネを一口飲むと、遠くの夕焼け空を見つめた。
「2人でお互いに嘘をついて、ここで会ってるの……なんか、デートみたいだね」
「デ、デート!?」
「そうだよ。内緒の待ち合わせ、私服、2人きり。これでデートじゃなかったら、何て言うの?」
真白さんはラムネの瓶を蓮の瓶にカチン、と軽くぶつけた。
「宮本くん。私とのデート、楽しい?」
「……からかうなよ」
「からかってないよ。私は、すっごく楽しい」
真白さんの横顔は、夕日に照らされて少し赤く染まっているように見えた。それが夕日のせいなのか、それとも彼女の本音なのか、蓮には分からなかった。ただ、ラムネの炭酸が、胸の奥でパチパチと甘く弾け続けていた。




