第12話:扇風機
クーラーの効きが悪い古い教室。
真夏の昼下がり、教室の天井で回る大きな扇風機だけが、生ぬるい風を送り出していた。
「あつーい……溶ける……」
蓮は机に突っ伏して、完全に伸びていた。授業間の短い休み時間、誰もが暑さで無口になっている。
パタパタパタ……。
不意に、心地よい涼しい風が蓮の首筋に当たった。
「……ん?」
顔を上げると、真白さんが自分の下敷きを使って、蓮に向かって風を送ってくれていた。
「あ、真白さん。……サンキュ、生き返るわ」
「どういたしまして。宮本くん、本当に暑さに弱いね。犬みたいにベロが出そうだよ」
「うるさいな。これでも耐えてる方だよ」
真白さんはしばらく蓮を仰いでくれていたが、やがて「あー、私も疲れちゃった」と下敷きを机に置いた。そして、蓮と同じように机に突っ伏した。
2人は机に顔を伏せたまま、お互いに向き合う形になった。
距離は30センチもない。真白さんの綺麗な瞳が、すぐ目の前で蓮を見つめている。
「ねえ、宮本くん」
「……何?」
「こうしてると、なんか2人だけの世界みたいだね」
図書室よりも静かな、暑さに気怠い教室。周りの生徒たちの話し声が、遠くのBGMのように聞こえる。
「……何言ってんだよ。みんな周りにいるじゃん」
「聞こえてないよ。みんな暑くて自分のことで精一杯だから」
真白さんは少し目を細めて、蓮の髪の毛に手を伸ばした。前髪のあたりを、指先で優しく整えるように触る。
「宮本くんの髪、意外とサラサラだね」
「あ、おい……触るなって……」
抵抗しようとしたが、暑さのせいか、それとも彼女の優しい手つきのせいか、体に力が入らない。
「ねえ、宮本くん。今、心臓バクバク言ってるでしょ?」
「言ってない……暑いだけだ……」
「嘘つき。私には聞こえるよ? 扇風機の音より大きいもん」
真白さんはクスッと笑うと、机の上で自分の手を少しだけ伸ばし、蓮の指先にツン、と触れた。
「もし、これが暑さのせいじゃないなら……どうする?」
真白さんの言葉が、蓮の耳の奥でじんわりと溶けていく。
キーンコーンカーンコーン。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、2人は弾かれたように体を起こした。
先生が教室に入ってくる中、蓮は自分の胸の鼓動が、本当に扇風機よりも大きな音を立てていることに、気づかない振りをすることで必死だった。




