第113話:上書きされた心理戦
「だって、蓮くんがそんな少女漫画みたいなカッコいいこと、自分の頭だけで考えて言えるわけないもん」
真白はクスクスと笑いながら、蓮の手から木箱を器用に受け取った。先ほどまでの赤みはどこへやら、彼女は完全に主導権を取り戻していた。
「う、うるさいな! 誰に教わったっていいだろ! ちゃんと僕の気持ちで言ったんだから!」
蓮は顔を真っ赤にして抗議する。勝ったと思った瞬間からの急転直下に、恥ずかしさで爆発しそうだった。
「ふふ、ありがとう。いちごのチョコ、すっごく嬉しい。……でもね、蓮くん。勝負としては、まだまだ私の勝ちかな」
真白は木箱を大切そうにカバンにしまうと、一歩、蓮の方へと近づいてきた。夕日の光が二人の影を床に長く伸ばす。
「蓮くんは私を照れさせようと頑張ってくれたけど、結局、今一番顔が赤いのは誰ですか?」
真白は人差し指で蓮の鼻先をトントンと軽く叩いた。至近距離で交わる真白の視線。彼女の首元からは、あの2月のクレープ屋のときと同じ、甘いシャンプーの香りが漂ってくる。
「それは……真白が急に近づいてくるからで……!」
「じゃあ、もっと近づいたらどうなっちゃうの?」
真白はさらに顔を近づけ、悪戯っぽく目を細める。彼女の長いまつ毛がはっきりと見えるほどの距離だ。
「っっ~~~~!」
蓮は完全に言葉を失い、心臓が耳の奥で爆鳴りを始めた。やっぱりこの人には敵わない。いくら作戦を練っても、彼女の圧倒的な「からかい」の前では、全ての防御が紙切れのように引き裂かれてしまうのだ。
「あはは、やっぱり蓮くんの負け。はい、お返しの勝負も私の勝ちね!」
真白は満足そうに笑うと、くるりと背を向けて教室の扉へと歩き出した。蓮はガックリと机に両手をつき、自分の不甲斐なさにため息をつくしかなかった。




