第112話:放課後、ふたりきりの教室
長い長い1日が終わり、終礼のチャイムが鳴り響いた。クラスメイトたちが次々と部活や下校のために教室を出ていき、賑やかだった空間が少しずつ静まり返っていく。
気がつけば、教室に残っているのは蓮と真白の二人だけになっていた。窓からは、オレンジ色の夕暮れの光が差し込み、二人の机を長く照らしている。
「お待たせ、蓮くん。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
真白がカバンを肩にかけ、蓮の席の前に立った。
蓮はゴクリと唾を飲み込み、カバンの奥から例の小さな木箱を取り出した。陸の作戦通り、誰もいない教室、そして夕暮れのシチュエーションは完璧に整っている。
「待って、真白。帰る前に……これ、渡したいものがあるんだ」
蓮は立ち上がり、真白の目をまっすぐに見つめた。緊張で手のひらにじっとりと汗がにじむ。
「これ、先月のバレンタインのお返し。真白がチョコ味と、いちごが好きそうだったから、これにしたんだ。……いつもからかわれてばっかりだけど、本当は、その……いつも一緒にいてくれて、嬉しいと思ってる。ありがとう」
一気にまくしたてた。陸のアドバイス通り、真白の目をじっと見つめたまま、直球の言葉をぶつけた。
真白は差し出された木箱を見つめたまま、一瞬、完全にフリーズした。いつもならすぐに飛び出してくる意地悪なセリフが、彼女の口から出てこない。真白の綺麗な瞳がパチパチと瞬き、白い頬が夕日のせいだけではない赤みに染まっていく。
(し、勝った……!? 真白が照れてる!)
蓮の胸に勝利の確信が湧き上がった。からかい上手の高木さん――いや、真白さんに、ついにリベンジを果たす時が来たのだ。蓮の口元に、自然と満足げな笑みが浮かぶ。
しかし、真白はギュッと自分のカバンの紐を握りしめると、ふうっと小さく息を吐き、すぐにいつもの不敵な笑みを取り戻した。
「……蓮くん。今のセリフ、誰かに教わったでしょ?」
「えっ!? な、なんでそれを……!」
蓮の動揺を、真白の鋭い観察力が見逃すはずはなかった。




