第111話:3月14日の包囲網
ついにやってきた3月14日。学校全体の空気が、どこかそわそわと浮ついているように感じられた。廊下ですれ違う男子たちが、隠し持った紙袋をどう渡そうかコソコソと話している。
蓮は朝から、カバンの奥底にあるいちごチョコの箱を何度も手で触って確かめていた。
「おはよう、蓮くん。なんだか朝から荷物を厳重に見張ってるね? もしかして……泥棒でも警戒してるの?」
ガラリと教室の扉が開き、チャコールグレーのマフラーを少し緩めに巻いた真白が入ってきた。3月とはいえ、朝晩はまだ冷え込むため、彼女のお気に入りのマフラーは健在だ。真白は席に着くなり、蓮の顔を覗き込んできた。
「お、おはよう真白! 泥棒なんて警戒してないよ! ただ、カバンの中身が散らからないように整理してただけだ!」
「ふーん。整理ねぇ……。あ、そういえば今日って何の日だっけ? 確か、何かの記念日だったような気がするんだけどな」
真白はわざとらしく人差し指を顎に当てて、天井を見上げる。その瞳は完全に蓮をターゲットに捉えており、悪戯っぽい光を放っていた。
(ここで焦ったら負けだ。バレンタインの二の舞にはならない!)
蓮は前日の夜に鏡の前で何度も練習した「大人の余裕を醸し出すポーカーフェイス」を意識して、平然を装った。
「さあ? なんの日だろうな。あ、そういえば数学の小テストの結果が返ってくる日だったっけ。真白、点数悪くて心配してるの?」
「あれ? そっち? 蓮くん、今日は随分と余裕しゃくしゃくだね」
真白は少しだけ意外そうな顔をして目を丸くした。蓮の心の中で、小さなガッツポーズが炸裂する。
(よし! 陸の言う通り、直球を隠してギリギリまで焦らせる作戦が効いてるぞ!)
「ふふ、まあいいや。今日の蓮くんはいつもと違って面白そう。放課後、楽しみにしてるね」
真白はそう言ってクスリと笑うと、教科書を開いた。真白の「放課後」という言葉の響きに、蓮のポーカーフェイスは一瞬で崩壊しかけ、危うく自分の唇を噛み切るところだった。




