第110話:作戦会議と小さなお返し
バレンタインデーに真白から本命のガトーショコラをもらってから、早いもので1ヶ月が経とうとしていた。3月に入り、廊下を吹き抜ける風には少しずつ春の匂いが混じり始めていたが、蓮の心の中は嵐のように荒れ狂っていた。理由は言うまでもない。3月14日――ホワイトデーが目前に迫っているからだ。
「なぁ陸……女子がホワイトデーにもらって一番困らないものって何だと思う?」
お昼休み、購買で買った焼きそばパンを齧りながら、蓮は深刻な面持ちで親友の陸に詰め寄っていた。
陸はパックの牛乳をストローで吸い上げながら、あきれたように息を吐く。
「また真白さんのことか? お前、バレンタインのときに俺のアドバイスを台無しにして自爆したクセに、まだ懲りてないのかよ」
「うっ、あれは真白の勘が鋭すぎただけで……! でも今回はお返しの勝負なんだ。真白は『お返しは私を照れさせる勝負の勝ちでもいいよ』って言ってた。つまり、お返しを渡す瞬間に真白を照れさせることができれば、僕の完全勝利なんだよ!」
拳を握りしめて熱弁する蓮を、陸は生温かい目で見つめる。
「まぁ、意気込みは買うけどさ。真白さんを照れさせるなら、中身も大事だけど『渡し方』が全てだろ。変に格好つけるとまた弄ばれて終わるぞ。ここはあえて、直球の王道でいくべきだ。マカロンとかクッキーとか、ちょっとオシャレなやつを、放課後に誰もいない教室で、真白さんの目をじっと見て渡す。これしかない」
「誰もいない教室で、じっと見て……」
蓮の脳内で、夕暮れの教室、真白と二人きりのシチュエーションが再生される。その想像だけで蓮の顔はみるみるうちに真っ赤に染まり、焼きそばパンを喉に詰まらせそうになった。
その日の放課後、蓮は陸のアドバイスを参考に、一人で駅前の駅ビルにある洋菓子店へと足を運んでいた。ホワイトデー特設コーナーには、綺麗にラッピングされた色とりどりの菓子が並んでいる。マカロン、クッキー、キャンディ。それぞれに「特別な意味」があるという噂をネットで見たことがあったが、蓮が選んだのは、小さな木箱に入ったいちごのチョコレートだった。
(真白、あのクレープ屋のとき『ホットチョコベリー』を頼んでたし、きっといちご味のチョコなら喜んでくれるはず……)
店員に「ラッピングはどうされますか?」と聞かれ、蓮は極度の緊張から「あ、普通ので、あ、でも可愛いやつでお願いします!」と挙動不審になりながらも、なんとかお返しを購入した。カバンの中に収まった小さな木箱は、まるで爆弾のようにずっしりと重く、蓮の胸を高鳴らせるのだった。




