第109話:特別な味
「もう、蓮くん。無理してカッコつけなくていいのに」
真白は楽しそうに笑いながら、蓮の手にしっかりとチョコの袋を握らせた。
掴んでしまった真白の手首の柔らかさと温かさが、蓮の手に残っている。蓮の顔は、2月の寒さなど吹き飛ばすほど真っ赤になっていた。
「……手作り、本当に作ってくれたんだな」
蓮が小さく呟くと、真白はチャコールグレーのマフラーに顔を半分うずめ、少しだけ視線を泳がせた。
「うん。クレープのときに、特別なやつ作るって約束したからね。……今回は、ちゃんと中にガトーショコラが入ってるよ。毒味じゃなくて、本番」
いつもならここでさらにからかってくるはずの真白が、ほんの少しだけ恥ずかしそうに微笑んでいる。その姿に、蓮の胸は締め付けられるようにドキドキした。
「ありがとう、真白。……家に帰ったら、大事に食べるよ」
「うん。美味しくできてるといいな」
真白はベンチから立ち上がると、少し前を歩き出し、振り返って言った。
「あ、そうだ。蓮くん。来月、楽しみにしてるね?」
「来月……? あ、ホワイトデーか!」
「ふふ、お返しは『照れさせる勝負』の勝ちでもいいよ?」
夕暮れの公園、白い息を吐きながら悪戯っぽく笑う真白を見て、蓮は「次こそは絶対に勝つ」と心に誓いつつも、手の中の温かいチョコの重みに、どうしようもない幸せを感じていた。




