第105話:バレンタインの前哨戦
クレープ屋での勝負から数日後。2月13日の放課後、蓮は教室で一人、翌日のバレンタインデーのことで頭を抱えていた。
「特別なやつ、作ってあげてもいいよ」
あのとき真白が言った言葉が、頭の中で何度もリフレインして離れない。
(本当に作ってくるんだろうか。いや、絶対に僕をからかうためのウソだ。明日、もしチョコを渡すフリをして空箱だったら……悔しすぎる。先手を打つ方法はないか……?)
そこへ、忘れ物を取りに戻ってきた真白がひょっこり姿を現した。
「あれ、蓮くん。まだ残ってたんだ。もしかして……明日の予行練習?」
「な、何言ってるんだよ! 予行練習ってなんだよ!」
図星を突かれたようで、蓮の声が裏返る。真白はトコトコと蓮の席に近づくと、カバンから小さな、可愛らしくラッピングされた正方形の箱を取り出した。
「実はね、ちょっと試作品を作ってみたんだ。蓮くん、毒味してくれない?」
(き、きた……!)
蓮は身構えた。今ここで喜んで受け取ったら、真白の思うツボだ。「実は中身はただの消しゴムでしたー!」なんてオチに違いない。
「ふ、ふん。どうせ中身は空っぽか、変なものが入ってるんだろ? 僕は騙されないぞ」
蓮が腕を組んでそっぽを向くと、真白は少しだけ寂しそうな顔をして、「そっか。せっかく蓮くんのためにガトーショコラ焼いたんだけどな。じゃあ、他の男子にあげちゃおっかな」と箱を引っ込めようとする。
「えっ、あ、いや……!」
焦って真白の手元を掴もうとした蓮の手は、空を切った。真白はニヤリと笑う。
「あはは、嘘だよ。明日ちゃんと本番のを持ってくるから、楽しみに待っててね」
真白はそう言い残して、軽やかな足取りで教室を出て行った。
一人残された蓮は、自分の単純さに頭を抱えつつも、明日への期待で胸が高鳴るのを止められなかった。




