第106話:2月14日の朝
2月14日、バレンタインデー当日。
蓮はいつもより30分も早く登校していた。教室にはまだ数人しかおらず、静まり返っている。
机の中、カバンの底、下駄箱……。何度も確認するが、当然まだ何も入っていない。
「おはよう、蓮くん。ずいぶん早起きだね」
始業15分前、チャコールグレーのマフラーを揺らしながら真白が登校してきた。
蓮は緊張のあまり、教科書を持つ手が少し震える。
「お、おはよう、真白」
「蓮くん、さっきから机の中を何回も触ってるけど……何か探してるの?」
「な、何も探してないよ! 教科書があるか確かめてただけだ!」
「ふーん。てっきり、私からのチョコを探してるのかと思った」
真白は自分の席に座ると、蓮の顔をじっと見つめてくる。
「っ……、別にそんなの待ってないし」
「本当に? じゃあ、もし私が今日、蓮くんにチョコを渡さなかったら……どうする?」
真白の上目遣いの質問に、蓮の心臓がドクンと跳ねた。渡さない? あの試作品の話はなんだったんだ。
「そ、それは……別に、真白が渡したくないなら、それでいいけど……」
蓮が本気で少し落ち込んだような表情を見せると、真白は一瞬だけ慌てたようにパチクリと目を瞬かせた。しかし、すぐにいつもの大人びた笑みに戻る。
「ふふ、冗談だよ。でも、渡すのは放課後までお預け。それまでお勉強、頑張ってね」
じらすような真白の作戦に、蓮は今日一日、授業に全く集中できそうにない予感がしていた。




