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私はこのゲーム、勝てる可能性がある」
リンはにやりと、恍惚に近い表情を浮かべる。
「奴は私と同じ劣化能力者。予知の命中度も、どれだけ先が見えるかも、効果が弱いはずだ」
頭の中で条件を整理する。
一般的な未来予知は「明日まで」が射程で、命中率は六割。劣化なら基準から四割ダウン――という読みを、自分に当てはめれば、見ることのできる未来は数時間程度、的中率は二割になる。二割なら利用しきれない。二割ならこちらに勝機がある。
「これなら勝てる。奴が何を見ているか、手を読めばいい」
勝算を確信したリンの唇がゆるむ。ちょうどその時、扉が開く音がして、ニヤついたジーンが戻って来た。
「すいません、遅れて」
観客から罵声が飛ぶ。
「ふざけんな、早く負けろ」
「何時間稼ぎしてんだ、死ね」
ジーンは観客を一瞥して、審判へ向けて軽く頭を下げる。
「いやいや、申し訳ない。あっ、審判さん」
「はい、なんでしょうか?」
「ちょっと頻尿でしてね、トイレにちょくちょく行くことになるんだけど、いいかな?」
観客の罵声が一気にヒートする。
「ふざけんな!」
「テメェ、俺たちをイラつかせるな!」
審判が冷たく告げる。
「申し訳ございませんが、そのような処置はとれません。頻繁なら遅延行為と見なし、失格とします」
ジーンの笑顔が一瞬消えた。だがすぐに薄く笑って頷く。
「わかりました」
彼は盤に上がり、味方たちを見渡して低い声で呼びかける。
「異常はないか、皆の衆」
隊長気取りの口調に、味方が一人ずつ返事をする。
「はい、何もされていません」「問題ありません」
ジーンは歩きながら顔色を読み、各々の反応を素早く確認する。リンは内心で冷笑する。
(愚策ね。私の能力は洗脳系。自チームにしかかけていないのなら、外からは見破れるに決まっている。もし相手のチームにも掛けられたら、私の都合のままに操れる。知らん顔をしろと命令すれば、知らん顔する──だが、今は違う)
点呼が終わるとジーンは盤から離れ、自分の席へ戻る。紙に走り書きをしながら、小声で独り言めいた計算をする。
「この手はこっちか、あの手か……ここはこっちで行こう」
彼の目つきは、次の展開を既に描いているようだった。
リンは冷静に手筋を組み立てる。
(この先で一手でも相手の駒を奪えれば、混乱が起きる。駒が指示を無視し始めれば制御は効かなくなる。そうなれば勝利は私のものだ)
その思考の端で、突然、盤面にナイフが突き刺さる。観客席から投げられたか、どこかから放たれたか――刃先が木に深く突き立ち、ポーン役のひとりが飛びのく。生身の人間が驚き、ざわめきが瞬時に広がる。
「何をしているのよ、あなた」リンの声が冷たい。
ジーンは肩を竦めて、飄々と答える。
「気になったんだよね、君の能力がさ」
「そんなので分かるわけないでしょう。ふざけるな」
ジーンは続ける。声は穏やかだが含みがある。
「俺は君らを煽ったことがあっただろ? あの時から違和感があった。俺の側の報告では、君の連中は刑務所でも威張ってた強者が多いらしい。なのに、あの煽りで誰ひとり怒鳴り返さない――それが妙に不自然だった」
リンの額に筋が立つ。
「あっ」
ジーンは静かに説明する。
「恐怖や強烈な感情が作用すると、君の能力は解除される──らしいんだ。ちょっと確かめたかっただけ」
投げられたナイフの近くにいた男が、力なく呟く。
「あれ? ここはどこだ……俺、さっき部屋にいたはずなのに」
ジーンはにやりと笑う。
「ほらね。恐怖が支配的になると、奴らは反応を失う。能力の維持条件が揺らぐんだろう」
リンは低く唱えるように命じる。
「もう一度、かけ直せ」
声に冷たさが混じる。続けて、より厳しい口調で付け加える。
「こんなことで揺らいだところで、貴様の敗北には変わりない。解除されても再びかければいいだけだ」




