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ざわめきに包まれた会場。煌びやかな照明が床に反射し、観客たちの視線は中央の盤上に集中していた。ジーンは人混みの間を縫うように歩き、鋭い視線で辺りを探る。その中でひときわ強い光を帯びた存在――シャルロッテを見つけた。彼女の周囲は自然と距離が生まれ、視線の強さだけで空間を切り裂くようだった。
ジーンは口元に薄く笑みを浮かべ、その背後に静かに近づき、低い声で呼びかけた。「なぁ、シャルロッテ」
唐突に呼ばれたシャルロッテは振り返り、冷たい目で彼を睨みつけた。「……なによ。あなたとは話したくないわ」
ジーンは肩をすくめるようにして微笑む。「お前、チェスは得意か? もし得意じゃないなら、俺と契約してほしい」
「得意じゃありませんが、私一人でやりますわ」
その声は冷たく、背を向ける仕草にも拒絶の意志が滲む。
「別に悪い話じゃない。お前の片目と俺の片目を繋げば視覚を共有できる。そうすれば、お前が盤上に立っていても、俺が指示を出せる」
「ふん……どうせお高い懸賞金の交渉が目的なんでしょ?」
シャルロッテは眉をひそめ、疑いの色を隠さない。
「安心しろ。お前の所持している懸賞金の一割でいい――二千ルクス。それなら文句はないだろ」
ジーンの声は柔らかく、けれど挑発的な響きを帯びていた。
一瞬、シャルロッテの瞳が揺れた。しかし、すぐに強い眼差しを返す。「あなたのことは信用できません。あのゲームで確信しました。あなたは――勝つためなら、人を利用して破滅に追いやる悪魔だと」
周囲のざわめきが二人のやり取りに反応するかのように、ほんの一瞬沈んだ。観客の熱気と囚人たちのざわめきが混ざり合い、場内は不気味な空気に包まれる。
「それに、どうやってやるつもり? そんな芸当、人間にできるはずないわ。片目の視覚だけで盤面の全てを把握して、指示を出すなんて――処理しきれるわけがない!」
シャルロッテの声は少し震え、怒気と驚きが入り混じっていた。
ジーンは何も言わず、微笑を浮かべるだけだ。
(……これは説明しても無駄だ)
口にすれば信用されない。説明しなくても、見せれば伝わる。しかし、現段階で証明する術はない。
そのとき、目の前に別の影が現れた。
「あんた、振られて可哀想ね」
そう言ったのはヘリーナだった。ジーンは微笑を崩さず応じる。「なんの用かな、ヘリーナ。もしかして俺の妨害でもしにきたのか」
「いや、別にそういうわけじゃない。でもさ、あんたと契約しなよ」
「ふーん。俺のことを殺したいと思っているあんたが、なぜ俺と契約するんだ?」
ヘリーナはわずかに顔を背け、口元に苦笑を浮かべた。「確かに、あんたを殺したいわよ。でも私、チェスが苦手なの。ここで負けたら、あんたを殺せないでしょう」
ジーンは軽く肩をすくめ、二人の間に微かな間を作る。視線は冷静で、だが心の奥ではすでに次の手を巡らせていた。盤面の駒を操る感覚――彼の頭の中では、情報処理と戦略が静かに回り続けている。




