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「お父様。私は公務があるので、失礼します」
「いや待て、シュリク。私の部屋に来てくれ、話はすぐ終わる」
「わかりました、お父様」
シュリクは静かに部屋に足を踏み入れた。玉座の間の広さに目をやりつつ、内心で盤上の駒を動かすかのように思考を巡らせる。表情は穏やかで背筋を伸ばしているが、その瞳の奥には冷徹な計算が隠されていた。光の差し込む窓から、廊下の影までを頭の中でシミュレーションする。誰がどのタイミングで動くか、どの情報を掴むべきか――一瞬も思考を止めることはなかった。
「失礼します。お父様。ご用件は、あのジーンという男の件ですか?」
「お前はどう思うんだ? 怪しいと思うか。一応連れて来させるようにしたが」
シュリクは軽く肩をすくめ、冷静に答える。
「そうですね……怪しいには怪しいですが、ナリノの洞察力は優れていますし、ジーンの言い分も間違いはない。……とはいえ、やはり引っかかります」
その瞬間、目の奥で一瞬だけ笑みが浮かぶ。
(……ジーン。お前が本当に無能かどうかは問題ではない。駒として価値があると判断すれば使う。邪魔なら切り捨てるだけのことだ。だが、感情で動く者ではなく、理性で動くかどうかが鍵だ)
「召使の件はどうする?」
「やめておきましょう」
「なんでだ?」
シュリクはゆっくりと答える。
「普通なら、バレる可能性があるのに国に残るのは非合理的です。人は証拠を残さず遠くに逃げるものです。……実は数ヶ月前、我が国の国籍を捨てた召使がいます。関わるなら証拠や他国との交渉が必要になる。その場合に備えて、指名手配として事前に情報を張り出すのが最善策です」
父王はわずかに眉を上げ、微笑んだ。
「流石、我が息子。お前のおかげで、この国はどんどん成長していく」
「滅相にもございません」
「お前は今の国の現状を作った人間だ。私は今からお前を王にしてもいいと思っている」
「私はまだ未熟ですので、まだまだ勉強させていただきます。それでは失礼しますね」
シュリクは部屋を出ると、廊下を静かに歩きながら、思考を巡らせる。
(……とても厄介な相手が出てきたな。アルバント家を問いただしたときの表情は、本当に何も知らないように見えた。揺さぶるべきか……いや、あれ以来、ジーンは「知らない」の一点張り。今国にいない召使が怪しいが、他国にいる以上、この件であまり揉めたくない)
彼の脳内では、すでに次の一手がシミュレーションされていた。ジーンの心理、アルバント家の状況、召使の所在、そして国際的な影響――すべてを駒として扱う冷徹な計算。表向きは従順でありながら、裏では全てを掌握するシュリクの戦略眼は、まさに頭脳派の王子そのものだった。




