33
「それでは皆さん、お待ちかねのゲームです」
ヌルノの声が響くと、観客席から割れんばかりの歓声が沸き上がった。
彼はタキシードの裾を翻し、わざと舞台俳優のような仕草で続ける。
「今回のルールは単純明快! 能力の使用は許可します。ただし――対戦相手へのに対しての能力付与や直接攻撃は禁止ね。
さて、次なる遊戯の名は……“生きたチェス”!」
観客からは口笛と歓声、参加者たちは顔を見合わせ、ざわめきが走る。
ジーンも眉をひそめた。(生きた……チェス?)
「基本は普通のチェスだ。ただし――ひとつ違う点がある」
一拍置き、ヌルノは声を低める。
「駒は“人間”を使う。進んだマスに相手の駒がいれば戦闘だ。勝ったほうが残り、負けたほうは……消える。まあ、チェスと格闘の融合だな」
緊張が場を支配する。
そのとき、一人の狼の獣人が恐る恐る手を挙げた。
「あ、あの……その“駒”って……僕たちのことですか?」
ヌルノの口元が吊り上がる。
「フフ……まさか。そんなわけないだろ。君たちじゃつまらん」
一瞬、くだけた口調。だが次の瞬間には、また芝居がかった声色に戻る。
「囚人を使うのです」
直後、鉄扉が開き、鎖に繋がれた十数人の囚人が引き出される。痩せこけた顔、皮膚に焼き付けられた刻印。
「ご安心を。開始前に“奴隷紋”を刻んでおくのでね。参加者に危害を加えることはできません。……もっとも、君たちが彼らをどう使い潰すかは自由だが」
観客はどっと笑い、囚人たちは呻き声をあげる。笑いとすすり泣きが交錯し、会場全体が異様な熱気に包まれた。
「勝利条件は――相手の王を仕留めることだ。死亡か、チェックメイトか……好きに選べ」
ヌルノの目が怪しく光る。
「質問は他にあるかな? ……無いね? じゃ、俺は用事があるんで」
そう言うと、ヌルノの体は砂のように崩れ、跡形もなく消え去った。
残されたのは、観客の熱狂と囚人たちのすすり泣きだけだった。




