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異世界遊戯  作者: 王子大好物
生きたチェス
33/45

32

二日間、ジーンは部屋に籠もっていた。

――ずっと、というわけではない。

一度だけ、自室を出た。

風呂の時間だ。

共同の浴場は、白い湯気よりも重たいものに満ちていた。

疑心暗鬼。

誰もが互いを値踏みするように睨み合い、誰一人として湯船に身を沈めようとはしない。

掛け湯をして、すぐに立ち去る者ばかり。

湯の熱よりも、視線と沈黙のほうがよほど息苦しい。

それ以外の時間、ジーンは口を閉ざしていた。

食えば眠り、眠れば食う。

ただその繰り返し。

孤独というより、無関心で自分を覆う。

そうして――気がつけば、会場にいた。

観客の大歓声が押し寄せる。

甲高い嬌声、罵声、興奮した笑い。

それは耳障りで、同時に血の匂いを想起させる熱狂だった。

そのざわめきの中、天井から黒い影が落ちてくる。

ヌルノ。

両足を揃えて着地した瞬間、石床がひび割れた。

演出のように、観客のどよめきが大きくなる。

彼は今日もきっちりとしたタキシードに身を包み、舞台俳優のように両腕を広げた。

「さぁ皆さん――魔女裁判、お疲れさまでした!

見事に生き残った諸君、おめでとう!」

喝采と嘲笑が入り混じる。

ジーンは周囲を見渡し……違和感を覚える。

見知らぬ顔がある。

(誰だ……? 生き残り以外の奴が混じってる……?)

ヌルノはその視線を読んだかのように、にやりと笑った。

「おや、気づいたかな? 知らない奴がいるだろう? まあ、すぐに理解できるさ」

そして声色を落とし、言葉に重みを持たせる。

「――これから君たちには“懸賞金”がかけられる」

ざわめきが広がる。

観客席からも、待ち望んでいたとばかりに喝采が飛ぶ。

「そう、それは君たち自身の価値だ。額はゲームごとに変動する。上がる者もいれば、墜ちる者もいる」

一拍、間を置いて。

「そして――懸賞金がゼロになった者は、奴隷か……死。好きな方を選びな」

一瞬で会場の空気が冷えた。

さっきまで喧しいほど騒いでいた観客たちすら、息を呑んだように沈黙する。

ジーンの胸にも、氷のようなものが流れ込む。

「もちろん、ゲーム外で勝手に殺し合うのはご法度だ。しょっぴかれるからね!」

わざと軽口で告げるヌルノ。

その落差が、余計に不気味さを強調していた。

「ああ、そうそう――言い忘れていた」

指を鳴らす。

途端に、宙に無数の紙が舞い、雪のように降り注いだ。

ジーンもその一枚を拾い上げる。

「サービス」と題された一覧に、治療・休息・食事の質向上……と項目が並び、横には金額が記されている。

「その紙にあるのは、懸賞金を消費して利用できるサービスの数々だ。交渉の道具にもなるだろうね」

観客席から笑いが漏れる。

人の命を弄ぶことに快楽を覚える声だ。

ヌルノはさらに笑みを深めた。

「そして――懸賞金によって“ランク”が決まる」

彼の背後に巨大な幕が下りる。そこには三段の階段。最下層には痩せた人影が群れをなし、その上には豪奢な装いの影が並んでいた。

「最下層は農民。君たちは今ここだ」

ざわめき。

ジーンは無意識に紙を握りしめる。

「次に待つのは平民、商人、騎士。……そして最高位は聖職者、貴族」

その言葉に合わせて、観客席の上層に視線が集まる。

絹の衣、宝飾品を纏った者たちがこちらを見下ろしていた。

小馬鹿にするような笑みを浮かべ、グラスを掲げる姿。

「ランクが上がれば、懸賞金の獲得量も施設の質も変わる。君たちの生き様は、観客の前で余すところなく試される」

ヌルノは両腕を観客に向かって広げる。

割れんばかりの歓声が会場を揺らす。

「――そして幸運な者は、観衆に“気に入られる”かもしれない。そうなれば、この遊戯からの脱出も夢じゃない。

さぁそれではゲームを始めようか。」


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