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「悪いが、俺は知らないな。そもそも両親と普段から会話なんてしない。最近話したのも、俺がもうすぐ遊戯に参加するってことで揶揄われただけだ」
ジーンは努めて冷静に言った。だがその声音の裏には、かすかな苛立ちが滲んでいる。
自分が家族からどれだけ遠ざけられているかを、わざわざ口にすることほど惨めなことはない。だが言わねばならなかった。ここで弱みを見せれば、ヌルノの目はさらに鋭くなる。
「だがな、お前の家族も“知らない”と口を揃えたぞ。全員黙りやがって……どういうことだ?」
ヌルノの声は低く、重く、そして苛立ちに満ちていた。まるで獲物を追い詰めた獣のように、今にも殴りかかってきそうな気配が漂っている。
その眼光は鋭く、ほんの一歩間違えればジーンの首筋に刃を突き立てかねないほどの緊迫感があった。
だからこそ、ジーンも一歩も引かなかった。引けば殺される――そんな直感があった。
「俺は本当に知らない。家族の輪に入れてもらえないのに、そんな情報に触れられるわけがないだろ」
言葉には静かな怒りが込められていた。冷たい鋼鉄のような響きが、部屋の中に落ちた。
家族に疎外され続けた記憶が、胸の奥でじくじくと疼く。誕生日に祝われたこともなければ、相談を受けたこともない。ジーンにとって家族は、温もりではなく冷たさの象徴に過ぎなかった。
ヌルノはしばし黙り込み、頭を掻きむしるようにして考え込む。
(確かに筋は通っている……ジーンは無能力者としてここに売られている。そんな奴に秘密を教える理由はない。だが――)
眉間に深い皺が刻まれる。ヌルノは思考を巡らせた。
(あの家に薬を買える金があるのか? 理屈の上では買えはする。だが、破産は免れない。元々あの家は貴族の中でも中程度の地位に過ぎず、財政は決して潤っていない。前から地位の低下が囁かれ、使用人も次々と辞めていった。金に余裕などあるはずがない……。では、誰かが意図的に仕組んだのか? ジーンを嵌めるために?)
疑念の渦がヌルノを苛む。だが彼は結論を出さなかった。
沈黙の後、ジーンが口を開いた。
「念の為に言っておくが、俺は知らないし、俺は関わってもない。だからもうこの話は終わりだ」
その声音は低く、決定的な拒絶の意思を含んでいた。ジーンはこれ以上踏み込まれるのを拒んでいる。いや、拒まなければならなかった。これ以上、相手に嗅ぎ回られては計画の根幹が揺らぐ可能性があるからだ。
ヌルノはじっとジーンを見つめ、やがてふっと口元を歪めた。笑っているのか、それとも怒りを飲み込んでいるのか判別できない、不気味な表情だった。
「あっそうだね。それではまたゲームのアナウンスがあるから、この部屋でゆっくりしてね」
その言葉は軽く、しかしどこか含みを持っていた。まるで「次こそは逃さない」と暗に告げているようだった。
ヌルノが立ち去り、部屋に静寂が訪れる。
石の壁に囲まれたその空間は牢屋に似ていたが、ヌルノは「お前の部屋だ」と言った。だがジーンには、どう見ても監獄にしか思えなかった。
「……やっぱりおかしいんだよな、あいつ」
ジーンは小さく呟き、ベッドの端に腰を下ろした。
ヌルノの言動には常に一貫性がない。性格なのか、演技なのか、それとも何か別の理由があるのか。
どちらにせよ、油断はできない。むしろ、あの男こそが最も危険な存在かもしれない――そう直感していた。
そして何より――。
ジーン自身も、知らぬ間に何者かの手で大きな計画の駒にされている可能性を否定できなかった。




