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あなた……勝負相手に敬意などないのですか?」
シャルロッテの声は震えていた。
「他人を利用して、姑息な方法で勝つ。それで満足ですの?」
ジーンは何も言わずに見下ろす。
それでも彼女は続けた。
「――『勝負を挑まれたら、相手に敬意を持って戦え。卑怯な手を使うのは、賢者ではなく愚者である』」
その言葉を吐いた瞬間、空気が凍りついた。
「……あなたも知っているはずですわ。ワリ・ペネーゼが残した言葉です」
ジーンは小さく笑った。
「ワリ・ペネーゼ、ね」
この国に生きたひとりの男。
勇者と共に魔王を討伐した槍の使い手。
英雄と呼ばれながら、その生涯の大半を戦場で過ごした。
魔王を失った後も、彼は槍を置くことはなかった。
隣国スグリアとの戦争では、ひとりで千の兵を薙ぎ倒したと伝わる。
その戦いぶりは人々の畏怖を集め、彼の言葉は教訓として語り継がれた。
だがジーンは首を横に振った。
「……でも、そいつの最期はどうだった?」
「なにを……」
「死にかけの兵士に、不意を突かれて倒れた。それがワリ・ペネーゼの結末だ」
シャルロッテは息を呑む。
ジーンは静かに言葉を重ねた。
「お前はそれでも、そいつの言葉を立派だと思うのか? 千人を殺した人間の言葉を」
「っ……!」
「“相手を敬え”だと? そいつは敵兵の家族や友人、恋人のことを考えて槍を振るったのか? 結局は大量殺人を飾り立てただけだろ」
シャルロッテは拳を握りしめ、言い返した。
「……私が言いたいのは、結果のことではありません! どんな状況であっても、勝負においては相手を敬う姿勢が大事だということですわ!」
ジーンは目を細め、吐き捨てるように言った。
「一つ言っておくが、勝負というのは自分の欲望を叶えるためにある生物の特権だ。」
ジーンは言い切ると、視線を逸らした。
その横顔は、どこか影を帯びていた。




