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ジーンは口の端をわずかに吊り上げ、盤上の最後の一手を示すように指先を振った。
「そして――吊るしの終了時だ。魔女の呪いで奴らがのたうち回る時、お前らがカードを回収する。二枚以上を押さえれば、そこで決着だ」
沈黙が落ちる。作戦の全貌を理解した瞬間、相手の目がわずかに見開かれた。
「……なるほど。そういう手を考えていたのか。これで俺たちの勝ちは揺るがない」
短く息を吐き、仲間の一人が無造作にナイフを持ち上げた。
「じゃあ――神父の野郎を始末してくる」
そう言い、ダリルとナリノを部屋から先に出させて、その後ジーンが出ていった。
ダリルとナリノは神父の部屋の前にいくと、コンコンとノックをした。
特に反応がないため、ナリノが中に入り、安全を確認した後、ダリルが入った。
そしてダリルが神父を抑える準備をして、ナリノが寝ている神父の横ポケットを軽く触り、カードがあることを確認するとすぐさまポケットからカードを抜いた。そうすると目の前で首を掻きむしりもがき苦しみ始めた。
ナリノ達は焦り口を抑えた。神父はそのまま息がなくなった。二人ともバレずにいけたと思われたが、ヘリーナにバレていた。
彼女はクローゼットの中から見ていたのだ。
心臓が跳ねた。
(ナリノが……人狼……)
その事実が、冷たい杭のように胸に突き刺さる。息が浅くなり、喉の奥がひゅっと鳴った。
見間違いじゃない。暗がりでも、あの横顔を見間違えるはずがない。
何度も、何度も、夢に見た横顔。笑うときの目尻のしわまで、知っている。
なのに――その手は、神父の命を奪っていた。
もうあの優しさのある子供のような彼ではなく、汚い大人の顔だった。
それでもヘリーナにとって、ナリノはナイトだった。
ヘリーナは無能力者なため、遊戯に売るために両親が部屋に閉じ込めたのだ。
その額は高額ではないものの、平民の食費の半月分だったため、こうなった。
そんな夜の日、暗い部屋の中でひとり丸くなっていたとき、窓越しから――コン、コン、と小さな音がした。
カーテンをそっとめくると、そこにいたのは近所の少年、ナリノだった。
ナリノはもともと市場の荷運びを手伝う働き者で、誰にでも分け隔てなく笑う少年だった。
「逃げたいか?」
そう囁く声は不思議と落ち着いていて、ヘリーナは何も考えずにうなずいていた。
その夜、二人は人目を避け、裏路地を走り抜け、町外れの土手まで抜け出した。
月明かりに照らされた横顔を、ヘリーナは忘れたことがない。
あの時、彼は確かに自分を守ってくれる“ナイト”だった。
……だからこそ、今目の前にいる“人狼”としての彼を受け入れられない。
そしてヘリーナは必死に思考を巡らせる。
(ジーン……あの男はどっちの味方なんだろう。表向きは村人だろうけど……吊られるのを避けたいだけかもしれない。いや、吊るしの後の“呪い”を恐れているのかもしれない……)
頭の中で、可能性がぐるぐると渦を巻く。
(もしそうなら、私を駒にして……この二人を始末させようとしている? でも、投票は一人しかできない……)
胸がぎゅっと締めつけられる。
(となると……私は狙われる? いや、昼の間は襲撃はない……? じゃあ――昼のうちに、私が動くしかない)
思考は混乱している。それでも一つだけ、はっきりしていることがある。
(ナリノを……助けなきゃ)
唇を噛み、ヘリーナは気配を殺したままクローゼットの闇に沈んだ。




